22

 帝江は寝室に着くと、ギンコがあらかじめ張っていてくれていた蚊帳の中を潜り布団に横になる。


「…そら…、…だめ」


──スッ…


 その時襖が開く音が聞こえて視線をそちらに遣る。
 濡れた髪を手拭いで雑に拭きながら部屋に入ってきたギンコ。


「……なんだ、帝江。もう来てたのか」


 ギンコが蚊帳をくぐり布団の上に腰を下ろす。しかし、その際に碧色の眼が逸らされてしまった。


「…外は、いいのか」


 言いながら帝江の頭をクシャクシャと撫でた。
 やっぱりギンコと化野は同じだと、帝江は思った。紡ぐ言葉も、自分を見遣る視線も。
 二人は真逆。真白と漆黒。
 されど、だからこそ、隣り合っている時、二人は一つの絵になった。帝江はそんな二人を見ているのが好きだった。


「なぁ帝江…さっきおまえ…」
「ぎんこ」


 言いよどみながらも告げようとしたギンコだったが、気持ちいいのかうっとりと目を閉じる帝江に苦笑する。


「あのな、警戒心くらい持て」


 初めて聞いた言葉に帝江は目を開けた。


「けーか…し、ん?」
「…ん、いや、今はまだいい」


 説明しかけて、やめる。
 この関係を崩したくはない。
 ギンコは誤魔化す為に辺りを見回したが、丁度良いものが見当たらない。
 しかし意外にも帝江が助け舟を出してくれた。


「ギンコ…が…いい…なら…いい」


 そう言って静かに目を閉じる帝江にギンコは目を大きくさせたあと、苦笑した。


(どっちがあやされてるんだかな…)




















■□■□■

 夜が更ける。
 一人暗い部屋の中で、布団に仰向けに寝転がり、蚊帳の編目と天井を見つめていた化野。
 穏やかな波の音を聞きながら目線を外へと向けた。


「…明日は晴れ…だな」


 小さく呟く。
 薄く開いた襖から見える満天の星空と儚いくらいの細い新月。
 行かせたくない。
 晴れたならきっと二人は旅だってしまうのだろう。


「…遣らずの雨でも、降らんものかね…」


 ため息をつくと、遣る瀬ない思いを胸に化野は瞳を閉じた。
 人と蟲の狭間をさ迷う娘。
 きっと夢寐にも忘れない。
 あの灰色の髪を、瞳を。
 貰った言葉を───
 帝江が呟くように綴った言葉を目を閉じながら思い出す。
 この夜が明けず無窮に続くなら…そう、できたなら……