伝説セブン
「あれ、アイスちゃんじゃん!なになに、今からお昼?」
「お疲れさん。1人だなんて珍しいな?」
「あら、ケイト先輩にトレイ先輩。ご機嫌よう」
ビュッフェカウンターを前に本日のランチを決めかねていたアイスは、背後から声をかけられゆっくりと振り返った。スマホを片手にひらひらと此方に手を振って見せるケイト・ダイヤモンドに、彼の隣で人の良さそうな笑みを浮かべるトレイ・クローバーは、何方もハーツラビュル寮の3年生である。
「生憎、皆さん今日は都合が悪いようで……たまには1人で食べようかと」
トレイの疑問に対してアイスは眉尻を下げて答えてみせたが、実のところ彼女にとっては大した問題では無かった。確かにトレイの言う通りでアイスは誰かと昼食を共にする事が殆どだったが、別に彼女が望んでそうなったわけではない。ナイトレイブンカレッジの生徒らにとって『学園唯一の女生徒』という肩書は非常に興味をそそられるものがあるらしく、事あるごとに声をかけられ、断る理由も無いのでただ頷いてそれを良しとしているだけの事。先の授業で一緒だったラギーは授業が終わると早々に寮長に頼まれた総菜パンを買いに走り去ってしまったし、フロイドはというと後輩の監督不行き届きでバルガスに居残りを命じられていた。比較的昼食を共にする確率の高い2人ではあったが、特段頼まれてもいないのにわざわざ彼らの用事が終わるまで待つ義理も無いし、手早く済ませて図書室で新書を漁るのも悪くは無いと思っていたところなのだ。
「じゃあさ、今日はオレ達とランチしようよ。トレイ君もいいよね?」
「いきなり誘ったりして迷惑じゃないか?ただでさえ、アイスには昨日うちの寮の新入生が迷惑をかけたって言うじゃないか…」
だから、別に急に誘われてもアイスにしてみれば迷惑でも何ともないのである。リドルにでも聞いたのか、どうやらトレイ達は昨日アイスがエースとデュースに連れ添って炭鉱に行った事を知っているようだ。
「迷惑だなんて……私は特に何も出来ませんでしたから」
笑顔一つでそう答えると、アイスは「それに」と言葉を続ける。
「お誘い頂けて光栄ですわ。1人で食事というのもなかなか味気ないですし」
「本当に悪かったな。そう言ってもらえると助かるよ」
「アイスちゃんとランチなんてマジカメ映え間違いなしじゃん!ね、ね、ね、後で写メ上げていい?」
「ケイト、お前なぁ……」
「映え、かどうかはお約束出来かねますが、私は構いませんよ」
「さっすがアイスちゃん!ノリが良いね〜」
アイスの言葉にすっかり上機嫌になったケイトは、鼻歌交じりに手にしたプレートにパスタを盛り付け始める。そんな学友の姿に頭を抱えるトレイを見て、アイスは軽く肩をすくめて見せた。黄金色に揚げられたカボチャコロッケにグリーンサラダ、チーズインオムレツ……それから全粒粉のバケットとミネストローネ。少々食べすぎかもしれないが、午前中の飛行術で思いのほかはしゃぎすぎてしまったらしく、アイスのお腹は先程から空腹を訴えて小さく悲鳴を上げっぱなしなのだ。大食堂は大勢の生徒で賑わってはいたが、ビュッフェカウンターから離れてしまえばテーブルの込み具合も疎らになってくる。前を歩く先輩2人について手頃な席を探していると、ある一角に見知った3人(と1匹)の姿を発見した。
「あら、あれは……」
「ん?良さそうな席でもあったか?」
「……あ!あれ、ウチの新入生2人組とオンボロ寮の監督生ちゃんじゃん!アイスちゃん知り合い?」
「お前なぁ……さっきも言ったように、昨日アイスに迷惑をかけたのがアイツらなんだ」
トレイの言葉に、ケイトは「あ〜そういえば?」とアイスに向かって首を傾げて見せる。アイスは苦笑しながら小さく頷いた。
「ええ、まぁ……それより、ケイト先輩もユウさんと何か接点が?」
「うーん……今朝、ちょっとねぇ…」
今朝といえば、確かにユウとグリムはエースとデュースと共に朝一でハーツラビュル寮に向かったはずだ。その時にケイトと接触したという事だろうか?
