娘は始終無言を貫いていた。
顔を上げれば、ヌシは娘の膝の上に移動し、そこで寝息を立てていた。
娘の表情は相変わらず乏しいが、俯いているせいか、少しばかり悲しげというか、不安気というか、そんな風に見えた。
「ヌシは、おそらく大丈夫だろう。だから、んな顔すんな。怪我人には毒だ」
娘はあまりこちらに反応しない。しかし、山に向け、蟲と同調させ続けていた意識が目的を失い、徐々に戻ってきているのか、ギンコが触れれば、視線を向けるようになった。依然として、声をかけたり近づいたりするくらいでは反応を示さないが。
仕方がないので腕を掴み引き寄せることで娘を動かした。
娘からはもう力が流れ込んでくるようなことはなかった。しかし、梟の回復は異常な速度で進んでいる。梟には力がまだ流れているということなのか。
嵐にやられた山に居た娘。落雷で瀕死のヌシに与えられている生命力。不自然な成長と消滅を繰り返す木。
「……はぁ…わからん」
汲んで来た水に蟲下しの薬を溶かし入れ、丹念に掻き混ぜる。娘に持たせようとしたが、娘は皿を受け取らない。というより、皿に気づいていない。娘の後頭部に手を添えて、皿を口に近付けた。
「口を開けてくれんかね」
言って通じるならわけはない。
閉ざしたままの口を少々強引に開かせて薬を流し込む。
(そうとう苦いが、この様子なら、まだ反応しないだろ)
そう思っていたが、
「……ゴフッ」
「!?」
娘は咳き込み、薬を吐いてしまった。
「げほっ、ゲホ、」
「すまねえっ、一気に飲ませ過ぎたか?」
娘の背を摩り、落ち着かせようとしたが、その前に、娘の腕の中に居た梟が声を上げた。
まるでその声を合図にしたかのように、娘が立ち上がり、ギンコから逃げるように離れる。
「あっ、ちょっと待て!」
手を伸ばすも、ひらりと逃げる娘には届かず、娘は梟を連れて木々の中へと姿を消してしまった。
「…やっちまった、か…?」
自分の短い白い髪に指を差しいれ、頭を掻く。
完全に、敵と認識された気がした。あの娘に、というよりは、腕の中のヌシに。自分を癒す娘の邪魔をするなと。言われた気がした。
床に仰向けに横たわった。
娘が梟を連れて行ったんじゃない。梟が娘を連れて行ったんだ。
沈黙の時間に、ギンコは舞い上がっていく蟲煙草の煙を見上げていたが、ふと浮かんだ考えが気になって起き上がり、寺を出ていった。