貴方が無い罪を背負うつもりならば、私にも
海をゆくクジラたちの声が好きだった。歌うように、笑うように、どこまでも楽しげに鳴くその様を、船の上からいつも眺めていた。
「いいな、貴方たちは、海と仲良くできるんだね」
揺れる水面にはねた尾鰭を見下ろしながら、私は独りごちる。誰も聞いていないと思ったからこそのよくある独り言だったが、その日は運悪く、彼の耳には届いてしまったらしい。
「……海に入りたいのか」
驚きに勢いよく振り返ると、腕組みをしたままのセンゴクさんが、ひどく難しい顔で立っていた。「そういうわけではないですけど」と曖昧に笑うと、彼は一層、眉間の皺を深くする。
——あーあ、嫌だな。そんな顔をさせたくないから、海の話もこの身体の話もしないようにしていたのに……。
「……成長が止まった? 実の影響で、か」
年に一度の健康診断で、私の身長が数ミリ程度すら変わらなかったあの年。成長期のはずなのにと訝しんだセンゴクさんは、私をベガパンクの元に向かわせた。そうして、世界最大の頭脳を持つ男が検査した結果——私が食べた悪魔の実は、どうやら私の身体の成長を止めてしまったということが判明したらしい。……動物系《ゾオン》の実には稀にあることだという。
詳しい話を聞いている間、私は「そういうものなのか」としか思わなかった。だってカナヅチになるのと同じく、実の恩恵を考えれば瑣末なことだ。別に特段悲しいとかそういう気持ちは湧かなかった。なによりそう感じていたところで、結局手立てもない。そりゃあ、少しだけ、残念だと思う気持ちが無いといえば嘘になるけれど……。
——でも、私が欲しいと言ったのだから。
私が海軍将校になった時に、任務先で見つけた悪魔の実。海軍で保管すると言い出したセンゴクさんに、私から頭を下げたのだ。絶対に役に立ってみせるから、と必死に頼み込む私に、彼が「そこまで言うのなら」と折れるまで、五日間もかかったことさえ記憶に新しい。
後悔はないのに、私。
確かに貴方に追いつくくらい大きくなりたかったけど、お母さんとお父さんが大好きだった海に嫌われているのは少し悲しいけれど。
そんなことより、この力が貴方と貴方の正義の役に立つなら、それ以上はないのに。
「センゴクさん」
「ん」
「……センゴクさんは、私が強くなったら、嬉しいですか?」
「……そうだな…………」
その声色に含まれた感情が肯定でないのを知っている。それでも、彼がカタチだけでもそう言ってくれるなら、私も、そうあろうという覚悟が決まるのだ。
だから——貴方が私に感じているその悔恨の念さえも、糧にして進もうと思うのだ。
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