「……ところで、オマエ達の寮は今朝見たけど他の寮ってどんなのなんだゾ?」
「学園のメインストリートにグレート・セブンの石像が立ってたじゃん?あの7人に倣って、この学園には7つの寮があるんだよ」
口いっぱいに食べ物を詰め込んだグリムがもごもごしていると、ケイトがぬっとその輪に割って入っていく。どうやら席が決まったらしい。アイスとトレイは顔を見合わせて苦笑した。急に飛び込んできた第三者の声に慌てて振り向いたエースは、目に映った声の主の姿に顔を引きつらせる。
「げっ!アンタは今朝の!」
「まぁ、やはり今朝お知り合いになったんですね」
「知り合いも何も!コイツ、オレ様達を騙してバラに色を塗らせたんだゾ!」
「バラ…?嗚呼、ハーツラビュル寮の伝統っていう…?」
じぃ、と臙脂色の双眼を向けられ、ケイトの口元はひくりと震えた。
「騙したなんて人聞き悪いなぁ。オレもやりたくてやってるわけじゃないんだよ?寮の決まりだから仕方なくやってるだけで」
「めちゃくちゃ笑顔でしたけど…」
「まぁまぁ、デュースちゃん。寮の外なら例のルールに従わなくていいし、今のけーくんは後輩に優しい先輩だから」
「ち、ちゃん付けはやめて下さい、先輩!」
「あら、可愛いじゃありませんか。私も是非真似させて頂きたいくらい」
「ルーレッド先輩まで……」
至極楽しそうなアイスに釣られ、彼女の隣で一連の流れを見ていたトレイもプッと笑いを吹き出した。
「はは。それはケイトの愛情表現だからな」
「つか、アイス先輩の隣のアンタは誰?」
どうやら面識があるのはケイトだけのようだ。エースの言葉に同調するように、ユウもデュースも控えめにトレイの答えを待っている。とはいえ、臆する事無く初対面の相手を『アンタ』呼ばわりとは、リドルのタルトの件といいエースはなかなか大物なのかもしれない。よく言えば怖いもの知らず、世間一般的に称するのであれば思慮不足と言ったところか。今回は相手がトレイだから事が荒立たずに済みそうだが、これがリドルやレオナだったとしたら……考えるだけでも非常に面倒臭い。
「おっと、悪い。俺はトレイ。トレイ・クローバー。ケイトと同じくハーツラビュルの3年だ」
愛想良くエースの質問に答えたトレイは、そのままきょとんと此方を見つめているユウに声をかけた。
「君はオンボロ……ゴホン、使われてなかった寮の監督生に着任した新入生のユウだろう?ケイトに聞いてる。アイスにもさっき言ったが、昨日はうちの寮の奴らが悪かったな」
「って、ちゃっかり隣に座ってるし……」
トレイがエースの隣を陣取ったのを確認して、アイスもその対面であるユウの隣に腰掛ける。
「まーまー。せっかく同じ寮に入ったんだから仲良くしよーよ。ユウくんも、マジカメかメッセのアカ教えてよ♪」
そう言ってケイトは自身のスマホ上でメッセージアプリを開くと、画面上に映った二次元コードをユウに向けた。対して、ユウはどこか困ったように視線を右へ、左へと泳がせる。単にケイトの押しの強さに困っているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。アイスはふと、彼が無一文でこの学園にやって来た事を思い出した。
「ユウさん、もしかしてスマートフォンをお持ちで無いのでは……?」
「あ、はい……」
「えっ、スマホ持ってないの!?マジヤバ!天然記念物並みにレアじゃん。最新機種安くしてくれるお店、紹介したげるよ〜?今度スマホ選びデートとかどぉ?心細いならアイスちゃんにもついて来てもらえばいいじゃん?」
「ケイト、新入生が引いてるから、ほどほどにな」
トレイの言う通り、ユウやデュースはまだしも、エースとグリムはげんなりと目を座らせてケイトの動向を見つめている。だが、そんな後輩の反応には慣れたもの。ケイトは悪びれる様子も無くへらりと笑っている。
「あはは、ごめんごめん!で、寮の話だっけ?いいねぇ〜、会話がフレッシュ!何でもお兄さん達が教えてあげよう」
「つか、他よりまずうちの寮について教えて欲しいんすけど。あの『ハートの女王の法律』とかいう変なルールは一体なんなの?」
