第一章
03 溶けた。
私ははるか上空から、その現場を見て……いや、聴いていた。
マグマに溶ける海兵の悲鳴、息遣い、焼ける音、その全て。
——生き恥≠晒すな、と。冷たく言い捨てた海軍大将「赤犬」の声も。
「どうして…………」
私の嘆きは誰にも届かないだろう。ただ私は呆然と、眼下で起こったその悲劇を見つめていた。
『おい、どうした、状況を報告しろ』
子電伝虫の向こうからセンゴクさんの声がする。私はハッと我に返り、「街の方へは、海賊は侵入していない模様です」と震える声を絞り出した。
大きな戦争に怯えているとでも判断したのか、彼はそれ以上追及はしてこない。わかった、とだけ聞こえたあとは、『作戦に移る、準備をしておけ』と言って通信は切れた。
(私の……私の仕事は、戦況の把握、と、それから、ええと、それから、それから……)
作戦の内容は忘れないように、間違えないように、何度も何度も反復したはずが、頭に霞がかかっているようにうまく思い出せない、何が起こっているか正しく把握しなければならないのに、それが自分の役目なのに、鼓膜に響くのは自分の心臓の音だけだった。
「……でも……だって……ど、どうして………………」
視線は先ほどの海兵がいた場所から逸らせず。そこにあるのはもはや瓦礫とも区別のつかない、ただの冷えた溶岩でしかないのに、私はどうにも、目を背けることができなかった。
だって。
ガープ中将が、
家族を想って声を震わせている。
白ひげは、息子を取り戻しに来たと言った。
私たちの側として戦っているドフラミンゴは、私の母を殺していて——
——逃げ出した海兵は、家族に会いたかっただけなのに!
「…………ほんとに? 本当にこれが、正義なのかな——」
——そう思ってしまったら、もうダメだった。私の心はぽっきり折れて、それきり、地上に足をつけることができなくなってしまった。元々、自分の役割はその手筈ではあったのだが——手も汚さず、安全な場所から、声を出すだけ。そんなやつに語れる正義はないのだと誰かに言われているようで、それもまた惨めだった。
結局、次に地に降りたのは全て終わったあと。その時の、「よくやったな」という海軍元帥≠フ声は、より一層私を卑屈にさせるばかりだった。
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