翌日も××は楽影ジムに来ていた。
今日こそ茜に勝つ。
その思いで一杯だった。
「よろしくお願いします」
「よろしくおねがいします」
双方、構えて茜から攻撃は始まった。
繰り出される拳を受け流し、ガードしながら攻撃する。
──リーチがたりないのなら、まあいをつめて…
茜の教え通りに動こうとする、が、攻撃を読まれ受け流される。なかなか思う様に動けずに居た。
「ほらほら、そんなんじゃまた負けちゃうよ?」
茜の挑発にむっとした××は拳にさらにスピードを加える。間合いを詰めて、茜の懐に飛び込み、渾身の一撃を放つ。
「きゃあっ…!」
後方に転んだ茜は尻餅をついて倒れた。
「できた…かてた…」
「いたた…遂に負けちゃった」
残念そうに言って立ち上がる。
そして、差し出された手。
「強くなったね!」
「あかねのおしえがあったからかてたのよ」
差し出された手を握って固く握手を交わした。
「今晩のご飯は蟹かお寿司、どちらがよろしいですかねぇ。それとも赤飯?」
「いつもどおりでいいわ」
「折角、お嬢に勝てたんですからもっと喜びましょうよ」
楽影ジムを後にした××達は帰路、晩御飯について話していた。
折角の祝いに、と赤林は提案するが××によって却下されてしまう。
車の窓を開けて涼んでいた××は髪をかきあげて外を見る。
突如、馬の嘶きが聞こえ、何だ何だと見渡すが姿はなく。
「いななきがきこえたけれど」
「ああ、あれは黒バイクですよ」
「くろばいく?」
「都市伝説のひとつでさぁ。ウチに蟹を届けてくれる優しい取引相手です」
「かに…」
都市伝説様が態々蟹を届けてくれるなんて、そんな深い関わりがあったとは。
「首から上がないそうですよ」
「それはりっぱなとしでんせつね」
驚きはしないが、興味深いと声に含めて返事をした。
そこで何かを見つけた××は運転手に制止を掛ける。
「とまって!」
急ブレーキを掛けた車は、ガタン、と揺れる。
「すぐもどるわ」
鍵をあけて車を降りていった。
「くるまいしまい!」
てててて、ぽすん。
「きゃー!××ちゃん!××ちゃんが自ら寄って来てくれるなんて至極光栄だわ!今日は何かあるのかなっ!?ねっ、クル姉っ!」
「相変、可愛」
撫で撫で撫で、ぎゅーっ。
思いきり抱きつかれ、よしよしと頭を撫でられる。
「あかねにかったよ」
「茜ちゃんに?それは良かったねぇ!どうしよう、お祝いしなきゃだね!またジムで何か好きなもの一緒に食べようか!はあ〜楽しみだなぁ!」
「良」
うふふあはは、と笑いあう中、××が尋ねる。
「おりはらいざや、ってしってる?」
同じ折原姓の彼女らなら何か知っていたりするのではないか、という淡い期待に賭けて尋ねてみた次第である。
「イザ兄がどうかしたの?」
「いざ、にい?」
「はっ!まさかこの柔肌を傷つけられたとか!?だったら例えイザ兄でも許さないよ!ね、クル姉!」
舞流は××を離して、シュッシュッとシャドーボクシングの構えをする。
九瑠璃の豊満な胸に、腕に抱かれる。
「肯。心配」
「おにいさんなのね。だいじょうぶ、なにもされていないわ」
まだ、何もされていない。
そう、まだ。
何を仕掛けてくるか分からないのだ。
だから先手を打つように此方から迎え打たなければいけない。
「赤林さん、待ってるんでしょ?またね、××ちゃん!」
「再」
「ばいばい」
踵を返して2人と別れた。
―――夜、粟楠会事務所。
「しきさん、おちゃです」
「ありがとう。もういいですよ、お姫さんは座っててください」
「そういうわけにはいかないわ。おせわになっているみだから」
「義理堅いですね」
撫でられ、ふにゃりと微笑を浮かべる。
――ピンポーン
「おきゃくさんかしら」
「おいちゃん、ちょっと忙しいから出てくれないかい」
「でてもいいの?」
「ああ、構わないよ。来るのは1人しか居ないからね」
ふうん、と納得して玄関に向かう。
――ピンポーン、ピンポーン
「はいはい。いまでますよー」
ガチャリ、鍵を開けてお客さんを迎え入れようとする。
「……?」
入って来ないお客さんに、首を傾げて扉を開く。
「いらっしゃいませ…」
そこに居たのは、黒い人だった。
否、黒というよりは闇だろうか。
飲み込まれそうになる程の、黒。
脇にバイクが止まっている。
漆黒のバイクは月に照らされているのにも関わらず、影をつくっていなかった。
「あなた、としでんせつのくろばいくさんね?はじめまして」
黒いライダースーツに身を纏った人は何やら機械に打ち込んで慌てた様子で画面を見せてきた。
『ききき君!なんで此処に居る!?捕まったのか!?』
きょとん、とした表情で答える。
「あなた、わたしをしっているのね。どこのじょうほうかしら?あと、べつにつかまってなんかいないわ。むしろかくまってくれているのよ。いのちのおんじんたちがうえでまっているのだけれど」
『そ、そうか。君の事はとある場所で噂になっていてね。そこで知ったんだ。画像を見たからよく覚えているよ』
ああ、死に損ないが隙をみて撮ったのね。
つまらないことをしてくれる。
画像、ということはネットに上がっているのだろう。
全く、面倒臭いことになったものだ。
「そう。わたしもあなたにあいたかったの。かがんでよくかおをみせてくれる?」
そっと屈んでくれた黒い人。
その良心的な態度を踏みにじる様に、ジャンプしてヘルメットを蹴った。
黒い人は慌てて転がり落ちたヘルメットを拾う。
「やっぱり。くびなしらいだーのなはだてじゃないわね」
『いきなり何をするんだ!言ってくれれば見せたものを!』
「それはどうるいだから?」
『あっ、そ、そういう訳じゃ…、気分を害したなら謝るよ…』
「かまわないわ。おたがいさまだもの」
2人にしか分からない会話を続け、首無しライダーは靄を揺らめかせながら言葉を紡ぐ。
『セルティ・ストゥルルソンだ。セルティで構わない』
「わたしは××。よろしくね、セルティ」
握手を交わして本題に入る。
「セルティはなにをしにきたの?まさかほんとうに、かにをとどけにきたわけじゃないでしょうね」
『そのまさかだ。すごいな、××は。エスパーか!?』
「はは…」
どうやら本当に蟹を届けに来ただけらしく、プラスチックの容器を見せてくれた。
「サインはあかばやしでいいかしら?」
『ああ。あとお金だが…』
「もらいにいってあげる。かに、とって。はこぶわ」
『手伝うよ』
その日、××に第3の友達ができた。
名を、セルティ・ストゥルルソンという。
ちょっぴりお茶目な可愛い妖精。
それを赤林に自慢するまで、あと―――…
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