「おはよう」
「おはようございます」

机に並べられた朝食に手をつける。
先日買った米に焼き鮭、味噌汁と定番な和食だ。
白米を食べながら臨也は告げる。

「君には中学に編入してもらう。癪だけど俺の妹達と同じクラスだよ」
「それでせんじつ、テストをしたのですね」

5教科から副教科まで中学レベルのテストをやらされたのだ。
何の為だろうと思っていたが、それならば納得だ。
点数は教えてもらえなかったが。

「どうやってこのじきにはいるんですか」
「それは、ほら、この力で」

そう言って人差し指と親指で丸をつくりマネーの印を表現する。

「うらぐちにゅうがくですか」
「そうとも言うね」
「くるまいしまいとおなじクラスかぁ」
「そういえばアイツらとは楽影ジムで会ってるんだったね。忘れてたよ」
「…おりはらさん、どこまでしっているのですか」
「どこまでだろうねぇ」

ニタリ、と笑う臨也に全身に鳥肌が立つ。
久しぶりにこの人のことを恐ろしいと思った。
波江さんに、臨也の職業を教えてもらい、素敵で無敵な情報屋さんだということが発覚した。
そんな職業が成り立つなんて世も末である。

「いつからですか」
「今日からだよ。制服も届いているんだ。こっちおいで」

箸を置いて、臨也の元へ駆ける。

「わあっ!かわいい!」
「うん。似合うね」

鏡の前であわせてみる。
サイズも問題はないだろう。

「なんじからですか?」
「1限目が始まる前だよ。送っていってあげるよ」
「ありがとうございます」
「本当は高校でも良かったんだけどね」

学力は問題なかったんだ、とテスト用紙をちらつかせる。
そこには96、92、87などの数字が並んでいた。

「じゃあこうこうでよかったのに」
「君は小学生の子供を高校に飛び級させる俺をどう思う?」
「…むりがありますね、ははっ…」

乾いた笑みを浮かべて問い返す。

「ごはん、たべおわりましたか?かたづけていいですか?」
「ああ」

ガチャガチャと食器を運び、流しに浸ける。
洗剤をつけたスポンジで食器を洗っていく。
キュッ、と音を立てた。

「××ちゃん、これ鞄ね」
「はい。おいといてください」






学校に着いて臨也と別れ、教室へ向かう。
初めて味わう感覚にドキドキと鼓動が速くなる。

「紹介するから少し待っていてくれ」

そう言って先生は教室へ引っ込んでいった。柄にもなく緊張する××に先生は声を掛ける。

「今日から皆と一緒に過ごすことになった…ほら、自己紹介」
「…××です。ええと、わからないことばかりであしをひっぱるかもしれませんが、よろしくおねがいします」

わっ、と賑わう教室。
その様子に安堵する××。
九瑠舞姉妹はひそひそと何かを話し合っていた。






「××ちゃーん!ご飯食べよー!」
「一緒、食」

むぎゅっ、と抱きついてニコニコと笑う。

「いいよ」

机をガタガタと寄せて弁当を並べた。蓋を開けると彩り良いおかずが見える。

「美味しそう!××ちゃんの手作り?」
「そうだよ。くるまいしまいはおかあさん?」
「肯」
「おかず交換しよ!」
「うん」

何もかもが初めての感覚にワクワクしつつ、おかずを交換する。

「イザ兄に引き取られたんだって?」
「心配」
「よくしてくれているわ」
「はー、ウチで引き取りたかったよー。可愛い××ちゃんがイザ兄の前でくんずほぐれつイケナイ姿を晒していると思うと気が気じゃないね」
「怒」

くんずほぐれつイケナイ姿って…。

「そんなことしてないわよ。もうそうしすぎ。まあ、キスはされたけど」
「ほら、もう手出されてる!イケナイ子だね、××ちゃん。イザ兄ロリコン?」
「ふかこうりょくよ」

そう。あれは不可抗力。
ただの過剰なスキンシップ。

「何かあったら股間を蹴るんだよ?」
「きゅうしょをねらうようなことがあるとはおもえないけどね」
「鈍」

楽しい時間もあっという間。
休み時間も終わり、次の授業に取り掛かる。
黒板を見、ノートを取りながら制服のポケットに手を忍ばせる。
そこには親指サイズの小型盗聴器。

(これでいいのよね、おりはらさん)