成程、確かにエースの言う事も一理ある。問題事を起こしてばかりなのですっかり忘れていたが、彼らはまだ学園生活3日目の新入生なのだ。寮分けをされた時に各寮で歓迎会が行われると聞いていたが、とはいえ深くは説明を受けていないのだろう。
「伝説のハートの女王についてはお前達もよく知ってるだろう?規律を重んじ、厳格なルールを作る事によって変な奴らばかりの不思議な国を治めていた」
「そんなハートの女王をリスペクトして、我がハーツラビュル寮生はハートの女王のドレスの色である赤と黒の腕章をつけて、ハートの女王の作った法律に従うのが伝統ってわけ」
ナイトレイブンカレッジが敬愛する7人の偉人にはそれぞれに様々な逸話が残っているが、彼女以上に国政に参与した偉人はいないのではないだろうか。風変わりな住民が多い無秩序な国を治める為に、彼女は事細かな法を施行する法律家でもあったという。トレイとケイトの説明に、グリムは舌を出してげんなりとした。
「肩が凝りそうな寮なんだゾ〜!」
「どれくらい厳しく伝統を守るかは寮長の気分次第で、前の寮長はかなりゆるゆるだったんだけどね〜」
「リドル寮長は歴代寮長の中でも飛び抜けて真面目でね。だから、最大限その伝統を守ろうとしているというわけだ」
「げぇ〜〜。めんどくさ……」
エースがげっそりとした面持ちで深く肩を落とす一方で、グリムは至極興味深々な様子で身を乗り出している。
「なぁなぁ、他の寮はどんな寮なんだ?」
「先程ケイト先輩がおっしゃていたように、このナイトレイブンカレッジにはグレート・セブンに倣った寮が7つあります」
1つ目は、エース達が所属している、ハートの女王の厳格な精神に基づく『ハーツラビュル』寮。
2つ目は、百獣の王の不屈の精神に基づく『サバナクロー』寮。
3つ目は、海の魔女の慈悲の精神に基づく『オクタヴィネル』寮。
4つ目は、砂漠の大賢者の熟慮の精神に基づく『スカラビア』寮。
5つ目は、美しき女王の奮励の精神に基づく『ポムフィオーレ』寮。
6つ目は、死者の国の王の勤勉な精神に基づく『イグニハイド』寮。
最後に、茨の魔女の高尚な精神に基づく『ディアソムニア』寮。
アイスの説明に、ユウは覚えたばかりの寮の名前を何度か復唱してみる。だが、数も多ければ名前も複雑な寮ばかりで、すぐにぐるぐると目を回してしまった。
「……覚えられる気がしない…」
「みんな名前がなげぇ!そんな一気に覚えられねぇんだゾ〜!」
「あはは!ざっくりでおけおけ。そのうち嫌でも覚えるし」
「どの寮に入るかは、入学式の時、魂の資質で闇の鏡が決めるとされてるけど……なんとなく、寮ごとにキャラが固まってる感じはあるな」
「それはあるねー。めっちゃ分かる」
「キャラ……ですか?」
先輩2人の会話に、デュースは首を傾げた。
「例えば……ホラ、あいつ」
トレイの視線の先には、アイスが午前中の飛行術の授業中に見かけた背の高い生徒の姿があった。頭からぴょこん、と飛び出した犬耳に褐色肌の体格の良い生徒だ。ユウは自身の世界では在り得ない獣人の姿に目を丸くした。
「あ、頭から犬耳が生えてる…?」
「あのゴツさは見るからにサバナクロー寮って感じだな」
「比較的、運動や格闘が得意な生徒が多い寮ですね」
「それな〜!肉体派っていうか、イカツイお兄系っていうか?黄色と黒の腕章をつけてるのはサバナクロー寮」
ケイトの言う通り、確かに視線の先の彼の左腕には、黄色と黒の腕章が巻かれている。
「ほー。じゃあ、あっちの灰色と薄紫の紐を腕に巻いてるのは?」
次に一同が視線を向けたのは、アイスも良く知るアズール・アーシェングロットであった。ジェイドと2人でいるという事は、どうやらフロイドは未だバルガスから解放されていないらしい。
「彼はオクタヴィネル寮だな」
「その手前のテーブルの臙脂と黄色の腕章はスカラビア寮生の方々ですよ」
カリムとジャミルの姿に気付いたアイスがそう言うと、一同は慌てて次の腕章へと視線を移す。
「どっちも頭脳は揃いって言われてる。筆記テストはそこ2寮がデッドヒートってカンジだよね。あ、でもスカラビアの寮長は勉強はそこまでってカンジで〜」
「はーい。これ話が脱線するフラグ」
「お前、順応早いなぁ」
ケイトの言葉を遮るエースの姿に、トレイは少し感心したような声を漏らした。
