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合格発表までの間、自宅にいても落ち着かないため必然的に外で過ごす時間が増えていた。普段は綺麗になった海浜公園で走ったり、ジムへ通ったりしている。今日は気分を変えて、たまには街へ出てみようと思ったのだが市街地へたどり着く前に見覚えのあるシルエットが視界をかすめた。色素の薄い金色のツンツン頭だ。
もしやと思って裏道まで追いかければそこには先日わたしをモブ扱いした男の子と、その友人だろうか――同じくらいの背丈の3人組。こんな明るいうちにあえて路地裏を選ぶのを不審には思ったが、3人のうち2人の手にある火種のついたタバコを見て妙に納得する。

「やっぱり、このあいだ入試で会った爆発くん…だよね?」
「アァ?!んだテメェ、変な名前つけてんじゃねーよ!死ね!」

振り向きざまに一喝され、ギロリと睨まれた。ずいぶんと耳が良いようで、話しかけたわけでもなく、つい口から出た言葉を拾われてしまったのだが呼び方が気に食わなかったらしい。この様子だとヘドロ事件の、なんて言ってしまったら試験の時のように「ぶっ殺す!!」と言われてしまっただろう。それにしても、と目の前の彼をまじまじと見つめる。入試の時はチラリとしか見えなかったけど端正な顔立ちをしている。いわゆるイケメンだ。個性もヒーロー向き。

「ごめん、すごい個性だったから覚えててつい…」
「当たり前だろ。クソ雑魚モブどもと一緒にすんじゃねーよ!」
「かっちゃん知り合い?」
「知るかよこんなクソ雑魚モブ」
「…ヒーロー志望ならタバコを注意しようよ!」

こちらを向いた際に気づいたはずの友人たちの素行を咎めさえしなかった彼の言葉にムッとして先ほどより大きな声を出したが、かっちゃんと呼ばれた彼はもうわたしに背を向け歩き始めていた。慌てた様子でタバコを携帯灰皿に押し込みながら友人たちもその背中を追いかける。
あえてもう一度言おう。顔も良い、個性もいい。それなのになんだあの口の悪さは!

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

ダメ元で声をかけてみるも、彼らの歩みは止まらなかった。すぐに路地裏を抜け、雑踏の中へ消えていく。別に同じ学校でもないし、もし同じ学校だとしてももう卒業しているから内申にも関係ないしタバコを注意するのにそんなに全力を出す必要はない、か。
無理に追いかけて、そして何を言えばいいのかわからなくなったわたしは肩を落とす。何故、最初に彼を見かけた時に追いかけようと思ってしまったのだろう。どうしたかったんだろう。伸ばしかけた腕を引っ込めながら、先程こちらを刺すような視線で射抜いてきた彼を思い出す。

「悔しいけど、顔も個性もかっこよかったんだよなぁ」

入試の際の鮮やかな戦闘シーンが脳裏をよぎる。しかし悲しいかな。そのついでに「クソが」「死ねモブ」なんて罵声も聞こえてくる気もする。
ショッピングでも、と思って街へ出てきたのだが出鼻をくじかれた。もうウキウキと買い物ができる気分ではない。今日はまだ日課にしていたジョギングも終わっていないし、このまま家まで走ることにしよう。口から出そうになる溜息を飲み込んで、拳をぎゅっと握り込んだ。