それは夢かそれとも

 ───夢を見た。
 自分は果てのない海の上に立っていた。海と言っても、波も立たず、透き通っているのに、水中には魚どころか岩一つ見えやしない。
 地平線は、どの方角を見ても空と海だけが広がっている。
 歩く度に靴音がする。夢にしてははっきりとした感触がした。と思ったのも束の間、


──ドボンッ…


「!?」


 突如として足を支えていた感覚は失せ、躰が水に飲まれた。
 気泡が皮膚の上を滑り抜けていく。手足を動かし水面に向かおうと目を開けた。しかし、俺はそのまま目を見開くこととなった。もう水面など見えなくなっていたのだ。
 辺りを見回した時、一つだけ目に留まるものがあった。
 いつの間にかそれは居た。
 一匹の獣。といっても、断定はできなかった。
 何故なら、その獣は蹴鞠ほどの大きさの白くて丸いものに、翼が生えているだけの存在だったから。それ以外に何も無かった。
 獣には眼も無かったが、じっとこちらを見ているように思えた。
 何も無いのに、その獣は気高く、美しいものに見えた。
 自分はただただその姿を見つめていた。とても穏やかな気持ちだった。今の今まで溺れかけていたというのに。
 いつの間にか水の中で呼吸をしていた。都合の良い夢でよかった。


「帝江」


 声が聞こえた。しかし、見廻して見ても他に人は見当たらない。だとしたら、この獣が?まさか。口も無いのに。そもそも獣が人間の言葉なんて。


「帝江」
「帝江」


 やっぱり違う。声が一つじゃない。
 でもどこから聞こえるのかわからない。
 誰かが呼んでいる。周りに居るたくさんの何かが、呼んでいる。
 この獣の名を───


(名…?)


 何かが口にしたのは聞いた事の無い言葉。自分の知っている言葉ではない。何故それを、名前だと思ったのか。
 そう思った時、夢は途切れた。