「話を戻すと、あっちのやたらキラキラしいのはポムフィオーレ寮。紫と赤の腕章をしてる」
トレイの言う方へ目を向けると、アイスがつい先程、箒で追いかけっこをしたばかりの後輩の姿が飛び込んできた。
「ホワッ!超可愛い女の子がいるんだゾ!」
「エッ!?ルーレッド先輩以外に!?ナイトレイブンカレッジって、男子校だったよな!?」
「ふふ、私以外に正式入学した女生徒はいませんよ。彼は男性です」
「「え゛〜っ!?」」
グリムとデュースが驚くのは最もである。アイスとて、恐らく初対面が学外であれば間違いなく『女子』として接していたであろうから。
「………………?」
騒ぎに気付いた話題の人物、エペル・フェルミエはふと顔を上げて騒ぎの音源を確認しようと辺りを見回し始める。やがて、此方を見つめているアイスと視線が合うと、途端に表情を強張らせた。女性ながら、どこにそんな体力があったのか……結局、先の飛行術の時間内にエペルはアイスを捕まえるどころか、彼女が乗り回す箒に触れる事すら叶わなかったのだ。エペルの心情を察したアイスが小さく口角を上げて軽く手を振って見せると、彼は酷く気分を害したようにふい、とそっぽを向いてしまった。
「女の子といえば、西校舎の肖像画、ロザリアちゃんはなかなかレベル高いよ。アイスちゃんが品の良い美人系だとすると、彼女はふわふわとしたお嬢様な感じ?興味あるなら紹介するけど。お見合いパーティセッティングしよっか?」
「いらねーっす!ロザリアちゃん可愛くても平面なんでしょ!?」
「イケてるなら平たくてもいいじゃん」
「よくねーよ」と視線で訴えるも、残念ながらケイトには届かない。どうせなら……とエースは口元に手を添えて上品に笑うアイスをチラリと見つめ、ふるりと頭を振った。いや、いくらなんでも高嶺の花すぎか、と。
「ま、ポムフィオーレは顔面偏差値&美容意識ハンパない連中ってことで。寮長もフォロワー数500万人いるマジカメグラマーだよ。アイスちゃん、ヴィル君と仲いーよね?」
「えぇ、まぁ。私、恥ずかしながらお化粧には疎いもので、ヴィル先輩には色々とご教示頂いているんですよ」
「おいケイト、顔面偏差値だけで話をまとめるな。ポムフィオーレ寮は魔法薬学や呪術が優秀な生徒が多いのも特徴だ」
「あはは、そーでした」
わざとらしく舌を出し、ケイトはきょろきょろと周囲を見渡し始める。
「んで、次はイグニハイド寮だけど……青と黒の腕章のヤツ、この辺には座ってないな……あそこの寮、なんかみんなガード堅くてオレも友達いないんだよね。陽キャラ揃いのハーツラビュルとは正反対ってゆーか?」
ケイトの言葉に、アイスは同じ部活のイグニハイド寮寮長の姿を思い浮かべて苦笑した。確かに、彼はケイトやエースとは正反対……人と対話する事を極力拒み、寮長会議すらアズールに頼んでタブレット参加をするという大の人見知りなのだ。
「根暗が多いって事か?」
「こらこら!言い方!確かに、大人しい奴が多いイメージはあるけど」
「特色としては、魔法エネルギー工学やデジタル系に長けてる方が多いという点でしょうか?」
「あとは……ディアホニャララ寮ですっけ?」
「キリッとした顔で語尾を誤魔化してんなよ。ディアソムニア寮ね」
「か、噛んだだけだ!噛んだだけ!」
ディアソムニア寮の腕章のカラーリングは黄緑と黒。再び周囲に視線を向けたケイトは、ある一角に固まったディアソムニア寮生の姿に気付く。
「いたいた、あの食堂の特等席に固まってるメンツ。あそこはなんつーか、超セレブっていうの?オレ達庶民が話しかけづらいオーラ放ちまくりなんだよね。寮長からして近寄りがたさMAXっていうか……」
確かに、とユウもごくりと生唾を飲み込んだ。なんというか、纏っているオーラが違うのだ。周囲もそれを感じ取っているらしく、彼らが囲うテーブルの周囲だけ極端に人の賑わいが乏しい。一方で、エースはテーブルで食事をしている生徒らの中に、際立って背の低い学生がいる事に気付いた。
「あれ?子供が混じってる」
「うちの学校は飛び級入学がアリだからな。でも、彼は子供じゃないぞ。俺達と同じ3年生の……」
「リリアじゃ。リリア・ヴァンルージュ」
「「「「「「「!!?」」」」」」」
