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思わず、目をつぶってしまった。身体がバラバラになるという最悪の予想をしてしまったからだ。

「なんだァ?」

一向に痛みは来なかった。恐る恐る目を開ければ、わたしを取り囲むようにして敵が立っていた。その周りには声の主である爆豪くんと切島くんとの姿も見える。

「苗字、大丈夫か?!」
「…あ、うん。ありがとう!!」

2人の姿は見えるが、少し距離がある。とりあえず近付いておいた方がいいだろうか。顎に手を当て、この前の対人戦闘訓練を思い返す。切島くんは近接戦闘タイプ、爆豪くんは近接戦闘も、爆発を使っての中距離、遠距離からの攻撃もできるオールラウンダー。わたしは完璧な近接戦闘タイプ。盾としての拒絶を戦闘で使うには鍛錬が足らないからディフェンス面では役に立てない。この場合、恐らくわたしは彼らに近づかない方が良い。
わたしの周囲の敵が考え込むわたしに手を出してこないあたり、個々の能力は知られていないし、この敵たちは戦闘慣れしているわけでもなさそうだ。個性を発動させようとして、ふと思う。

「ど、どの程度で戦えばいいのかな!!」
「馬鹿かてめぇは!殺されそうになってんだぞ!ぶっ殺せ!!」

わたしの質問には爆豪くんからの無情な返答があった。それもそうか。命の危機にあるのに敵の様子をいちいち気にしてはいられないか。

「おまえが一番弱そうダナァ」

金属を身に纏った男がわたしをめがけて駆け出したのを、皮切りに敵は動き始めた。懸命に他の生徒に声をかけるばかりのわたしが弱々しく見えたのだろう。わたしの周囲にいた敵だけでなく、爆豪くんや切島くんに近かったはずの敵もこちらへ向かってきた。大丈夫、あの2人はまだ遠い。思い切り個性を発動させる。
爆音に混じり、ベキ、バキボキ、と骨が折れる音が辺りに響く。全方位から向かってくる敵へ個性が発動しているため、どのような敵にどう使えているのかを確かめなくてはいけない。対人で出力を気にせずに使えることなんてそうそうないのだから。異形型の敵の攻撃はわたしの前で一度弾かれ、元の姿に戻り、そのあとに身体が歪んでいく。発動系、変形系に関しても同じだった。わたしに触れようとするそばから真逆の方向へと敵の身体はイビツに形を変えていく。手足で攻撃を試みた敵はまだ良かったが、頭突きをしようとして飛びかかってきた敵は首がグルンと真逆の方向へ向かっていて、思わず顔を背けた。どのくらいの個性の強さなのかがわからない。実際に触れて確認するわけにもいかず、ただ頭の中で「強め」「弱め」と念じ続けるだけ。それによって個性の強さに変化があるのかもわからない。

「うぉっ?!」
「おい!!止めろ!クソ髪の硬化が崩れてる」
「はっ、はい!!」
「味方まで攻撃するんか。イカれてんな」

反射的に個性を止める。わたしの周囲に張り巡られていた拒絶の円が消え、防いでいた瓦礫や刃物、弾丸などがそのまま地面へと落ちていった。それによって起きるドスン、という大きな音に身を震わせながら周囲を見渡す。切島くんは思ったよりも遠くにいた。片腕だけ硬化していないのがわたしの個性によるものらしく、謝罪の言葉を口にする。

「ごめん!コントロールが効かなくて…」
「いいって!オレもごめんな!」

わたしたち3人だけがこのフロアに立っていた。呻きながらも立ち上がろうとしている敵が何体かいたが、鮮やかに爆豪くんと切島くんによって叩き伏せられていく。床に折り重なった敵を足蹴にしながら爆豪くんが言う。

「これで全部か。弱えな」
「っし、早くみんなを助けに行こうぜ。攻撃手段少ねえ奴らが心配だ」

それに続いた切島くんの言葉があまりにヒーローらしくて目眩がした。まぶしい。これぞ"雄英らしい"行動に違いない。間をあけずに頷こうとしたわたしよりも早く、爆豪くんが答えた。

「行きてぇならてめぇらだけで行け。オレはあのワープゲートぶっ殺す!」
「そんなガキみてぇな…」
「でも、確かにアレを捕まえることができたら逃げ道は無くなるのか…」

爆豪くんの冷静な判断に爆豪くんと顔を見合わせる。周囲に転がっている敵のことを考えても、クラスメイトたちなら大丈夫だろうと思えた。敵の出入り口を潰す。単純だからこそ、有効な手段だ。

「ノったぜ爆豪!!」
「わたしも協力する!!」

わたしたちの声に爆豪くんはニィッと口の橋を上げて笑ったように見えた。

「さっきみたいに足を引っ張るんじゃねェぞ、イカレ女」

それにつられて笑みを浮かべたわたしに有難いお言葉を添えるのを忘れないあたりはブレない。少し傷付いたけれど、個性のコントロールがうまくできず、切島くんに影響を与えたのは事実だ。

「本当にごめんなさい。次はうまくやる」
「はっ!どうだか」
「まぁまぁ、オレは気にしてねぇよ。爆豪も巻き込まれるようなヘマはしねぇだろうし、切り替えて行こうぜ!」

スタスタと先を行く爆豪くんを追いかけながらもわたしにフォローを入れてくれる切島くんのなんと優しいことか。大きく頷きながら、わたしも2人のあとを追った。