物語のはじまり
あっけない終わり≠迎えた。
願い続けた始まり≠ェ訪れた。
私は、その世界の物語≠知っていた。
私は、その世界の未来≠識っていた。
運命は定まっていない。
全てが砂粒のような無数の可能性で満ちている。
運命は可能性≠ニいう名の選択肢の向こう側にある。
それを知り、理解しているからこそ、私は足掻いてきた。
だから忘れていた。
運命の物語≠ヘ、いつだって予測できないものなのだと。
◇ ◆ ◇ ◆
標高6000メートルの雪山にある施設へ帰還して一週間。
これまで溜め込んだ財産の二割をつぎ込んで、趣味や必要な資料や物資、道具、欲しかった食料品などを買い込んだ。
短い帰郷も怒涛の早さで過ぎ去って、その名残から寂しさを覚えた。
なぜなら、もうすぐ物語≠ェ始まるから。
「あれ? ロマン君はいませんか?」
医務室に行くと、担当医が「さぼりだ」と苦笑いした。
「今日からファーストミッション≠ェ行われるからな。急いで探した方がいいぞ」
「うん。ありがとう」
お礼を言って、長い通路を走る。
物語≠ノ間に合うために――。
ここは人理継続保障機関フィニス・カルデア。
人類史を長く強く存続させるための研究所にして観測所。
不安定な人類の歴史を安定させ、未来を確固たる決定事項に変革させることで、人類の決定的な絶滅を防ぐ。
霊長類である人の理――即ち『人理』を継続させ、保証する各国共同の特務機関。
私――神崎詩那は、十二歳で研究員兼技術者として、カルデアに勧誘された。
しかし、半年前からカルデアの心臓部である地球環境モデル『カルデアス』の青い光――百年続くはずの人類史の証明――が変色し、近未来観測レンズ『シバ』による文明継続の未来が観測できなくなった。
そこで二代目所長オルガマリー・アニムスフィアが手を打つため、霊子転移適性のあるマスター候補たる魔術師38名、適性のある一般枠10名、計48名の人員を各国に承認されて集めた。
私はマスター候補の魔術師として、8名で編成される先行部隊Aチームに配属される予定だった。
だが、今の私は栄えある先行部隊に配属できなかった。
理由は現在、魔術師として魔術回路が不安定な状態なのだ。
先行部隊に必要なものが欠けている。そのため、先行部隊の後に出撃するサポート要員として組み込まれている。
だから、医療チームの最高責任者であるロマニ・アーキマンに、一度バイタルチェックを受けないといけない。
「ええと、確か……あ」
そういえば、最後の一般枠の48番目≠フマスター候補が到着した頃だ。
だとしたら――
「あの子≠フ部屋だ」
ぽんっと握り拳で手のひらを叩き、一般枠のマスター候補生専用の居住空間に向かった。
この世界は私の知っている世界だと、転生≠オて数年で理解した。
魔術師。聖杯戦争。サーヴァント。
――『Fate/シリーズ』
シリーズの中で最もストーリー性が高く、とても長い壮大な旅路を描いたゲーム。
『Fate/Grand Order』――私は、その世界の魔術師に生まれ変わったのだ。
物語にいないはずのイレギュラー≠ニして。
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