修行の条件


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 今日もサーヴァントたちを引き連れて素材狩りに勤しむ。
 順調に集まってくると、本日のメンバーであるアルトリア・リリィがエネミーの攻撃に弾かれてしまった。
 剣を手放さなかったのはいいが、ガラ空きになる胴体。

 慌てて結界魔術による『障壁』を行使して、エネミーの攻撃を防ぐ。

「リリィ、大丈夫!?」
「は、はい……!」

 声をかけると瞬時に体勢を立て直す。それでも足元が覚束ない。

 やっぱりアーサー王となる前のアルトリア・リリィは実戦経験が少ないようだ。
 少し、考えてあげないとなぁ。


 周囲のサーヴァントに気を配って、時々魔術礼装のスキルで補助を行って、本日の素材集めは終わった。

「みんなお疲れ様」
「マスターも。礼装のスキルを使うタイミング、なかなかよかったぞ」
「本当?」

 ああ、と頷く契約したサーヴァントの一騎、アーチャー・エミヤ。
 ほっと安心すると、もう一騎、契約したサーヴァントが不機嫌そうな顔で言った。
 アヴェンジャー、ジャンヌ・オルタだ。

「それにしても、あなた。本当に最優と名高いセイバー? まるで戦い慣れていないようですけど」

 厳しい指摘に、アルトリア・リリィは口を引き結ぶ。
 見兼ねたエミヤが注意しようとするが、先に私が口を開いた。

「慣れていないなら、これから慣れればいいよ。幸いにもカルデアには剣の達人がいるし……あ」

 そういえばアルトリア・リリィの大人版のサーヴァントがたくさんいる。
 未来の自分から手解きを受けるのは憚られるリリィでも、藤丸君が引き当てた彼女なら……

 ぽんっと片手に拳を載せた私に、ジャンヌ・オルタが怪訝な顔をする。

「どうしたのよ」
「うん、いいことを思いついて。ねえ、リリィ。あなたがよければだけど……」

 私の提案に、リリィは顔を上げて目を輝かせた。



◇  ◆  ◇  ◆



 カルデアに帰還すると、真っ先に食堂に行く。
 食堂にはお目当ての人物がいるからだ。
 食堂に訪れると、先に夕食をとっている藤丸君とマシュを見つけた。

「あ、詩那さん! おかえり。どうだった?」

 今でも敬称は変わらないけれど、敬語が抜けた口調で気さくに話しかけてくる藤丸君。
 最初と比べて進展したなぁ、なんてしみじみ思いながら、ぐっとサムズアップ。

「ばっちり。これでジャンヌ・オルタを再臨できるよ」
「え、てことは……もう三回目の霊基再臨? 早っ!」
「さすがですね。上級の戦闘も無傷で戻って来られるなんて」

 マシュが称賛の言葉をくれた。
 嬉しくて「ありがとう」と言い、本命の人物を探す。

「アルトリア・オルタ、見かけなかった?」
「あ、うん。あそこに……めちゃくちゃ不機嫌そうだけど」

 藤丸君が指差したそこには、睨むようにあっさり系の料理を見つめるアルトリア・オルタがいた。
 やっぱりジャンクフードのようなこってりとしたものが好きみたい。好都合だけど。

「アルトリア・オルタ。食事中にごめん。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「……詩那か。何だ」

 淡々とした無表情で私を見上げるアルトリア・オルタ。後ろに控えているアルトリア・リリィが怖がっているけれど、覚悟を決めて前に出た。

「あのっ、剣を教えてください!」

 ギュッと手を握って頭を下げるリリィ。
 じっと見たオルタは、私を見やる。

「なぜ私を選んだ」
「リリィはあなたの原点だから。彼女のことなら戦い方の癖とか理解してもらえると思って。もちろん、対価は払うよ」

 先手として対価を持ち出せば、アルトリア・オルタは目を細める。

「……ほう? 私が満足できるものでなければ了承せぬぞ」

 挑発的に言うアルトリア・オルタにリリィは不安がって私を見上げる。
 対する私は、満面の笑顔だ。

「目玉焼きとメンチのお月見バーガー」

 ぴくり、アルトリア・オルタの眉が動く。

「歯ごたえのいいレタスと特製ピリ辛仕立てのチキンバーガー。エビとクリームソースを合わせたエビカツバーガー。白身魚とタルタルソースのフィレオフィッシュバーガー。牛と豚を合わせたハンバーグを使ったテリヤキバーガー。こってりソースと千切りキャベツのメンチカツバーガー」

 私とエミヤが作れるジャンクフードを挙げると、アルトリア・オルタの顔色が変わる。
 さて、ここで仕上げだ。

「五日間でいい。リリィに稽古をつけてくれたら、こういったハンバーガーを昼・夕食に作ってあげる。そして……」

 一呼吸溜めて、告げた。

「牛肉100%の肉肉しいパテ、トマトとみじん切りの玉葱、さらにチーズ、仕上げに濃厚な特製トマトソースを挟んだ王道ハンバーガー。これを、最終日の夕食に、お礼として納めます」
「乗った」

 とどめと言わんばかりの極上ハンバーガーを餌に釣れば、アルトリア・オルタは素早い返事をくれた。
 よっしゃ、かかった!

「五日間だな」
「うん。さすがに材料も限られているから、作るとしたらそれ以上は無理」
「十分だ」

 ジャンクフードになると目の色を変えるアルトリア・オルタのことだ。ジャンクフードの王様・ハンバーガーを目の前にすれば、是が非でも食いつく。

 上納品とするなら上等な料理で勝負しなければ失礼だ。
 幸いにも人理焼却前に買い込んだ食料といった物資はたくさんあるし、虚数空間の中は時間が止まっているから賞味期限切れの心配はいらない。
 それでも先を考慮すれば五日以上は大変だから、五日間が精一杯だ。

「リリィ。明日の十時、シミュレーターへ来い。私の指導は厳しいが、付いてこれるな?」
「は、はい! 頑張ります! よろしくお願いします!」

 強く意気込んでお辞儀するアルトリア・リリィ。そして、私にも「ありがとうございます!」と頭を深く下げてお礼を言った。
 礼儀正しいアルトリア・リリィに癒されて、私は彼女の頭を撫でた。


 余談だが、このやり取りを見守っていた(?)ジャンヌ・オルタは、抱腹絶倒になるほど笑っていたそうだ。


 
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