なんやかやとドタバタした後、黒子が秀徳男子バスケ部のマネージャーにおさまった翌日。思わぬ事態と言うか、お約束と言うか。放課後の部活開始前に、とある珍事が発生した。
「さーて、いっちょ今日も燃えつきますかー」
「ふん。情けないことを言うんじゃないのだよ」
「そう言う緑間くんもいっぱいいっぱいの様ですが?」
「そ、そんなことはないのだよっ」
「ブフォ!!」
「……」
「……」
「……」
「ちょおぉおおおおおおおお!! テッちゃん、何してんのぉおおおおおおおおおお!?」
「このっ、バカ者ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「え?」
「テッちゃん、ここ男子バスケ部の更衣室!!」
「シレっとここで着替えるんじゃねーのだよっ!!」
「ですがボクも男子バスケ部ですよ? 他のマネの方もここで……」
「他は男ー! 野郎ばっかだからっ」
「いい加減、女の自覚をもつのだよ!!」
「あぁ、今さらですし気にしません」
「こっちが気にするってーの!!」
昨日の見学の際は、着替える時間がズレていたので問題なく。今朝の朝練は、もともとマネージャーは着替えずに制服でやっているので問題なし。放課後の部活では流石に仕事量が増えるので、マネージャー達もジャージに着替えて走り回るのだが。そこで初めて問題に気付いたのである、黒子が女で女子マネであると。
流石は去年まで男と信じて居ただけあり、男女特有の気まずさなようなものもなく。黒子とごく普通に男同士の距離感で接していて、違和感を感じることもない。なので何の疑問もなく、黒子と緑間真太郎と高尾和成の三名は共に部室へ向かい。そのまま中に入っていつも通りに着替えを始め、黒子が上のセーラーを景気良く脱いだところで漸く気づいた訳である。
中に居たのは別に三人だけではないのだが、その誰もが黒子に違和感を持たなかったのだからよっぽどである。高尾と緑間の叫びで、そういえばと思ったものの。ではどうするべきかは思いつかず、大半が呆気にとられながら成り行きを見守っていた。
ぶっちゃければ、黒子が気にしないと言うならそれでも良いかも。などとその場の全員が思わず考えたことは内緒である。
「お前達、何を騒いでいるんだ?」
「さっさと準備しねーと刺すぞ! て、おまっ、ここで何してんだ、テツヤ!!」
「何って、着替えてます」
「この、大バカ者ーー!!」
「まあまあ宮地、落ち着け。黒子はそのまま、他はぼさっとしてないで、すぐに体育館へ行け」
「うぃーす!!」
何とも言えない空気の中、現れたのは主将の大坪泰介と宮地清志の二人。宮地はシレっと男に混じって着替えようとする黒子を叱り飛ばし、大坪はそれを宥めながら他の部員に先に行くよう促した。
そして黒子とこの二名だけになったところで、改めて宮地の説教が始まった。
「テツヤ。お前なー、もう一年近く女やってんだろうが。少しは学習しろ!」
「とは言ってもここで着替えるしかないじゃないですか、時間をずらせば遅くなってしまいますし。ボクは気にしません」
「お前は良くても他が良くねーつーの! 高校生男子の心情も察しろっ」
「はぁ、喜びそうですけど」
「そう、喜ぶ……っ、じゃねーよっ、喜ばしてどーする!? つーか、去年まで居た女子マネは女バスの更衣室を借りてたからお前もそーしろ」
「あぁ、なるほ……」
「それはいかん!!?!」
「は? なんでだ? 大坪」
「あ、ボクは男でしたから女性と同じ場所で着替えるのはアレですよね」
「お前も女だっつーの!!」
「いや、そうじゃなくてな。女バスにはヤツがいる」
「はい?」
「ヤツ?」
「女バスの主将だ」
「あっ!!」
「分かったか、宮地」
「おう、アイツは不味い」
「だよな」
「え? もしかして立花さんのことですか?」
「そうだ。アイツに近づいてはいかん」
「えーと?」
「とにかく、女バスの更衣室を借りんのはナシだな」
「それが良いだろうが、さてどーするか……」
「他の女子部はどうだ?」
「女子棟に近づくのも危ないかもしれん。見つかったが最後、アイツなら持ち逃げしかねん」
「あー、だな。んじゃどーするか」
「持ち逃げ?」
「あ、二つ隣が物置になってたな?」
「あぁ、そーいやそうだったな。よしテツヤ、これからはそこで着替えろ」
「えっ」
「今日の部活が終わったら、オレ達でそこの掃除をしてロッカーも置けるよう監督に頼んでおく」
「え、でも……っ」
「部室に出来るように鍵も付いてるから大丈夫だ。そこにしろ、決定!」
「はぁ、分かりまし……、た?」
てな訳で、本日は部活終了後、自主練の代わりに物置の大掃除が行なわれた。割と広さのあるその部屋に、黒子専用のロッカーが置かれ男子部員達は満足げに頷いたものである。しかし黒子本人としては、贅沢な気がしてくる。
「なんだか広い部屋で勿体ないです。やはり皆さんと一緒に……」
『却下!!?!』
「……」
「テッちゃんが寂しいなら、高尾ちゃんが一緒に着替えてやるぜ?」
「そうですか?」
「バカ者ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「よし高尾、お前は轢く! そんで埋めるっ」
「え゛っ、ちょっ、まっ、冗談っすからっ、ほんの可愛い冗談ですぅうううううううううううううううう!?」
「……ご愁傷様です」
一体、いつになれば黒子は女である自覚を持つのやら。秀徳男子バスケ部一同は、まだまだ振り回されそうである。