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助けたい気持ち

 あっという間に道場の時間が終わって、私とジョットは帰り道を歩く。
 そんな時、公園の方で騒ぎが聞こえた。
 不穏なそれに、私は立ち止まってしまう。

「祈里、少しいいか?」
「え? うん」

 どうしたのかと思ったけど頷くと、ジョットが公園に向かった。
 目を見張ったけど、私も小走りでついて行くと、公園で、大人に囲まれている男の子と女の子がいた。

 男の子は雲雀恭弥。女の子は知らないけど、雲雀恭弥に守られている。
 でも、大人の一人が警棒を出して、雲雀恭弥に向けて振り下ろした。

「恭君!!」

 女の子が叫ぶ。
 信じられない光景に、思わず口に手を当ててしまった。

 だって、幼い子供を容赦なく、それも殺す気で殴るなんて……。

 助けないと。そう思った直後、ジョットが走り出した。

「えっ!?」

 まさか自ら首を突っ込むとは思わなかった。
 先を越されてしまったけれど、武器もなく突っ走るジョットに、大人達が意識をそちらに向けてしまった。

 ああもう、見てられない。

 私は鞄から一本の棒を取り出し、大人達がジョットに注目した隙を衝いて、私も特攻。

「ガッ!?」

 気配を殺して背後に行くと、女の子を掴んでいる男の頭に向けて棒を振り下ろす。
 ただの棒ではない。特注の伸縮式の棒は、中国発祥の棍棒術や、日本の古武術の棒術に使う竿状の武器だ。

「な、何だこのガキ!?」

 狼狽うろたえる大人達。
 隙を逃さず、遠心力を加えて棒を振るう。
 身長差があるため、まずは足を殴る。倒れた瞬間を狙って、鳩尾を一突き。

「ガハァッ!」

 男は悲鳴を上げて倒れる。
 大人は三人だけだったから、私が一人を倒した隙にジョットも二人目を殴り倒した。
 その時のジョットの額には、橙色の炎が灯っていた。

「な、なに……それ……?」

 女の子が戸惑いながら呟いたけど、私は応えない。
 代わりに無事を問う。

「怪我はない?」
「……は、はい」

 頷いた女の子に、ほっとまなじりを下げる。
 すると女の子は息を呑み、頬を淡く染めた。

「……なんで助けたの」

 不意に、地面に倒れていた雲雀恭弥が起き上がって言った。
 睨むような視線に、思わず苦笑してしまう。

「助けたい気持ちに理由なんてないよ」
「君、怖くなかったの」

 的確な指摘に、一瞬言葉が詰まる。

「……怖かったよ。人を傷つけるのも、嫌だった。けど、それで助けられなかったら、きっと後悔するから。……お人好しでごめんね」

 切なさを込めて微笑めば、雲雀恭弥は目を見張った。
 そして、プイッと顔を逸らす。

「……神永祈里だったね、君」
「あ、うん」
「覚えておくよ」

 ……これは、フラグが立ったのでは?
 ちょっと困ったけど、でも、後悔はない。

「祈里」

 後ろからジョットが声をかけた。
 携帯電話を閉じた彼は、険しい顔をしていた。 何かに耐えているような、そんなつらそうな顔だ。

「叶恵さんに連絡した」
「え……あ、ありがとう」

 普通は警察を呼ぶべきだけど、ジョットはこの地域の交番の番号を知らない。だから家にいるお母さんに連絡するのが適切な判断だ。
 お礼を言うけど、ジョットの表情は重苦しそう。

 そして――拳を握り締めて小さく頭を下げた。

「すまなかった」

 急な謝罪に、え?と目を丸くする。

「祈里を巻き込むつもりはなかったのに……」

 ……あぁ、そうか。ジョットは、私が首を突っ込むと思わなかったのか。
 でも、今回はジョットが罪悪を感じなくてもいい。

「私はね、二人を助けたかった。でも一番は、ジョット君に怪我してほしくなかったの」

 重苦しい顔に罪悪感を滲ませている。
 そんなジョットは見たくなくて、微笑んだ。

「無事でよかった」

 心からの言葉を温かな声で言えば、ジョットは目を見開く。
 固まったけれど、口を引き結んだ。

「……すまない」
「謝らないで。違う言葉がいい」
「……ありがとう」

 困ったような笑顔を浮かべて、ジョットは言った。
 謝るより、お礼の方が断然嬉しいからね。

 満足した私は、ジョットの手を握って笑いかけた。

「あ、あの……!」

 不意に女の子が声をかけてきた。
 顔を向けると、彼女はギュッと自身の手を握って名乗った。

「あの……私、幸村ゆきむら綾香あやかって言います。名前……聞いてもいいですか?」

 子供らしくない、慎重で丁寧な言い方。

 雲雀恭弥といるし、もしかしたら彼女は……。

「……神永祈里。彼はジョット・レオネッティ」
「恭君を助けてくれて、ありがとうございます。それで、あのっ、祈里ちゃん……って、呼んでいいですか?」

 雲雀恭弥を親しげに呼んでいるなら、幼馴染だろう。

「……うん。いいよ」

 私の予想は確定したかもしれない。


 ほどなくして到着したお母さんは、知人らしい警察に頼んで倒れている男達を連行してもらった。
 帰ったらお母さんにも怒られたけれど、でも、後悔はなかった。



 あとはジョットに真実を話さないといけない。
 でないと不誠実だと思うから。


 たとえ、彼に嫌われたとしても――。



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