夕方、学校終わりに××は楽陰ジムに来ていた。
「わあっ!××ちゃん久し振り!もう来ないかと思ってた!」
ぎゅっと抱きつく茜。それに便乗して九瑠流姉妹も抱きついてくる。
「わわっ!」
「××ちゃん久し振り!会えて良かった!」
「会、嬉」
すんすんと匂いを嗅ぐ舞流に、擽ったいと離れるよう促す。
「今日も稽古していくでしょ?」
「もちろん」
「私が相手してあげる」
胴着の襟を正す茜に××も胴着を正した。
「宜しくお願いします」
「よろしくおねがいします」
「ふう…××ちゃん強くなったね!」
成績は××の4勝1敗だった。
「そう…かな?」
「××ちゃん格好良かったよー!」
「勝、素敵」
「つよくなっているのならうれしいわ」
「なってる、なってる」
「この後どうする?喫茶店でも行く?」
「私、パフェ食べたーい」
「茜ちゃんは甘いものが好きだねー」
「えへへー」
2人ずつ並んで歩く。
前には××と茜、後ろには九瑠璃と舞流。
「そういえばイザ兄、元気?」
「きょうもしごとよ」
「お付き合いしてる人?」
「そう」
「歪んだ愛情は相変わらずでしょ?我が兄ながら恥ずかしいね」
「恥、謝」
「まあ…あのひとのよさでもあるからね」
「えっ、そうなの?良い?」
「わずかなちょうしょよ。たぶん」
近くの喫茶店に適当に入り、パフェとケーキとアイスクリームと飲み物を頼む。
「あかねちゃんはしずおさんにあってる?」
「昨日、会って話したよ!楽しかった!」
「それはなによりで」
「私達は幽平さんに会いたーい」
「憧」
「お待たせ致しましたー。こちら珈琲とメロンクリームソーダと紅茶2つになります」
「メロンクリームソーダ、私です」
「コーヒーはわたし」
「で、私達が紅茶」
店員に告げて、お盆を持った店員は下がる。
「わたし、しょちょうがきたの」
「えっ、おめでとう!」
「ありがとう。それでいざやさんがやろうか、っていってきて…」
「…?やる?何を?」
「はいはい、茜ちゃんは耳を塞いでいましょうねー」
即座に茜の耳に手を当ててそれを塞ぐ舞流。
「赤飯、炊?」
「とうじつとよくじつにさんざんおいわいしてもらったからもうおなかいっぱいよ」
「痛、平気?」
「もういっしゅうかんはたったからへいき。これがまいつきつづくと思うと…」
はあ、と大袈裟に溜息を吐く。
茜の耳を塞いでいた舞流は手を離して、にこにこと笑む。
「イザ兄でもやることはやってるんだねぇ」
「手早」
「まともな理性が残ってるみたいで安心したらお腹減ってきたー」
すかさず店員が注文の品を運んで来る。
「お待たせ致しました、こちら、苺の贅沢パフェで御座います。そしてこちらが宇治抹茶アイスクリームと南瓜のタルト、チーズケーキになります」
「「「「ありがとうございます」」」」
店員は微笑してカウンターの奥に引っ込んでいった。
「いっただきまーす!」
フォークを苺に突き刺し食べる。
「んー…美味しい!××ちゃんも食べる?」
「いただこうかしら」
一口分をスプーンに乗せて差し出されたそれをぱくりと食べ、もぐもぐと咀嚼する。
「おいしいわ」
「でしょ?静雄さんにまた教えようっと」
るんるんとご機嫌な茜に××は静かに微笑んだ。
ピロリロリン♪
ピロリロリン♪
「メールだ。おりはらさん…?」
茜や九瑠舞姉妹と別れた××は門田達のバンと待ち合わせしていた。場所は西口池袋公園。××は携帯を開いてメールをチェックし、閉じる。
「おつかい、ですか」
溜め息を吐いて鞄を肩にかけ直した。
「××ちゃん!」
「わぁっ!かりさわさんかぁ…びっくりした…」
「んふふふ、誰かと思った?」
「い、いや…」
「レッツゴー!いざ行かん、コスプレ喫茶!」
ぎゅ、と握られた手を引かれてバンに乗り込む。
「みなさん、きょうはおせわになります」
「狭いがゆっくりしていってくれ」
「ドタチン、鋭太くんのコスするんでしょ?そのナリで」
「そのナリでは余計だ」
「カオルくんはドタチンのキャラじゃないからねぇ」
「そうっすね。カオルくんは狩沢さんが似合うと思うっすよ」
「えー、私は真涼ちゃんか愛衣ちゃんポジだしなぁ」
「××さんは何コスするんすか?」
「ふぇ!?ええと…かりさわさんにえらんでもらいます」
「やっぱり姫香ちゃんでしょ!××ちゃん小顔だし」
あれよあれよという間に遊馬崎と狩沢の板挟みになっていた××は何のコスプレをするかまで決められていた。原作は狩沢から渡されて読み込んでいたが、いざ自分がそれをやろうとしていると思うと緊張してしまう。
「到着っす」
「さー、楽しもうね、××ちゃん♪」
「は、はいっ」
「はぁ…ちょっとつかれたけどたのしかった…」
帰り道、コスプレをしながら撮影したプリクラ写真を眺めながら息を吐く。
「あっ、おつかい!アタッシュケース…!」
良からぬ物が入っているであろうアタッシュケースを取りに走る。駅の暗証番号式ロッカーの前で呼吸を整えた。
「あんしょうばんごうは…」
紙と睨み合いを続けながらカチカチと番号を回していく。
「よし、あいた!」
ずしり、と重量のあるアタッシュケースを手に、大通りへとゆっくり歩いていく。
「タクシーつかったほうがよさそうね。わたしのためであり、アタッシュケースのためであり…」
タクシー配送会社に電話をして迎えに来てもらう。暫くして、すぐに来てくれた。流石は都会である。
「―――のマンションまでおねがいします」
「はい、分かりました」
すぐにタクシーは出発した。安心したからか、うとうと、眠気が襲い来る。
「おきてなきゃ…もうすこしなんだから…」
「―――さん、お客さん!」
「………すみません、どのくらいねむってましたか?」
「走っている途中からなので大体20分程度ですかね」
「ごめいわくをおかけしました…1万円からで…おつりはいいです」
さっさと立ち去ろうとアタッシュケースを持つ、が、その重量に一気に思考が冴え渡る。
「××ちゃん、ご苦労様」
「…おりはらさん」
「いやぁ、どうしても今日中に欲しかったものだったからね。眠いでしょ?荷物持ってあげる」
「…ありがとうございます…」
玄関ホールでしっかりとアタッシュケースを渡して、さらに眠気が襲い掛かる。
「もう少しだから頑張って歩いて。ほら、エレベーター乗って」
「…はい」
言われるがままに足を動かす。玄関の扉を開いたところで××の視界はブラックアウトした。
その間際に聞こえた、
「お疲れ様、××ちゃん」
その言葉がやけに脳内に響き渡った。
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