「どうも」
軽く手を振り、呉服屋を後にした二人。
手を引いて歩く。存外帝江は普通に歩いてくれた。大した重さではなかったが、歩いてくれるなら抱いていくこともなかったと僅かに後悔が残った。
カランコロンと下駄の音が隣から響いてくるのが心地よかった。
ふと見下ろせば、俯き気味の帝江のつむじが見えた。
こちらが見ていることなど気づきもせずに足を動かし続けている。
「…………間違われても…仕方がないか………いや、複雑だね…」
ガシガシと頭を掻く。
「…先ずは行きがてら、化野のいる漁村に向かって…」
帝江が顔を上げていた。
「あだしの、だ。わかるか?」
しかし、また顔を俯かせてしまった。やはりまだ声は聴けないか。
ギンコは苦笑を浮かべながら前を向き、大きな手で帝江の頭を撫でる。
その手で頭を撫でてくれたギンコに、最初はなんの反応も示さなかった帝江だったが、頭を撫でられるのが気に入ったのか、こうするとギンコを見上げ、目を合わせるようになった。
が、
「、」
引いていた腕に僅かに抵抗が混じり、ギンコが足を止め、逸らしていた視線を戻す。
ギンコが足を止めたので帝江も止まる。今の違和感はなんだったのか。
(慣れない下駄で歩調がずれただけか)
暫く履き続ければ慣れるだろうと思い歩き出した。
■□■□■
「…ふーん。行っちゃうんだ。お姉さん可哀想」
あぜ道を歩く二人を、近くに生えた木々の合間から見下ろす者達がいた。言葉とは裏腹に、口調は変わらずのんびりと、その口元は弧を描いていた。
「可哀想。可哀想」
もう一人もまた歪な笑みを浮かべていた。青い目の少年と、赤い目の少年。
「あのお兄さん、山で会ったって言ったね?」
「でもただの人間に見えた」
二人に気づかず、ギンコたちは先を行く。
「でも、お兄さんが山を下りてきてから山が変わった」
二人の旅はまだ始まったばかり。
「まあ、どこまでも歩いて行くといい。それは…光脈筋のように。あてもなく、あてどなく…浪々と続く道。枝分かれを繰り返し、行く道を迷っても、辿り着くのは同じ場所。川に流れた水がいつかは海へと辿り着くように……お姉さんが
少年たちは語る。楽しそうに目を細めて。
「気ままに進み、終わりへと流れて行くといいよ」
──サァアア…
風が吹き、木の葉が舞う。風が過ぎる頃には、少年たちの姿は消えていた。