編入して3ヶ月。
嫌でも慣れ親しんだ校舎裏で××は男と会っていた。
「好きです!付き合ってください!」
「はあ…」
どうしたものか、とぼんやり考える。
見知らぬ少年に一大決心であろう告白をされ、どう返すべきかと考える。静雄に言った答えは通用しない相手であり、
「かんがえさせてください」
取り敢えず、そう返事をした。
ざわざわと騒がしい教室のお昼時。
「ねえねえ、××ちゃん!告白されたって本当!?しかも王道な校舎裏で!きゃー!それでそれで、××ちゃんはなんて答えたの?気になって夜も眠れないよ!」
「妬」
「もううわさになっているのね…」
人は、特に女子は噂を好む。どうやら2人も例外だった訳ではないようで、爛々と瞳を輝かせている。××は深い溜息を吐いて舞流の質問に答える。
「かんがえておく、とこたえたわ」
「少年Aは絶望に塗れた訳じゃないのね。なーんだ」
「同」
「ひとのふこうをおかずにしないの!」
弁当の唐揚げを食べながら2人に注意する。ひょいっと××の弁当のだし巻き玉子をつまみ、食べる舞流。
「わたしのたまご…」
「んー、美味しー!××ちゃんさ、人に期待させること言わない方がいいよ。相手もその気になっちゃうから」
「肯」
「うーん…」
「すっぱり断れば良かったのに。なんで?」
「じぶんでもわかんない」
「ふうん…少年Aはきっと一日千秋、楽しみにしてるだろうなあ」
「うう…」
××はトイレ行ってくる、と、やおら立ち上がった。
「いってらっしゃーい」
「もしもし、おりはらさん」
『なんだい、まだお昼だろう。そんなに俺に会いたいの?』
「いや、そうではなく…こくはくされたんですけど、どうこたえればいいかわからなくて」
『君の言いたいように言えば良いじゃないか。それとも相談したらアドバイスを貰えるとでも思ったのかい?』
「う、うう…」
『そうだなあ…メールで送ってあげるからそれを暗記して言えばいいよ』
「ほんとうですかっ!ありがとうございます!」
『しかし、君に告白した子も報われないねぇ』
「そんなひどいこといわせようとしてるんですか?」
『いーや、別に。じゃあね』
ぷつん、と通話が切れる。
程なくしてメールが届いた。
「……はあ?」
内容を流し見て、顔をしかめる。
「ほんとうにむくわれないじゃない…」
ごめんなさい、少年Aさん。折原さんに頼んだ手前、引き下がれません。
教室に戻って弁当箱を片付ける。
さあ、授業の時間だ。
「きゅうによびだしてごめんなさい」
「い、いや…大丈夫だよ」
放課後。
夕焼けに染まる校舎裏で、××は少年を呼び出していた。九瑠舞姉妹は勿論陰から覗き、もとい、行く末を見守っていた。
「それで、へ…へんじ、なのだけれど…」
「はいっ!」
「あなたはわたしのどこをきにいったのかしら?ようし?せいかく?それともこえなんてせんたくしもあるわよねぇ?すきです、つきあってください、なんてありきたりなせりふをならべてそれでまんぞくかしら?とにかくどこをすきになったのかなっとくのいくようにはっきりいってちょうだい」
急に饒舌になった××に、少年Aはぽかんと口を開けた。
「さあ、ほら、いえないの?いえないのならこのおはなしはなかったことに…」
「一目惚れなんです!××さんが転入してきてから俺の人生は薔薇色でした!勿論、声も性格も仕草のひとつずつだって大好きです!」
「わたし、おやがうるさいのだけれど」
「思春期の恋に保護者なんて関係ありません!学生の身分だから不自由させないとは言えませんが絶対に幸せにしてみせます!」
おっと、これは想定外。
まさかの結婚前提のような台詞に××は悩む。これじゃあプランBも駄目だなあ。
メールにあった『分岐点』を頭の中で辿る。
「ごめんなさい、わたし、かれしがいるの」
やっぱりこれが一番効果があるわよね。
「2番目でもいいです!お願いします!」
…あくまでも引き下がらないつもりだろうか。困った、これは困ったぞ。
陰から見守っている2人にアイコンタクトを送ると姿を現した。
「おっ邪魔しまーすっ!」
そう言って、××の唇を奪う。
「ん…ふ、あ…」
暫くして解放されたと思えば、次は九瑠璃の番。
「ふぁ…んっ……」
「私達、これからもっともおっとイイコトするの。邪魔だから…消えてよ」
語尾のトーンを下げて、2人で××に抱きつく。少年Aは「しっ失礼しました!」と言って走り去って行った。
「これでもうあの少年Aは来ないだろうね。××ちゃん、それとも本当にイイコトしちゃう?」
舌舐めずりする舞流に××は首を横に全力で振る。
「あはは、冗談だよ冗談。からかい甲斐があるなぁ」
「唇、美味」
ぷに、と唇を押して2人は笑う。
絡まる腕に××は苦笑する。
後日。
あの日の九瑠舞姉妹の所業によって××は少年Aが発信源であろう噂から両刀であるということになっていた。
男が寄って来て一々告白を断るのも骨が折れるし、まあこれでいいか、と否定しない××であった。
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