とある昼下がり。
××は外出の許可を貰い、粟楠会事務所を出て待ち人の到着を待っていた。
"1人で出歩かない"が外出の条件だ。
赤林からGPSつき携帯を持たされ、その待受画面の時計を眺めていた。
馬の嘶きが聞こえて、××は顔を上げる。
「セルティ、いらっしゃい」
『すまない、 待たせたか?』
「ううん。だいじょうぶよ」
セルティは影でヘルメットを形作り、手渡す。
『しっかり掴まっていろよ』
「うん」
シューターは静かに走り出した。
とあるマンションでシューターは停止。
目的地に到着したのだ。
『新羅はいい奴だよ。ただ口煩いが…』
「もう。セルティはしんぱいしょうなんだから」
ふふっと笑い、シューターから降りる。
走っている間に目的地に居るセルティの同居人の話をしていた。
話からするに新羅という人は饒舌で四字熟語を多様しコロコロと一人称を変える闇医者らしい。
要するに、変人だ。
『此処だ』
エレベーターで階を上がり、部屋に繋がる扉を開けた。
「おじゃまします」
靴を丁寧に並べて廊下を歩く。
「やあ、いらっしゃい。そしてセルティお帰り!君が居ない間の一分一秒が僕にはとても長く感じたよ!うんうん、合縁奇縁、思った以上に小柄な来客だね。摩訶不思議な素性は軽く聞いているよ。少しでいいから解剖させてくれなグハッ!!」
『やめろ!××は解剖させないからな!』
影が新羅を攻撃し、黙らせた。
「ゲフッ…まあ、何はともあれようこそ我が家へ!歓迎するよ。セルティの友達になってくれてありがとう」
「どういたしまして。かいぼうしてもかまわないわよ?」
『駄目だ!絶対にさせない!』
ぎゅっと抱きしめられ、苦しいよ、と呟く。
「セルティもこう言っていることだし、我慢するよ。珈琲飲めるかい?」
「ブラックでおねがいするわ」
「随分と大人びているね」
居間に通され、椅子に腰掛ける。
「セルティ、がぞうみせてくれない?」
『ああ、プリントアウトしておいたぞ』
PDAに打ち込みながら、少し戸惑い、
『悲惨な状態だが大丈夫か?』
「もんだいないわ」
写真を受け取った。
2人で覗き込んで、改めてセルティは困惑する。
どす黒い血液に塗れた白の洋服を纏う××と、周りに散らばる無数の死体。
死んだ瞳でこちらを見る××。
なかなかにベストショットであった。
「いんさつもとは?」
『チャットだ』
「そう…」
少し考え込んで、セルティに言う。
「わたしにもチャットをしょうかいしてくれないかしら」
──セットンさんが入室されました──
──琥珀さんが入室されました──
[こんばんは]
【ばんわー。あっ、新入りさんですね】
〔今晩は。セットンさんから紹介して頂きました。宜しくお願い致しますわ〕
【そんなにきちんとしなくても良いんですよ。フランクにいきましょう、フランクにw】
〔すみません、私、こちらが素ですのでこのままでいかせてもらいますね〕
【そうなんですか。琥珀さんはPC?】
〔いいえ、携帯ですわ。それがどうかしまして?〕
【いや、打つの速いなってwよくこういう場に来るんですか?】
〔初めてです。何か可笑しいでしょうか〕
[手慣れてますねー]
【ですよね】
──甘楽さんが入室されました──
《こんばんは☆新入りさんですね。私、管理人の甘楽でっす!宜しくお願いしますね☆》
〔どうも〕
【琥珀さん、テンションの落差www】
《そうですよぅ!同じ様に話してくださいよぅ!!寂しいじゃないですかぁっ》
[もしかして琥珀さん、甘楽さんの知り合い?]
〔赤の他人ですわ。どうして?〕
[苦手なのかな、って…]
〔まあ、そうですね〕
内緒モード《××ちゃん、だよね》
内緒モード《初めまして。話しは四木さんから聞いてるかな?》
内緒モード《残りの時間を精一杯謳歌するといい。君に会えるのを楽しみにしてるよ》
〔甘楽さんが内緒モードでセクハラしてきます。怖い。助けてください、太郎さん〕
【ちょwなにやってるんですか甘楽さんww】
《セクハラなんて酷い言い掛かりですぅ!》
〔じゃあ、ストーカー?〕
【余計悪くなってるwww】
《私、泣いてもいいですか?》
〔話は変わりますが、例の画像は…〕
【琥珀さんも見たんですか?例の都市伝説】
《スルーしないでくださいよぅ!》
〔都市伝説?そんな話になっているんですか?〕
《ぷんぷん!ゾンビちゃんの画像ですよね?都市伝説の仲間入りですよぅ!フフゥ!》
[でも本当にゾンビなんですか?たまたま通りかかった少女ということはないですか?]
《だったら血なんて服につかないでしょう》
[それはそうかも知れませんが、俄に信じがたいんですよね]
《確たる証拠が欲しいところですよね〜》
確たる証拠、か。
セルティはPCから目を離して椅子に座り携帯を弄る××を見た。確かに甘楽の情報だけでは、ゾンビだと判断するにはまだ早い。
(ああ、私はどうすれば良いのだろう)
新羅に解剖を頼むのは嫌だし、本人に問い質すにしても、きっと「ええ、そうよ」としか言わないだろう。
顔を上げた××と視線がかち合う。
「セルティ」
『なんだ』
「きになる?」
私のこと。
そう言った××は穏やかに微笑みを浮かべていた。
『気にならない、と言えば嘘になる』
「すなおじゃないね」
2杯目の珈琲を口に含み、新羅を呼ぶ。
「なんだい、××ちゃん」
「けつえきけんさ、したい?」
「そりゃあ勿論だとも!君の身体に興味津々だよ」
『厭らしい言い方をするな!』
「やだなあ、セルティ。誤解だ。僕の身体は君だけのものだよ?」
『そんなことは聞いていない!』
そのやり取りを見て、クスクスと笑う××。
「いいわよ。けつえきけんさくらい」
「やったあ!セルティ、OKが出たよ!」
『やめておいた方が身の為だぞ!?』
「ほんとうにしんぱいしょうなんだから。けんさといってもスライドグラスのうえにちをたらしてプレパラートをつくるか、200〜400ccのちをとるかの2たくでしょう?」
「ほら、よく分かっているじゃないか。僕はどちらでも構わないよ」
「しりょうはおおくあったほうがいいわよね。こうしゃにしましょう」
〔それでは落ちますね。ご機嫌よう〕
──琥珀さんが退室されました──
携帯を閉じて××は新羅の元へ向かう。
『他のことされたら叫ぶんだぞ!!』
「ふふ、わかったわ」
××は新羅と共に別室へ姿を消した。
拭いきれぬ不安を抱きながらセルティは考える。
(甘楽さんに何を言われたのだろう)
漂う靄は疑問符を形作っていた。
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