無機質な日常


決して安くないであろう遮光カーテンの隙間からの木漏れ日が眩しくて目覚めた朝。
空調の整った広い部屋の中、大の大人が二、三人で寝ても大分余裕があるであろう寝具ベッドの上で少し細身の腕に抱かれながら目が醒める事への違和感など等に消えている。


「起きてたのかい?」

「今起きた」

「そう。おはよう、一二三」

「おはよう。治さん」


また今日も、無機質な一日の始まりだ。





「今日は少し出掛けようか」

「…何処へ?」

「ふふ、内緒ー」


眼前に腰掛け一人愉しそうに笑う彼は私を余り外へ出そうとしない。
珍しいと思いながらも常に色々な事を考えているこの男の突拍子もない発言は今に始まった事ではないので特に気にする事なく目の前の朝食を口に運ぶ。

私の両親を殺した男、太宰治にこの部屋に連れてこられてから凡そ二年が経った。
逃げるなんて選択肢はここに連れて来られて三日で無くなったが、諦めの悪い私は最初こそ朝から晩まで泣き喚き部屋の物を高級そうだろうが何だろうが手当たり次第投げ付け、夜は私を抱き締めながら眠りにつくその耳元で恨み辛みを吐き続けたが、彼が私を解放する様子は一切見られなかった。
私の大切な物を奪い去った彼を赦してなど一切いないが、今は半ば諦めとこの二年で味わった彼への畏怖の情が混ざった複雑な感情の中、彼の側で過ごしている。

そして今日も彼から与えられたワンピースに袖を通して、彼の隣で息をするのだ。


「さぁ、出掛けようか」


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