つい今まで視線の中に納まっていたはずなのに。瞬きした途端に姿を消したかと思うと、一同の真後ろから至極楽し気な声が降ってきた。
「コ、コイツ、瞬間移動したんだゾ!」
慌てて振り向くと、小柄なディアソムニア寮生は一同が驚き椅子をガタガタと鳴らせる様を見てくすくすと可笑しそうに笑っている。
「お主ら、わしの年齢が気になるとな?くふふ。こんなにピチピチで愛らしい美少年のわしだが、確かにそこの眼鏡が言うように子供とは呼べない歳かもしれんな」
「ピチピチ……」
美少年とやらの口から飛び出した死語にトレイはひくりと口元を痙攣させた。
「遠くから見るだけでなく、気軽に話しかけに来ればよかろう。同じ学園に通う学友ではないか。我がディアソムニア寮はいつでもお前達を歓迎するぞ」
「…………」
「…………」
「あっちのメンツは全然気軽に話しかけて欲しいってカンジじゃないけどな」
デュースの言う通り、元々リリアが座っていた席からは歓迎とは程遠い視線が痛い程向けられていた。そんな後輩の姿すら面白いのか、リリアは益々笑顔を深める。
「くふふ。食事中、上から失礼したな。アイス、たまには遊びに来てやってくれ。あやつ、この間も式典に参加出来なかったと拗ねておるんじゃ」
「あら、またですか……?ええ、必ず。よろしくお伝えくださいな」
「おお、そうか。やれやれ、これで機嫌が直ってくれると良いんじゃがな」
リリアはひらり、と制服を翻して自分が元座っていた席へと帰っていった。その後ろ姿を見送りながら、エースはある事に気付く。
「あっちの席とオレ達の席、軽く20メートル以上離れてんのに、オレらの話が聞こえたって事?コワッ!」
おまけに、彼らと自分たちの席の間には、他にも雑談を楽しんでいる生徒らが何人もいるのだ。どうやったらピンポイントで自分達の会話だけを聞き取る事が出来るのだろうか。エースの言わんとする事は分かるが、トレイもアイスも、それに触れる事はしなかった。何故って、気にはなるが追及しても後々面倒事になるのが目に見えているからだ。
「ま、まぁ……そんなわけで、ディアソムニア寮は少し特殊な奴が多いイメージだな。魔法全般に長けた優秀な生徒が多い」
「副寮長のリリアさんもとても優秀な方ですが、寮長のマレウス・ドラコニアさんは世界でも5本の指に入る魔法士とも言われてるそうです」
「マレウス君は正直、ヤバヤバのヤバだよね。アイスちゃんが顔広いのは知ってたけど、まさかマレウス君とも接点があるとは思わなかったよ〜」
ケイトの視線に対して、アイスは深く語らず笑顔だけで返す事にした。というのも、彼と会うのは大方夜中、宿題やプライベートに行き詰ったアイスがオンボロ寮周辺を散歩している時が殆どなのだ。そいうえば、入学式の当日もオンボロ寮の付近で一言二言会話を交わした覚えがある。式典服を着ていない事に対して疑問に思わなかったわけではないが、まさか寮長が入学式に呼ばれていない等と思うはずも無い。
「ま、それを言うならウチの寮長も激ヤバなんだけどね〜」
「ほんっとにな!」
待っていました、と言わんばかりにエースは身を乗り出してケイトの言葉に大きく頷いた。どうやら彼の怒りは全然治まっていないらしい。
「タルト1切れ食ったくらいでこんな首輪つけやがって。心の狭さが激ヤバだよ」
怒りから口調も随分荒く、声も大きくなっている。これは少々まずいのでは、とアイスが口を開きかけたその時、エースの背後に影が差した。
「ふぅん?ボクって激ヤバなの?」
途端にエース以外の全員の身体がピシリ、と凍りづく。だが、感情がヒートアップして気持ちが高揚し続けているエース目には、周囲の表情が一気に青冷めた事も、自身の背後に立つ人物の存在も一切視界に入る事がなかった。
「そーだよ。厳格を通り越してただの横暴だろ、こんなん」
「エース!後ろ!」
「……でぇ!寮長!」
デュースの声にハッと我に返ったエースが振り向くが、時すでに遅し。彼の前には一部始終を全て耳に捉えたハーツラビュル寮寮長のリドル・ローズハートが、酷く憤慨した様子で腕を組み此方を睨みつけていたのだった。
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