英霊召喚


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 守護英霊召喚システム・フェイト。
 カルデアの第三の発明と呼ばれる、2004年に完成したカルデアの発明品。
 前所長マリスビリー・アニムスフィアによって作られた、冬木の聖杯戦争での英霊召喚を元に作られた召喚式。
 マシュがデミ・サーヴァントとなったのも、この召喚式によるもの。

 召喚の間と呼ばれる部屋に訪れた私、藤丸君、マシュは、粗方の説明をロマニから聞いて、システム・フェイトで英霊を召喚することになった。

「あの……マシュ以外と契約しても大丈夫なんですよね?」
「カルデアの特殊なシステムのおかげでなんとかなるから。カルデアが発生させた魔力をキミの身体を通し提供している。これによって魔術の素養のない者もマスターになれるわけだ」

 普通は一人一体が限界だけどね、と続けながらロマニは説明する。
 召喚したサーヴァントはサポート役として登録することで、特異点にレイシフトできるように設計されている。
 サポート役として一緒にレイシフトしたサーヴァント以外のサーヴァントを先頭に参加させることもできるが、それはマスターとの契約を辿って『英霊の力の幻影』のようなものを呼び出しているに過ぎない。

「――だから念のためにサポート役のサーヴァントを召喚しよう、という方針になったんだ。藤丸君は既にマシュと契約しているから、今は一体の召喚で様子を見よう」

 そう言って、ロマニは私に向いた。
 ギュッと、無意識に腕を握る手に力が入る。

「幸いにも詩那ちゃんは誰とも契約していないけど、念のために一体だけ召喚してくれ」
「……わかった」

 これは、物語に弓を引く行為。
 私の選択一つで、私が召喚するサーヴァントで、物語が変わる。

 それが……怖い。

「不安かい?」

 ロマニの見透かす言葉に心臓が跳ねるほど痛む。
 確かに不安だ。……でも、躊躇ったら未来はない。
 この未来さきの果てまで戦う藤丸立香主人公は、こんな気持ちだったのだろうか。

「……大丈夫。もう、覚悟は決まっているから」

 不安でも、怖くても、私は『私』を貫こう。

 改めて誓いを胸に抱き、真っ直ぐ前を見据えた。
 そんな私にロマニは何か言いたそうだったけど、口をつぐみ、藤丸君に向いた。

「まずは藤丸君からやってくれるかい?」
「は……はい」

 システム・フェイトの前に出た藤丸君。
 彼は令呪が刻まれた右手を前に突き出し、詠唱を始めた。


「――告げる。
 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
 誓いを此処に。
 我は常世総ての善と成る者、
 我は常世総ての悪を敷く者。
 汝三大の言霊を纏う七天、
 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」


 光が生じ、回転する。
 召喚台が目映く光り、強い力を放つ。
 徐々に光が増していき――天井を着くほどの光の柱が立ち昇った。
 そして、淡く消える光の柱から現れたのは――

「おっと、今回はキャスターでの限界ときたか。ああ、あんたらか。前に会ったな」

 防寒用の外套のフードを被った、杖を持つ男。
 冬木の特異点で出会い、藤丸君たちを導いたキャスターだ。

「……キャスター?」
「どうせなら槍で召喚してほしかったぜ」

 愚痴を言いつつ「ま、しょうがねえか」とフード越しで頭を掻き、名乗った。

「クー・フーリンだ。これで現界は何度目か忘れたが、キャスターってのは初めてだ。勝手が違うが、上手くやれよ。新米マスター」
「……うん。召喚に応じてくれてありがとう、キャスター……じゃなくて、クー・フーリン」
「おう!」

 右手を差し出す藤丸君と握手を交わすクー・フーリン。
 彼が無事に召喚されてほっとしていると、クー・フーリンは私を見て目を丸くした。
 それに気づかず、ロマニは私を呼ぶ。

