「あー!、蟲師のお兄さんだー」
「ほんとだ〜」
賑やかな町中で、声をかけられ振り向いたギンコ。少し視線を下げればその正体が見えた。
「あー…おまえらか。その後、どうだ?」
声をかけてきたのは、二人の少年。
一人はハキハキとした口調が特徴で、青色の瞳をした少年。
一人はのんびりとした口調が特徴の、赤色の瞳をした少年。
それ以外は髪の先から指の先までまるでよく似た少年たちだった。
双子はついこの間、蟲患いを治療した呉服屋の子供たちだった。
白髪に碧目。服装も自分達のものとは異なるギンコ。一度会えば印象は色濃く残り、なかなか忘れるものではないだろう。
ギンコに再び会った少年たちはそれで声をかけてきてくれたのだ。それとも、未来の呉服屋の旦那として、お客の顔は忘れないようにとしているのか。
「頗る快調〜お小遣いア〜ップ」
「そうかい」
あくまでのんびりとした口調でそう言われると、苦笑を浮かべるしかない。
「なんだお兄さん、お嫁さんがいたの?」
「なんで抱っこしてるの〜?」
赤い瞳の少年の言葉にギンコは思わず固まる。
見えている、と。
この間、子供たちに蟲が見えている様子は無かったはず。
「…いや、まだ俺は一人身で…」
「言ってくれればー…」
「「ほら!」」
少年たちが息ピッタリに手に取って広げて見せたのは、一着の着物。
「どう?お兄さんになら格安で譲るよ?」
口ごもるギンコの手に、ニコニコと愛想のいい笑みで着物を握らせる少年達。
「あ、ああ……じゃあ、一式頼むよ」
「よろこんでー!さ、奥様はこっち!」
「いや、だから…」
少年たちが店の奥を手で差し示し、帝江を促すが、帝江はそれに反応しない。
名前を呼ばれること。触れられることには多少の反応はしても、他の言葉や動作にはあまり反応を示さないのだ。
妻と呼ばれることを否定しようとしていたギンコも、その前に対処すべきことを思いだし、少年たちを無視しているように見える帝江に困惑している少年たちに待ったと手を出す。
「僕達…何か気に障ることでもしちゃった?」
眉を下げ、うるうると瞳を揺らめかせながらギンコに耳打ちした少年たち。
「悪いな。気にせんでくれ」
「うん…」
ギンコは帝江をゆっくりと地面に下ろす。
店の奥に通され、女たちが帝江に着物や帯を宛がいああでもないこうでもないと話している。
そしてその頃、別室で待機している少年たちとギンコ。
「お兄さん、綺麗なお嫁さん貰ったんだね」
「だからな…」
「皆はりきってるよ〜」
「言っとくが、あんま高いもんは買えねぇぞ」
「いやだなお兄さん。僕達がお兄さんから搾取しようとするわけないじゃない」
へらへら笑いながらも、年相応とは言えない言葉を発する少年たちに僅かながら口を引き攣らせるギンコ。
ここの大旦那たちは、我が子の将来が楽しみなことだろう。
「でもこの前来た時は居なかったよね?」
「…ああ、まあ、あの山で出会ったんだからな」
「「山?」」
ギンコの呟きに、双子が首を傾げる。
──スッ
襖が開き、目を向けた二人。
「お待たせ致しました。奥様の御支度が整いましてございます」
女が後ろに居る帝江の背を軽く押して部屋へと入らせる。
「…………」
「「あれれ」」
ニヤニヤと笑いながら声を上げた少年たち。
少年たちの視線は、帝江では無くギンコの方へ向かっていた。
「お兄さん、お兄さん」
「!…っ」
少年たちに呼ばれ、我に返ったギンコは片手で目より下の顔を覆い、ぐぐ、と俯いて行く。その隙間からは赤い頬が見えている。少年たちが笑ったのはこのためだ。
「ほんと綺麗だよお姉さん」
「うん。とっても綺麗」
ギンコたちの前には、薄黄色の生地でできている着物に身を包んだ帝江がいる。決して派手ではないその着物が、帝江の美しさを際立たせていた。