「ふあっ!?」
勢いよく飛び起きた××は時計の針を見る。
「9じはん…かんぜんにちこくだわ…」
もうこのまま休んでしまおうかという念にかられる。いけない、と首を振って居間に出る。
「おりはらさんはおしごとなのね」
テーブルにはラップを掛けられたフレンチトーストと昨晩のご飯に出したサラダが置かれていた。
湯を沸かしながら物思いに耽る。
「ゆっくりいこう。3じかんめならまにあうわよね」
シュンシュンとお湯が沸く音がする。
♪寂しくて darling darling
今夜もまた空を見上げて
貴方の名前を呼んでみる
静かな部屋に携帯の着信音が響く。聖辺ルリの「ダーリン」は臨也しか設定していないのでバックを見るまでもない。
「もしもし」
『起きてたんだね。どうだい?ぐっすり眠る××ちゃんを起こさずに出て行った俺は』
「さいあくです。たたいてでもおこしてほしかったです」
『真面目だねぇ。俺なりの優しさだったんだけどな』
「それで、ようじはなんですか」
『今日はもう学校休みなよ。高校見学行きたいでしょ、っていうか行くよね』
「だんていですか」
高校見学か。
もうそろそろ将来を見据えた方が良いかも知れない。
「どこのがっこうですか?」
『来良学園だよ』
××は来良学園の大きな門の前に突っ立っていた。
「ふわぁ…おおきい…」
昼休みの時間であるその時に××は門を潜り、中へと入る。職員室に向かい、先生に挨拶して校内を案内してもらう。
やはりロリータ服では目立つのであろう、生徒から好奇の目で見られ落ち着かない××。
「園原さん、お昼一緒に食べない?」
「はい、是非…」
聞こえてきた会話に顔を上げてそちらを見る。そこに居たのは優しそうな少年と豊満な胸をもつ眼鏡をかけた美少女だった。
―――竜ヶ峰帝人と園原杏里―――…
―――田中太郎と罪歌―――…
お互いネットのことに気付いていないであろう2人は昼の約束を取りつけている最中であった。
「あっ!」
やば、気付かれた…。
じっと見ていたのに気付かれ、ふいっと視線を反らす。その瞳はキラキラと輝いていた。
太郎さんって意外と厄介者かも。
視線、視線、視線。
(いいきぶんではないわね)
はあ、と溜息を吐いて先生についていく。
―――新羅の家から帰ってきた日の晩。
××は部屋のソファに座って臨也に問い質していた。
「たろうさんとさいかさんのしょうたいをおしえてほしいの」
「君は見返りに何をくれるんだい?大したお金も持っていないというのに」
「それは……」
暫く考え込み、何かを決意した目で臨也を見据える。
「わたしのからだをすきにするというのはどうかしら?しんらにたのんでかいぼうするなり、せいよくしょりとしておかすなり、すきにすればいいわ」
「買われている身でよく言えたものだ。確かに君のことを俺は拘束していない。その点については間違ってはいないね」
「じゃあこうしょうせいりつ…」
「の前に、ひとつ」
なんだ、と疑問符を頭に浮かべる××。
「キスしてよ」
「は?」
「契約の印。あ、なんだったらキスマークでもいいよ」
何を馬鹿なことを、と言う前に臨也の顔が迫ってくる。
「出来ないの?じゃあ交渉決裂だね」
「それくらいできるわよ。ばかにしないで」
つい見栄を張ってしまった。
今迄キスなんて臨也がしてくるものに応えるだけだった。よもや自分からするなどと。キスマークなんてもっての他だ。
「ほら、早く」
「……ん、」
唇と唇が触れあうだけの幼稚なキス。
触れるだけの行為なのに、鼓動が速くなる。
「合格点はあげられないね。キスっていうのはこうするんだよ」
顎を掴まれ、顔を上げさせられる。
整った顔が、紅い瞳が、××を見つめる。
唇が触れあい、割り入ってきた舌の、ぬるりとした感触に××は眉間に皺を寄せた。
「ん、ふ…っ」
自分のものと思えない甘い声が溢れる。
これまで何度もキスはしてきた。
それでも、この感覚には慣れることが出来ない。
「ふぁっ…おり、はら…さ…」
何度も何度も角度を変えては繰り返されるディープキス。脳天から足の指先まで痺れるような感覚に××は溺れていた。
鼻から抜ける息に、苦しい、と訴えながらも自然と臨也の肩に腕をまわす。
「なんだ、××ちゃんは下手なりに積極的なんだね」
「…へたでわるかったわね……」
息を整えながら、涙目で臨也を睨む。
おお、こわいこわい、と言いながら舌舐めずりする臨也に鳥肌が立つ。
「性欲処理に身体を使ってもいいって言ったけどキスだけでその様子じゃ保たないんじゃないの?」
何を、とは言わない。
××にだってそのくらいの知識はある。
「せいいっぱいこたえてみせます」
「ふうん。ま、楽しみにしておくよ」
ご機嫌に鼻歌を歌いながらデスクの方へと戻っていった。
(おりはらさんってムッツリよね)
自分の身体年齢と臨也の年齢差を指折り数える。
(やっぱりロリコンだわ)
身体の未来の危機に××は瞼を閉じてポスン、とソファに寝転がった。
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