静雄は強く強く抱きしめた。
その小さな身体を。
「しずおさん、」
「新羅から聞いた。誘拐されたなんて俺知らなくて…」
「しずおさんのせいじゃないわよ」
丸くなった背中に、この人の弱さを見た。
静雄さんの所為じゃない。全ては折原さんの所為。そんなこと言えなくて、心の内にしまっておく。愛しい背中に心が痛み、頭を優しく撫でた。こんなことなら新羅に口止めしておくんだった。
「かるいだぼくよ」
「でもよ…」
「ね、わらって。わたし、しずおさんのえがおがすきなの」
そう言って××は笑う。
静雄もつられて微笑を浮かべる。
「臨也なんかと一緒にいるな。俺と居ろ。俺の方がお前を守ってやれる」
「それはこくはくかしら?」
××の言葉に、ハッとした静雄は手で口を覆って、
「そんなんじゃなくて……いや、そうだ」
「どっちなの」
ふふ、と笑って、でも…と続ける。
「しずおさんにわたしはもったいないわ。もっとすてきなひとをみつけてほしいの。それに…わたしはばけものだから」
貴方を傷つけてしまう。
その言葉は紡がれらることなく、飲み込まれる。静雄の唇によって。
「ん…」
「……すまん」
「やられてからいわれても」
臨也とは違った優しいキス。
壊れ物を扱うかのような優しい優しい、キスだった。
「聞きたくなかったんだ。自分を化物だなんて言うな。お前はたったひとりの小さな人間だから」
「ゾンビなのに」
「そうだとしても、お前は…人間だ」
化物という事実を全否定してくれる優しい人。
「おまっ、何泣いてんだよっ」
「え、あれ…」
拭っても拭っても溢れ落ちる涙。
涙声で静雄に答える。
「ごめんなさ…なみだとまらなくて…」
「ゆっくりで良いから」
ポン、と頭に手を乗せられる。
「しずおさんのこういには…ひっく…こたえられない…うれしいけど…わたしはおりはらさんにかわれた…みだから…しずおさんには…わたしをやしなうほどの…けいざいりょくがない…くやしいけれど…おりはらさんには…それがあるから…」
静雄は、そうか、と呟いて、
「ありがとな」
「ううん…ほんとうに、ごめんなさい…」
「アイツに何かされたらすぐ言えよ。お前には俺がいるんだから」
「はい…」
なんとか涙を抑えて、薄く笑い、静雄に手を差し伸べる。
「ぎゅってしてください。このきもちをわすれないために」
「おう」
握られた手はやはり優しかった。
それを強く握り返す。
「しずおさん、すきです」
「友達として、だろ?」
「わからない…そばにいることはできないけど、すきですよ」
「あんま男に期待持たせるようなことすんなよ。その気になっちまう」
「しずおさんならかまいません」
「お前なあ…さっき言ったことと矛盾してんぞ」
くしゃり、と髪を混ぜられ、××は笑顔をつくる。
「もういかなくちゃ」
「おう。またな」
去りげ際に静雄の頬にキスをして逃げるように走り去って行く××。
そんな××に路地裏で壁に背中を預けてズルズルと座り込む。
「反則だろ…」
ご機嫌で帰宅した××はソファにぽふん、と寝転がる。
「うふふふ」
さっきのことを思い出して頬が赤くなる。
大胆だっただろうか、いや、今更か。
頬にキスなんて、臨也にしたキスに比べれば軽いものだ。
「良いことでもあったのかい?」
珈琲を煎れたマグカップを持って椅子に腰掛ける臨也に、××は頬を引き締める。
「しってるくせに」
「さあ。俺は盗聴器をしのばせているけど、四六時中、会話を聞いている訳じゃないからね」
ギシッ、と椅子が軋む。
××は暫し考えた後、
「おりはらさんにはかんけいのないことですわ」
「そうかい」
臨也の素っ気ない返事。
××は臨也の背後からそっと抱きつく。
「やけに優しいじゃないか」
「そういうきぶんなんです…」
臨也からはシャンプーの良い匂いがした。
静雄からは煙草の匂いがした。
同じ男の人なのに正反対。
なんだか可笑しくて、笑みを溢す。
「誘ってるの?」
「まさか」
暫くこの心地好い空気に浸っていよう、と××は瞼を閉じた。
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