「なんですか、これ」
デスクの上に大っぴらに広げられている書類に――勝手にだが――目を通す。男性の写真が書類とともに何枚も複数の封筒に其々入れられている。
「お見合い写真だよ」
「いざやさんの?」
「君は俺が男と見合いしろっていうのか」
「いったいだれの……あっ、なみえさん!?」
「あれは弟命だから見合いなんて無理だね」
「じゃあ…だれ?」
「本当に天然だねぇ」
わしゃわしゃと髪を撫ぜられ、臨也はにこりと微笑む。
「君の見合い写真だよ」
「わたし、の…みあい………えーーー!?」
此処一番の大声で××は驚いた。
「合格おめでとーうっ!」
とある昼下がり、喫茶店で制服姿のまま××達はお茶をしていた。今日は九瑠舞姉妹の奢りだと言うからホイホイ着いて来てしまった。
「くーちゃんとまーちゃんもね」
「うんうん!お互い合格出来て良かったねー!」
メロンソーダを一気に飲み干す舞流とチーズケーキにフォークを刺す九瑠璃。その向かい側でクレープを食べながら××は微笑む。九瑠璃と舞流は文武両道であり、実際強いし、成績優秀なので心配はしていなかった。
「確か××ちゃんが首席だったよね?来良でスピーチするの?」
「そうね…まだわからないけど、まかせられたらひきうけるわ」
「ヒューヒュー!真面目ー!」
「格好、良」
「それよりわたし、ほんとうにおごられちゃっていいのかしら」
「それについては心配しないで!イザ兄に××ちゃんを何処かへ連れて行け、って福沢諭吉渡されちゃったから!」
「…いざやさん…さんざいしすぎ…」
「あははっ、愛されてるよねぇ」
「くーちゃん、まーちゃん…その…ありがとう」
「私達からもありがとう。××ちゃん大好きっ!」
「同、好」
「えへへ〜…」
固くなった表情を崩して薄く笑う。
「あっ、ちょうどたべおわったし、わたしかえるね!ちょっとようじが!」
「イザ兄絡みだ?」
「う、うーん…いっちゃえばそうなんだけどね。じゃあまたあした!」
「ばいばーい」
「再」
それが3時間程前の出来事だった。
「で?」
「で……どうしましょう」
「まぁいいや、写真だけでも見ておいてよ。決めるのは××ちゃん次第なんだからさ」
「はあ」
××は何枚もの写真を見つめる。平凡なサラリーマン、証券会社の七光り、株で大勝ちした人…様々な書類を読み漁った。
「君の血筋が欲しいみたいだ。どうもネブラに君の事が伝わってしまってね。まぁあんなに堂々と行動してれば見つかるけどさ」
「ふうん…ゾンビのちすじがほしいなんて、よのなかくさってますね」
「科学的に成果が欲しいんじゃないかな…でもそうやって自分を卑下するのはいけないなあ」
ぽこん、と丸めた週刊誌で頭を叩かれる。
「だって…わたし、けっこんするきなんてまったくないんですよ?」
「俺だって何処にもやる気はないよ」
これが運命だ。如何にもそう言われているみたいで。えーっと…、と言い淀む。
「けつろんでてるんじゃないですか?」
「見せておくくらいはしたほうがいいでしょ。いらないなら没収〜」
素早く没収され、ライターで書類に火をつける臨也。じりじりと写真と書類が燃えていく。
嗚呼、この人には嫉妬なんて感情、微塵もないんだ。
「××ちゃんさあ、自分の立場をまさか忘れた訳じゃないよね?」
「え、ああ…」
燃えカスの行方を目で追っていると、臨也から懐かしい言葉を切り出された。
私の立場。
『わたしのからだをすきにつかえばいいわ。しんらにつきだすなり、せいよくしょりにつかうなり―――…』
「…おぼえてます」
「だよね?で?」
「わたし…おかされるんですか…?」
「それは自分の身に聞いてみないと分からないことでしょ」
声を押し殺して小さく頷いた。
あれ…、涙が…。
恐怖心からだろうか、カタカタと肩の震えが止まらない。
「別に犯す気はないから心配しないでよ。ああ、それと新羅にも突き出さない。まあそこは安心していいよ…ただ…」
「…ただ?」
「うん、内緒☆」
何それ。
心の中がモヤモヤする。
自惚れてしまっても良いのだろうか。