そっと手を出して黒板に向き直った。






──琥珀さんが入室されました──



〔今晩はですわ〕

[こんばんは、琥珀さん]

〔セットンさんだけですか?〕



──田中太郎さんが入室されました──



──甘楽さんが入室されました──



【こんばんはー】

〔今晩はですわ〕

《こんばんはです☆》

〔いつもの面子が揃いましたね〕

《琥珀さん、待っててくれたんですか?きゃっ☆私、愛されてますね☆》

〔別に待ってなどいません。私には太郎さんやセットンさんが居ますので悪しからず〕

《太郎さん、フラれちゃいましたぁっ!慰めてくださいっ!》

【ははっ】

《失笑!?》

[まあまあ]

〔それはそうと、オリハライザヤって知ってますか?〕

【折原さん?知ってますよ。有名ですから】

[折原さんがどうかされたんですか?]

〔実は嫌がらせされていまして。多分なんですけど、盗聴器も仕掛けられていまして〕

[盗聴器!?]

《恐いですね…何かあったら私に言ってくださいね!乙女の制裁をくわえます!》

【甘楽さんが乙女ってwww】

《なんで太郎さんが笑うんですかぁっ!》

【いや、だって…アハハハハハ】

《ぷんぷん!と・に・か・く、何かあればすぐに言うこと!》

〔そうですね。セクハラされたら言います〕

〔あと、私、今日から学校に通うことになりましたの〕

[おお。おめでとうございます。どうでした?1日目の学校は]

【えっ、琥珀さんって学生だったんですか?おめでとうございます】

《おめでとうございます☆》

〔有難う御座います。まあ、普通の学校生活でしたね。以前から交流のあった友達も居ましたので、お昼のお弁当のおかずを交換したり…〕

[まさに乙女って感じで良いですねぇ]

【甘楽さんよりは乙女ですねwww】

《もう!太郎さん引き摺りすぎです!》

【しかし、この時期に転入とは珍しいですね。授業とか大丈夫なんですか?】

〔その辺りは持ち前の記憶力でカバーですわ〕

[琥珀さん、頭良いんですね]

【ですよね。あっ、そういえば今日―――】






「××ちゃーん」

扉を一枚挟んだ向こう側では臨也がニコニコと笑っているのがわかる。
優しい筈の声色が、顔は笑っていないと理解するには容易いものだった。

「鍵なんか締めて、どうしたの?ねえ?」
「おりはらさんがおこってるからです」

布団を被ってガタガタと震える××に、仕方ないなぁ、と言って去って行った。



《仔猫がいたずらしたのでちょっとお仕置きしてきますね☆》



──甘楽さんが退室されました──



「こねこ…?」

この部屋などには仔猫なんかいやしない。
その言葉が指し示す本当の意味に気付いた瞬間、

ガチャ、ガチャン。

「××ちゃーん」
「ぎにゃあああああ!!」

恐怖の般若が降臨した。

「お仕置きしに来たよ」
「めがわらっていないです!」
「俺、こんなに優しいのに?」
「こわいです!というか、だれがこねこですか!だれが!!」
「んー?その口振りからするに全部分かってるってことだよねぇ?」

ニヤリ、と笑んだのが分かってしまって。

「きゃー!セクハラですー!たろうさん、セットンさん、たすけてくださーい!」
「ハンドルネームで呼んでも助けになんて来ないよ」
「やさしくてかわいいかんらさん!おとめのせいさいをくわえてください!」
「きゃっ☆例外は承ってません☆」
「いやぁあああっ!」
「ああ言えばこう言うお喋りな口はこれかなぁ?」

ぷに、と唇を押しつけられ、そしてぬるりと舌が割り入れられる。

「んっ…、ふぅ…んんー!」

じたばたと小さな手足を動かし抵抗するが、大人の男の力には敵わなくて。
舌を噛んでしまおうか、と脳裏に過る思いも快楽の前では霞んで消えてしまう。

「はぁっ、は、マスターキーなんて、ずるい、です…」
「言っておくけど先に鍵を締めたのは君だからね?」
「こどもにキスして…たのしいですか…」
「反応は見てて飽きないね」
「ロリコン…」

けらけらと笑う臨也に、××はむっとする。

(いつか、しかえししてやるんだから…)

まだ先かも知れないけど、絶対に折原さんが驚くような女になってみせるんだからっ!
そう、胸に誓う××であった。




新生活、チャットにて再び


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