「それじゃあ、詩那ちゃんも」
「……了解」

 深呼吸を一つ。後ろに控えた藤丸君たちと後退し、右手を向ける。
 そして、藤丸君と同じ――のようで違う、本来の英霊召喚の呪文を唱えた。


「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
 閉じよみたせ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
 繰り返すつど五度。
 ただ、満たされる刻を破却する」


 本来の英霊召喚に必要な前置きを唱えると、右手の甲に熱を感じた。
 熱い。焼けるような熱さだ。
 ぐっと拳を握り締め、一呼吸後に続ける。


「――告げる。
 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
 誓いを此処に。
 我は常世総ての善と成る者、
 我は常世総ての悪を敷く者。
 汝三大の言霊を纏う七天、
 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」


 回転する光が柱のように立ち昇る。
 さっきより強い魔力の波動に腕で顔を庇うように遮る。
 そうして現れたのは、独特な雰囲気を持つ男性。
 白い髪、日焼けによる褐色の肌。筋肉質な体型が纏う赤い装束は、どこか見覚えがある。

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」

 ――そう。『Fate/stay night』で登場するサーヴァント。そして、冬木の特異点で敵対したアーチャーだ。
 まさか物語の原点となるキャラ、元敵キャラを引き当てるなんて……なんて運命だ。

「神崎詩那です。よろしくお願いします」

 緊張するけれど、挨拶のために右手を差し出す。
 エミヤはその手をじっと見つめ、握手に応じてくれた。

「……あ? アーチャーか……?」

 不意に、クー・フーリンが呟く。
 ああ、そうだ。ランサーのクー・フーリンはエミヤと既知だった。でも、キャスターのクー・フーリンは、これが初めてのはずだけど……。

「ランサーか? なんだ、その格好は」
「え。知り合い?」

 藤丸君が困惑気味に訊ねると、お互い我に返った。

「ああ、いや……槍のオレの話だ。っと、改めて自己紹介した方がいいか。キャスター、クー・フーリンだ。ま、よろしくしてくれ」
「……ああ」

 神妙な顔で頷いたエミヤに、少しほっとした。ランサーのクー・フーリンと相性は今一つだから、知的なキャスターでよかった。

「にしても、まさかシーナがお前を引き当てるとはねぇ」
「ここに来て長いのか?」
「いんや、ついさっき召喚されたばかりだ。で、オレのマスターがこいつ」

 クー・フーリンが、隣にいる藤丸君に親指を向ける。
 キョトンとしていた藤丸君は我に返ると、慌てて軽く会釈した。

「藤丸立香です」
「ああ、そんなに畏まらなくていい。私のマスターと違って、君は新米魔術師のようだが」
「ええと……」

 どう説明しようか、と悩む藤丸君に、私が助け舟を出す。

「彼は元一般人だよ。レイシフト適性があって、半ば拉致られてカルデアに来たの。先日の事故で、流れでマシュと契約してマスターになった。あ、マシュはこの子ね」

 片手で指示して説明すれば、エミヤは不憫そうな目で藤丸君を見た。そして、マシュを見て軽く目を見張る。

「彼女は……本物のサーヴァントではないのか」
「デミ・サーヴァントと言います。詩那さんと先輩ともども、よろしくお願いします」
「あ、ああ」

 礼儀正しくお辞儀するマシュに、エミヤは少し動揺してぎこちなく頷いた。
先輩≠ニいう単語ワードに反応したような気が……。

「それと、彼は今のカルデアで陣頭指揮を行っているロマニ・アーキマン。ドクター・ロマンが愛称」
「ゴホン。紹介に与ったロマニ・アーキマンです。これからよろしく」
「……夢見がちな愛称だな。軟弱……いや、臆病? っと……すまない。なぜかそんな印象が強くてね」

 エミヤの痛烈な印象に、「あ……あはは……」とロマニは苦笑い。

「さ……さあて。これからサーヴァントの部屋割りだ」

 気を取り直したロマニが取り仕切り、部屋割りを行った。
 そして、いよいよ最初の特異点へおもむく日を迎えるのだった。


 
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