07

 翌日の朝、ギンコは薬箱を背負い、片手に帝江を抱いた。蟲の影響か、帝江の体重はいまだに赤ん坊ほどもあるかどうかだった。
 蟲煙草をふかせながら山を下る。


──さく、さく


 ギンコに抱かれている帝江は、逆らうこともなく腕の中で大人しくしていた。
 ギンコは寺から、山から、帝江を引っ張り出した。
 帝江が元の状態に戻るまでは、共に旅を続けることにしたのだ。


「とにかく、化野に見せ……いや、まだ見えねぇか」


 帝江が何も食べないため、やはり健康上のことが気にかかる。医者である化野を思いだしたものの、こんな状態の帝江がまだ化野に見えるかどうか。


「じゃあ、狩房んとこか…」


 医者に見せられないのならば、狩房家に代々伝わる【狩房文庫】で、帝江のような者についての記録がないか調べたい。
 強い力。命の源。
 物を食わずして生きられる生命体。


「帝江…」


 帝江を見上げると、彼女は山の方を見ていた。


「気になるのか」


 帝江が山に意識を潜らせていた頃、山には【気】が流れていた。しかし、それは【流れ始めていた】だけで、元からそこにあったわけじゃない。
 山に意識を潜らせなければ、あのように急激に力が溢れ出すことはなかったはず。それでも、この娘がずっとこの山に住んでいたのなら、この山は、元より聖域と化していたことだろう。
 帝江がたまたま山にやってきたなら、何故これほどまでに執着を見せるのか。


「話せるようになったら、聞かせてくれや」


 自分のこと。家族のこと。故郷のこと。
 そうすれば、故郷にだって返してやれるかもしれん。
 山を見上げる帝江を見つめ、ギンコは思った。


「あとは…服か」


 ここいらじゃ珍しい服装だ。異国の服か。
 もう少し目立たねえ服装にかえてやらなけりゃならねえ。