──バササッ…
梟が飛んでゆく。
帝江の手の中から飛び立っていく。無事全快したようで何よりだと思う反面、一つ心配ができた。
「帝江」
名を呼べば、振り返るようになった。
「ちょいと失礼」
手を伸ばし、手首に指を乗せて脈を計る。
触れても逃げることはなくなった。その代わり、梟の指示が無くなったからかまったく動かなくなった。
しかし、今帝江を山に繋ぐものは無い。もしもどこかへ行こうとするならば、こちらに帝江を引き止める権利はないだろう。それはわかっていた。しかし、このまま行かせるのは惜しい。
何も食べず、飲まず。それでいて脈拍も、体温も正常だ。
極めて不可解だ。
食べ物を受け付けなくさせる蟲などいただろうか。
ギンコは巻物を広げ調べていくが、思うような物が見つけられない。
(ヌシも回復したことだし、そろそろ移動したいが…帝江はどうするか)
その帝江は今、ギンコが巻物を見ている間もずっと縁側に座って、ぼうっとしていた。自主的に行動することはなかった。
どこかへ行ってしまう心配より、雨が降ろうとも槍が降ろうともそこから動かないのではないかという心配が勝ってくる。
ギンコはへら、と苦笑する。
夕日が帝江の長い髪を照らしている。柔らかな灰色の髪に、女の髪というのはやはり違うものかと自身の髪を掻きながら思った。
躰を冷やすかと思って自分の上着を帝江にかけてやる。しかし反応がない。
ギンコはそんな帝江に声をかける。
「羽織ってろよ。冷えるだろ」
灰色の目は透明にも近く、夕日に照らされ橙色に染まっていた。