「ん…、」
ぱちぱちと瞬きし、頭を働かせようと試みるも金属バットで殴られたような痛みに眉間の皺を寄せた。
いたい、さむい、いたい。
交互に襲い掛かる感情に、何がおきたのかと状況を整理しようとして―ーー視線を落とした。
何故か半裸の××は、そのまま額、頬、胸、脚、と触れていく。
紛れもない誘拐だと悟る。
既に暴行されたらしく、身体には真新しい青痣がいくつも残っている。
さて、どうしたものか。
取り上げられているであろう携帯の行方を心配する。
だってあれについているストラップは赤林さんに貰った大切なものだから。
あと失っていけないものは、理性と痛みだろうか。
何があっても平静を保たなければいけない。
ゆるゆると子宮の辺りに触れる。
痛みはない。
強姦はきっとされていない。
では何の為に?
暫くして足音が聞こえ、××は起きた時と同じ体勢になる。
狸寝入りを決め込み、様子を窺う。
「まだ起きねぇのか」
「薬のお蔭でぐっすりです」
「そろそろ起きてもらわねぇとなあ」
こっちも仕事なんでな、と××の背中を勢いよく踏む。
「ぐぁ…はっ…」
「お目覚めかい、お嬢ちゃん」
「だ、だれ……ひっ…!やだ、」
精一杯怯えたフリをする。
こいつらが誰であろうと、××には関係のないことだった。
それよりももっと情報を手に入れることが先決である。
「それは言えねぇなあ。お嬢ちゃん、この姿じゃ街も歩けねぇよなあ。ま、これからもっと酷いことするんだけどよ」
「かえしてっ…!わたしをかえして…!」
そう言うと、ぐいっと前髪を掴まれて顔を上げさせられ、頭皮が痛む。
「お嬢ちゃん、この写真に見覚えはねぇか?」
「そ、れは、…っ」
見せられた写真はチャットで話題になっていたナイスアングルな画像だった。
どうしてあれがここに。
考え、ああそうか、と奥歯を噛みしめる。
「奈倉って人がお嬢ちゃんがゾンビだって言うもんでな。ネットでもお嬢ちゃんがゾンビだって都市伝説がある。取っ捕まえて少しばかり痛めつければ報酬に多額な金をくれるっていうんだ。こんなオイシイ話、他にそうそうないぜ!」
「それで、かくしょうはえられたのかしら?」
「オイオイ、急に冷めるなよぉ。そうだな、バットで殴った時は気絶したが、流石、都市伝説様だなぁ!切っても切ってもすぐに傷が塞がりやがる!本当にゾンビなんだな、お嬢ちゃんはよ」
「もうじゅうぶんいためつけたでしょう。そろそろかえしてくれない?」
「帰してください、だろっ!」
腹を膝で蹴りつけ、ごほごほと噎せかえる××を余所に、後方に控えていた男がデジカメを回し始める。
「痛めつけた証拠を撮らないとなあ」
懐から取り出したナイフを××の服に突き立て、裂く。
ビリビリッと音を立てて破れた洋服からは小さめのブラと地肌が見えた。
「たまんねぇなあ」
舌舐めずりする男に、背中に嫌な汗が走る。
これは危険だ。
デジカメを回す男の頭に黄色いバンダナが巻かれているのが見え、内心舌打ちする。
「あなたたち、こうきんぞくね。こんなのをのばなしにしておくなんてわるいひとね、あなたたちのかしらは」
「今は将軍のことなんてどうでもいいだろうよ。自分の心配でもしてるんだな!」
臨也に助けを求めようにも生憎、盗聴器は鞄の中だ。
自力で脱出するしかない。
のそりと起き上がり、壁に身体を預ける。
それに乗っかり、どうしてやろうかとナイフをひたひたと肌にあてる男。
隙をみて××は男の股関を渾身の一撃を込めて蹴り上げる。
悶絶する男から離れて、後方の男にも蹴りをいれ、近くにあった金属バットをデジカメ目掛けて振りおろす。
壊れた音を確認した××は工場跡地から走り逃げる。
走る。
走る。
走って、走って、走って。
後方から"なんでロープで締めなかった!"と怒号が聞こえて、さらに足を速める。
人にぶつかった。
ごめんなさい、と言う前に顔を上げて驚く。
「っは、おりはら、さ…」
「どうしたのさ、そんな扇情的な姿で」
「た…けてくださ…」
「何て?」
「おりはらさん…たすけてください、」
「もっと」
「…いざやさん!たすけて…!」
「よくできました」
ちゅ、と額にキスをする。
ト、ン。
それを合図に××は闇へと意識を閉ざした。
××を受け止めて、路地裏の死角に隠すように座らせ上着を羽織らせた。
「さて、仕上げだ」
臨也は工場跡地へと足を進めた。
未だに動けずにいる男と、怒り狂う男。
パキ、と靴が破片を踏む音に2人は振り返る。
「だ、誰だ手前!」
「"ちょっと"痛めつけるだけって言ったのに…あの何処がちょっとなのかなぁ?」
「何ブツブツ言ってやがる!あの女の知り合いか!?容赦しねぇぞ!!」
ナイフを構えて切りかかってきた男の手を蹴りあげ、ナイフを落とす。
臨也はバタフライナイフを広げて、
「××ちゃんの傷ついた分だけ傷つけ」
ナイフを男に切りつけた。
「お待たせ、××ちゃん」
下着が見えないようにおぶって、帰り道を歩く。勿論、鞄も忘れずに。
もっと俺だけを求めるように。
もっと、もっと、依存してもらわなきゃね。
old | ◎ | new