共闘ファースト



 一行が辿り着いた鉱山の入り口で、グリムは不安気にユウの顔を覗き込んだ。



「ユウ〜……ほんとにその作戦上手く行くのかよぉ……こわ……いや、不安なんだゾ」

「大丈夫、きっとなんとかなる!」



 そうは言うものの、ユウの顔は強張ったままだ。入り口からではその姿は見えないものの、風に乗って小さな唸り声と物音が聞こえてくる。どうやら化け物はまだ此方を警戒しているのか、入り口付近に待機しているらしい。ビリビリと感じる振動に軽く身体を震わせていると、肩にそっと手が添えられた。



「この短時間で考えたにしては、恐らく1番勝算のある作戦だと思いますよ」

「アイスさん……」

「それに、ここまできたのですからもう腹をくくるしかありません」



 エースもデュースも覚悟を決めた様で、真剣な面持ちでマジカルペンを構えている。それを見たアイスも「それでは、あとは作戦通りに」という一言を残して入り口付近に転がっている岩の影に身を潜める。彼女の姿がすっかり見えなくなった事を合図に、グリムは腹いっぱいに空気を吸い込んだ。



「やい、バケモノ!コ、コココッチなんだゾ!」

「グルルルル………」



 炭鉱内にグリムの声がわんわんと響いたかと思うと、途端に先程まで小さかった唸り声が大きく近くなってくる。重たい足音と共に再びその姿を現した化け物は、漂うグリムの姿を確認すると更に怒号を放ちながら威嚇をし始めた。



「ガエレェエエエェエエエエエエ!!!」

「ギャッ!来た……ユウ!!」

「こっちだ、バケモノ!」

「グルッ!?コッチニモ…ドロボウ……ワダサヌ……オデノ……オデノ!!」



 すかさずユウはグリムの隣りまで駆け寄り、化け物を煽る様に大声と身振り手振りで注意を自分達に集中させ始めた。その思惑通り、化け物は目(があるのかは分からないが)の色を変えて彼ら目掛けて突っ込んでくる。途中、化け物が無造作に振りかざした拳が轟音と共に近くあった木にめり込み、破片がパラパラと宙を舞った。



「ぴゃっ!あんなパンチ当たったらひとたまりもねぇんだゾ!」

「まだ化け物の位置が洞窟に近い……なるだけもっと引き離そう!」

「デテイケ……デテイケ……!」



 森に向かって逃げるユウとグリム、それを追う化け物、少し距離をとってエースとデュースがそれに続く。騒ぎ声と足音が遠退いていく事を確認して、アイスはひょっこりと岩陰から姿を現した。ユウが提示してきた作戦とは、自分とグリムが囮となって化け物を炭鉱から遠ざけ、頃合いを見てエースとデュースとグリムの魔法で足止めを試みるという内容だった。万が一化け物を足止めできずに化け物が炭鉱へ引き返してしまった時の事を考え、炭鉱から魔法石を盗ってくる役割は冷静に魔法が出せるアイスが担う事となった。学年が違うとはいえ、「女性にそんな危ない事をやらせるなんて!」とデュースが抗議したものの、「自分の身は自分で守れるから、安心して化け物の足止めに集中してほしい」とアイス本人に説得されてしまえば最終的には頷くしかなかった。
 ユウとグリムの頑張りによって、化け物は随分と遠くまで連れて行かれたらしい。とはいえ、万が一の事を考えると暢気にもしていられなかった。ユウ達を信じていないわけではないが、先の幼稚な口論を見ている限り、作戦が成功する確率は五分五分といったところか…。何故って、アイスは1年間ナイトレイブンカレッジに通って学んだのだ。この学園の大半の生徒が協調性の欠片も持ち合わせていないという事を。



「ま、さっさと終わらせよう……」



 アイスは不敵に笑い、ポケットに手を突っ込んだ。




+ + +



「あら、流石ですね。随分と静かだと思ったらこんなとこまで引き付けておいてくれたんですか」

「アイスさん!」

「アイス!」

「アイス先輩!」

「ルーレッド先輩!」



 大釜に押しつぶされている化け物を前に、ユウ達は肩で息をしながら放心状態で立っていた。最善の作戦だとは思っていたが、無事成功するかと問われると彼らにとても半信半疑だったのだ。



「ケガは無いですか?!」



 慌てて駆け寄ってきたデュースを片手で制し、アイスは微笑みながら礼を述べる。



「アイス先輩来るの早くない?結構炭鉱の奥の方にあったと思ったけど……ちゃんと盗って来れたんすか?」

「皆さんが足止めして下さったお陰ですんなりと炭鉱に入れたんですよ。忘れないうちに……どうぞ」



 アイスがポケットから取り出した石は、虹色に輝きながら辺りに淡い光を放っていた。初めて見る鉱物ではあったが、明らかに普段よく目にする石とは見た目も素材感も異なっている。掌に載せられたそれをしげしげと眺めて、デュースはキラキラと目を輝かせた。



「こ、これが魔法石……!」

「よっしゃあ!魔法石をゲットしたんだゾ!」

「うっし、それじゃあとっとと帰ろうぜ!」



 魔法石を囲んで歓喜の声を上げる3人だが、ユウは先程から嫌な予感がしてならなかった。大釜に潰されているとはいえ、自分たちは化け物を一時的に足止めしていたにすぎないのだ。隣りのアイスの表情を伺うと、どうやら彼女も同じ考えらしく難しい顔をして潰された化け物を凝視している。



「……ルナ…ワ………ナ…」

「………!いけない、逃げましょう!」

「「「え?」」」

「わっ!!」



 突如アイスにチカラいっぱいその手を引かれ、ユウはよろめきながらもなんとか踏ん張る事に成功した。化け物に1番近い所に立っていたユウだったが、自分が元々立っていた足元にデュースが出した大釜がゴロンと転がる瞬間を見てサァッと血の気が引くのを感じた。



「ザワルナア゛アアアアアアアアアアア!!」

「やっば!アイツもう重しを押しのけそうじゃん!」

「もう魔法石は手に入れたんだし、とっととずらがるんだゾ!」

「了解っ!」

「オ゛レ゛ノ……ダアアアアアアア!!!」



 何と強欲で執念深い化け物だろうか…。敵ながらその念着気質は賞賛に値するなどと場違いな事を考えつつ、ついに全ての大釜を除けてしまったその光景に表情を歪めた。非常に可哀そうではあるが、無事に学園まで魔法石を持ち帰る為にもユウ達彼らにはもう1度だけ腹を括ってもらう事としよう。


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