私をきちんと好きでいてくれるのだろうか。
「っく、い、いざやさぁあん…っ、ごめんなさい、ひっ…う、わるいところ、なおすから…もうきらわないでぇえ…」
「で?」
「うぅ…ぜんしょします…いざやさんしか、み、みえません…ひっく…」
「…仕方ないなぁ。ほら、おいで」
広げられた腕の中へ、ぽすん、と入る。そこはとても温かく優しかった。
「よしよし、泣かないの」
「うえっ、ずび、いざやさぁん…っ」
「うん。聞いてるよ」
「すきです、だいすきです…」
「君から言ってくれたのは初めてだね」
こつん、と額同士を合わせて、臨也ははにかむ。
「その言葉が聞きたかった」
「うぅ…」
「もう泣き止んでよ。俺が君の泣き顔を見たいと思ってるとか考えてるの?」
「ずび…すこし…」
「まだまだ調教が必要みたいだね」
「ひっ…!?」
「…なんてね」
慌てふためき目を白黒させる××に臨也は失笑する。
「好きだよ、××ちゃん」
「はい…わたしもです…」
「目がとろんとしてる。可愛いね」
お互いどちらからともなく、唇を重ねた。
「…しょるい、もやしちゃいましたね」
流れ的にゆっくりと愛の営みを終え、休憩している時。××はぽつりと言い放つ。
「別にもういらないでしょ。俺しか見えてないのなら」
「そうですね」
「おや、××ちゃんにしてはあっさりした回答だ」
「もともとそんなき、なかったんですから」
「まあね」
ふふん、と得意気に言った臨也に悔しくなり、僅かな希望を胸に問うてみる。
「わたしがOKしてたらどうするつもりだったんですか?ここはわかいひとたちにまかせて、ええそうですね、とかいってたいしつするよていだったとか…」
「まさか」
スラックスを履いて、××を背後から抱き締める。
「ちゃんと、××ちゃんは俺のものだっていう証明を持って登場する予定だったさ。まあ…会場に行く前に、どうしても行くって言って聞かないなら監禁して俺以外の人みーんな見えなくするところだったけどね」
その言葉を受け、××はぶるりと背中を震わせた。
「こっわ…」
「ふふ、俺って意外と優しく見えて恐いでしょ?」
「いがいせいがかんじられないところがふしぎですね」
「そうかな」
「ロリコン…」
「でも好きなんでしょ?」
「…はずかしながら」
「いやいや、そこは誇るべき箇所だよ」
「ははっ…」
渇いた笑みを浮かべる××の背後でキスマークを増やす臨也。
「んっ…」
「君の浮気認知度ってどのくらいなの?」
「…セックスしたら、ですかね」
「甘々じゃないか。××ちゃんはもっと危機感を持つべきだね」
「いざやさんだからしんぱいしてないんですよ」
「例えばシズちゃんと恋人同士だったら?」
「こころがこわれないようにやさしくせっします。きっとすぐはきょくするパターンですね」
「あはっ。良い気味だ。聞かせてやりたいくらいだね」
「だからわたしのこともしんようしてくださいね」
「勿論だとも」
ねちっこく首筋を舐め上げられ、甘い声を出す。
「シズちゃんにも見えるところに所有印つけておかないと」
「だからそんなよけいなしんぱい…はあ、まあいいですけど…」
首筋は目立つから勘弁して欲しい、とは思いつつも感覚に溺れているのは確かなので何も言い返せないでいた。
「××ちゃん、だーいすき」
「わたしもすきです、いざやさん」
翌朝、デスクには冷凍されていたご飯とフリーズドライと冷たいお茶、そして指輪が置かれていて、それには走り書きされたメモが添えられていた。
『俺の分身。失わないでね』
指輪を宛がうと、丁度サイズがあったのが薬指だった。右指じゃまた何かしら言われそうだなぁ、なんて思いながら、いそいそと左指に嵌めてみた。
「…きれい」
何万したのかは知る由もないが、素直な気持ちが口から溢れた。温めたご飯を食べ終わり、食器をシンクに滑らせ、鞄を持ってにこにこと笑みを浮かべながら足取り軽く、玄関の鍵を閉めた。
初めて性行為をしてから二ヶ月目のことだった。
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