アーサー王と魔術師クー・フーリンが座に
見届けた私たちは感傷に
「セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました。……わたしたちの勝利、なのでしょうか?」
『ああ、よくやってくれたマシュ、藤丸! 所長もさぞ喜んでくれて……あれ、所長は?』
ロマニが不思議そうな顔をするが、オルガマリーは
「……
「……所長? なにか気になる事でも?」
「え……? そ、そうね」
藤丸君が声をかけると、ハッと我に返ったオルガマリーが不自然に話に戻った。
「よくやったわ、藤丸、マシュ。不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします。まずはあの水晶体を回収しましょう。セイバーが異常をきたしていた理由……冬木の街が特異点になっていた原因は、どう見てもアレのようだし」
オルガマリーにつられて、セイバーが消滅とともに残した水晶体を見る。
宙に浮かんでいるそれは、光の柱がある高台にあった。
「はい、至急回収――な!?」
マシュが驚愕の声を上げる。
「いや、まさか君たちがここまでやるとはね」
私も、その存在の声を聴いて息を呑んだ。
「計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適性者。まったく見込みのない子供だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」
水晶体を手にしたのは、緑色の紳士服の男。
――レフ・ライノール、その人だった。
「レフ教授!?」
『レフ――!? レフ教授だって!? 彼がそこにいるのか!?』
ロマニが驚愕から叫ぶ。
私は通信機のモニター機能をレフの方へ向ける。すると、ロマニと、そこにいるカルデアの職員たちが驚愕する気配を
「うん? その声はロマニ君かな? 君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来てほしいと言ったのに、私の指示を聞かなかったんだね。まったく――
どいつもこいつも統率のとれていないクズばかりで吐き気が止まらないな。人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」
にこやかな顔を向けたが、それも一瞬で一変する。
「――! マスター、詩那さん、下がって……下がってください! あの人は危険です……あれは、わたしたちの知っているレフ教授ではありません!」
マシュが私たちの前に立って守ろうとする。
しかし、オルガマリーはふらふらと前に出たと思うと駆け出した。
「レフ……ああ、レフ、レフ、生きていたのねレフ! 良かった、あなたがいなくなったらわたし、この先どうやってカルデアを守ればいいか分からなかった!」
「オルガマリー! 駄目、戻って!」
「所長……! いけません、その男は……!」
私とマシュが手を伸ばすが、オルガマリーは目もくれず行ってしまう。
私は……彼女を守れないの?
「やあオルガ。元気そうでなによりだ。君もたいへんだったようだね」
「ええ、ええ、そうなのレフ! 管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、カルデアにはかえれないし! 予想外の事ばかりで頭がどうにかなりそうだった! でもいいの、あなたがいれば何とかなるわよね? だって今までそうだったもの。今回だってわたしを助けてくれるんでしょう?」
信頼する大人を慕う子供のように、オルガマリーは
無条件で守ってくれると、疑うことのない純粋な笑顔で。
「ああ。もちろんだとも。本当に予想外のことばかりで頭にくる。その中でもっとも予想外なのが君だよ、オルガ。爆弾は君の足元に設置したのに、まさか生きているなんて」
「――――」
今まで信頼してきた人間。そのレフは裏切り行為を、オルガマリーに突き付けた。
「え? ……レ、レフ? あの、それ、どういう、意味?」
「いや、生きている、というのは違うな。君はもう死んでいる。肉体はとっくにね。トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念になった君をこの土地に転移させてしまったんだ。ほら。君は生前、レイシフトの適性がなかっただろう? 肉体があったままでは転移できない。わかるかな。君は死んだ事ではじめて、あれほど切望した適性を手に入れたんだ」
テストの答え合わせのように優しく語りかけるレフ・ライノール。
だが、オルガマリーには混乱の対象でしかなく……。
「だからカルデアにも戻れない。だってカルデアに戻った時点で、君のその意識は消滅するんだから」
「え……え? 消滅って、わたしが……? ちょっと待ってよ……カルデアに、戻れない?」
「そうだとも。だがそれではあまりにも哀れだ。生涯をカルデアに捧げた君のために、せめて今のカルデアがどうなっているのか見せてあげよう」
レフは時空を繋げる魔術によって、管制室を映し出す。
消火されたようで、炎は完全に消えているが、管制室はボロボロ。
中でも中央に浮かんでいるカルデアスは、真っ赤に染まっていた。
「な……なによあれ。カルデアスが真っ赤になってる……? 嘘、よね? あれ、ただの虚像でしょう、レフ?」
「本物だよ。君のために時空を繋げてあげたんだ。聖杯があればこんな事もできるからね。さあ、よく見たまえアニムスフィアの
「人類の生存を示す青色は一片もない。あるのは燃え盛る
「ふざ――ふざけないで!」
「わたしの責任じゃない、わたしは失敗していない、わたしは死んでなんかいない……! アンタ、どこの誰なのよ!? わたしのカルデアスに何をしたっていうのよぉ……!」
現実を受け入れられないオルガマリーの叫び声。
心臓に、鈍い痛みが走る。
「アレは君の、ではない。まったく――最期まで耳障りな小娘だったなぁ、君は」
レフに向けて魔術を行使しようとする。
しかし、その直前、オルガマリーの身体が宙に浮かんだ。
何かに引っ張られるに支配されたオルガマリーは混乱の声を上げる。
「なっ……体が、宙に――何かに引っ張られて――」
「言っただろう、そこはいまカルデアに繋がっていると。このまま殺すのは簡単だが、それでは芸がない。最後に君の望みを叶えてあげよう。君の宝物≠ニやらに触れるといい。なに、私からの慈悲だと思ってくれたまえ」
それは慈悲とは言わない。
ただ自身の
「ちょ――なに言ってるの、レフ? わたしの宝物って……カルデアスの、こと? や、止めて。お願い。だってカルデアスよ? 高密度の情報体よ? 次元が異なる領域、なのよ?」
「ああ。ブラックホールと何も変わらない。それとも太陽かな。まあ、どちらにせよ。人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」
無限の、死。それは、死ぬより残酷な地獄。
私は――それを阻止するために【言葉】を紡いだ。