「しきさん、おちゃのおかわりいりますか?」
「貰いましょう」

湯呑みに湧かしたお茶を注ぐ。

「お姫さん、ブラインドタッチは得意ですか?」
「おりはらさんのいえでさわらせてもらっていたのではやいほうかと」
「それなら都合が良い。この書類を打ち直して印刷してくれませんか?」

何十枚とある書類には手書きで文字が追記されていた。それを流し見て、ふむ、と考える。××に任された仕事。少しでも手助け出来るなら、と一言返事で承諾した。

「そこのノートパソコンを使ってください。プリンターは使えますね?」
「はい」

ガタガタと椅子を引いてデスクの前に座る。かたたたたん、とブラインドタッチでExcelに文字を入力していく。そうだ、と椅子を引いてお茶を湯呑みに注ぐ。再びデスクの前へ。

「しきさん、わたしにこのようなしょるいをみせていいのですか?」
「然程重要ではないからね。問題ないですよ」
「そうですか」

書類には何かの契約書らしき文字が書かれていて。ああ、そうか。私が売られた時もこういったものを使ったんだ、と一人納得する。




カタカタとタイピングの音だけが部屋を支配する。

「ふいー」

ぐっ、と伸びをして印刷が終わるのを待つ。

「お疲れ様です」
「ひゃうっ!びっくりしたぁ」

ひたり、と首筋に宛がわれたジュースを受け取り、プルタブを開ける。

「全て完璧ですね。御苦労様でした」
「やりがいのあるおしごと、ありがとうございました」
「実はまだあるのですが…またの機会にしましょう。お姫さん、ジムに顔を出しては如何です?まだ昼間ですし」
「おことばにあまえようかしら」
「赤林を同行させます。ごゆっくり」
「はい」





「お姫さん、着きやしたよ」
「ん…」

眠っていたようで、胴着のままジムに上がる。

「××ちゃんだ!わーい!」
「来、嬉」
「おや?既にお知り合いでしたか。丁度良いですね」
「ん、あかばやしさん、くるまいしまいとおしりあい?」
「ええ、まあ」

色眼鏡のブリッジを上げて、ふ、と笑う。

「お姫さん、ごゆっくり」
「はぁい」






「はあ…はあ…つぎのちょうせんしゃはだれ?」

ジムに通っている人達を片っ端から潰していく××。
まだ足りない。強さが足りない。

「××ちゃん、アクエリ」
「ありがとう」

アクエリアスを飲んで喉を潤す。

「××ちゃん、15勝だよ」
「凄、勝」
「まだまだ…」

ふらり、身体が揺れる。
目眩だ、と思った時には既に遅く、身体は床へ。

「××ちゃん、××ちゃん!?」
「大丈夫?」

××は頭が真っ白になって意識が遠退いていく。最後に聞いたのは九瑠舞姉妹の慌てた声だった。




「ん…、」

目を覚ました××は辺りを見渡す。そこはジムではなく、粟楠会事務所の一室だった。

「お姫さん、気が付きやしたかい?」

赤林の声に後方を見やる。

「どうしてここに?」
「過労だそうですよ。ジムで無理し過ぎたみたいですねぇ」
「そう…」

やはり、日頃から体力をつけないといけないらしい。明日からは走り込みだな、と思う××。

「暫くは大人しく寝ていてください。精々明日からは運動、なんて考えないように」

思考が読まれていた。
はい、と短く答えて布団を深く被る。
明日から当分暇だなあ、と考えながら襲い来る睡魔に身を委ねた。



仕事と、ジムと


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