それからは慌ただしい時間。
イサザには先に山に向かったワタリ達にとりあえずは文を送ってもらい、安心するのもつかの間…
地面で動かなくなった者達を土に帰した後、ガレキたちがまたここに帝江を捜しにくる前にこの場を離れることにした。
「僕達が傍に居る間は来ないよ?」
「それでも結界に弾かれたらまずいんだろ?」
双子が居る限り、手出しは禁物。しかし、攻撃を受ける前に上手く結界で弾くことができればあちらのもの。双子は結界の中には入れない。
「ん〜…そうなんだよね〜」
イサザの問いに答える双子。
「……あんたら、ついてくるつもりか?」
とりあえず一度あの山小屋まで戻った一行。そこには双子の姿もあった。
「いやいやギンコ。この双子居なかったらまずいだろ」
「一瞬で数十人殺す双子と帝江を狙う奴ら。どっちが危険だ?」
「僕らお兄さんたちを殺したりなんてしないよ〜?」
「「……」」
無邪気さで誤魔化そうとしているが、発言は物騒だし、何より余すところなく血塗れの双子。説得力とはなんだったか。
「とりあえず躰洗って来いよ」
頭目たちがすぐに戻ってくるつもりならば、ギンコがあそこで一夜を過ごすことはなかっただろう。恐らく態勢を立て直すために今は鳴りを潜めているのだろう。
「ん〜…じゃあ、そうするよ。いつまでもこの格好じゃあ、お姉さんに失礼だし」
双子は帝江を一瞥し、たたたっと走りだし、山小屋の側にある泉の方へ向かった。
そして帝江は……
「まだ、眠ったままか」
イサザがふと零した。
ギンコと会って安心したのか、帝江はあれからずっと眠っている。双子曰く、
「いくら他人の想像が媒体っていっても、存在しないものを生み出してるのはお姉さんなんだよ?」
「むしろ睡眠だけで回復できるなんて、すごいと思わない?」
ということらしい。
「…何か食えるもの探してくる」
ギンコの様子に、イサザは席を外すことを選んだ。
ギンコは昏睡したままの帝江の躰をそっと包み、改めて自分の腕の中にいる帝江の額に頬を寄せた。
こんな安らかな寝顔だけを見ていれば昨夜の出来事も嘘のように思える。
安心しきった幼い寝顔に小さな寝息。
でもそれが嘘ではない、真実だったと確かな現実を突き付けられたのはまだ鼻に残る血の匂い。
その匂いがそれにまつわるすべての記憶を甦らせた。
「……ちくしょう…」
憤りを感じた。今まで自分が大切に守ってきたものが踏みにじられた憤り。
帝江は何一つ変わっていない。いつものとおり…それでも、たった一夜で目まぐるしい程の事が起きた。
帝江の正体。双子の正体。帝江を追う者。
それは充分過ぎるくらいに憔悴や焦燥、歯痒さ、不安をギンコに与えた。
「……どうすりゃいい……」
眠る帝江の顔を見つめて、その躰を抱きしめた。