それは桜咲く入学式の少し前。日差しは暖かいが、まだまだ吹く風は肌寒いそんな頃。とある公園の、とあるストバス場にて。
「えっ、秀徳!?」
その日集まったメンバーは、黒子テツヤ、火神大我、降旗光輝、笠松幸男の四名。その全員が、寒さに負けじとゲーム前に体を温めるために準備運動をしていた時。時期的な話題として進学する高校の話しとなり、黒子テツヤが不満そうに言った学校名に降旗光輝が驚きの声を上げた。
「そうなんです。受かってしまったら行くしかなくなりまして」
「でも、第一希望はオレ達と同じ誠凛だったろ?」
「私立と公立では費用の問題が……、無念です」
「あー……」
「おい、お前等。それ宮地兄弟が聞いたらキレんぞ」
「ひぃ!?」
「ナンノコトデショウ」
「そんで火神、今日は随分と静かじゃねーか?」
「それはですね、笠松さん。彼は拗ねてるんです」
「拗ねてる?」
「あー! 分かった!! 黒子が秀徳行くからだろっ」
「うっせー! ちげーよっ」
「図星か。しっかしお前等、いつ知り合ったんだ? 中学はみんなバラバラだったんだろ?」
「えーと、火神くんは去年の夏にこのストバス場で。今日は来れませんでしたけど、降旗くんともう二人は受験の日にです」
「ほー」
「そーなんです。衝撃的な出会いでしたよっ」
「は?」
「もう忘れてください、降旗くん」
「ムリだろ!?」
「えー」
全中三連覇を成し遂げた夏、その直後の実は女でしたショックも相まって混乱しまくっていた黒子。家に居れば母親が煩く、かといって部活を辞めた身としてはすることもなく。悩みに悩んだ末に出た結論は、やはりバスケ馬鹿を証明するものだった。
部活だけではなくバスケも辞めよう。そう思ったものの、処分できずにクローゼットの奥に詰め込んでいたバスケットボールとバッシュ。出かける理由としてそれを引っ張り出し、何となく訪れたのがこのストバス場だった。
その時、先客として不機嫌そうにシュートを繰り返していたのが火神であった。暫く観察した後、話しかければ盛大に驚かれたのは良い思い出である。たった一人でバスケをしていた火神、その険しい顔はどこかカラフルな彼等と重なるようで気になり。話しを聞けば、長くアメリカに居たこと。そこでバスケに夢中になったこと。日本に帰って来てみれば強い奴が居なくてつまらない、などの不満が出てきた。
おそらく、火神が入った中学のカラーがそうなのだろう。運動部は体力作りや仲間意識、それと内申などのためが強くて戦績に重きを置かない学校。そういうところでは、本気でやりたい者には物足りないだろう。それは分かる、分かるが見限るのが早すぎだ。なにしろ黒子は、とんでもない才能の持ち主を五人も知っているのだから。
そのことを告げれば、火神は途端に目を輝かせて食いついて来た。現金と言うか、単純と言うか。その素直さが可笑しくて、純粋に期待に満ちた目が眩しくて。黒子は彼となら、なくしてしまった光を取り戻せるような気がした。
彼等と同じ学校より、違うところで戦う方が断然楽しい。そう言ったのは黒子であり、その場として誠凛高校を勧めたのも黒子であった。なのに肝心の本人が、誠凛に進学できないとなれば火神がむくれるのも致し方ないだろう。
「なるほどなー。てか、火神。お前は短絡過ぎっ」
「まったくですよ。ちょっと月バスでも読めば、キセキだけじゃなく笠松さんのこととかも載っているのに」
「オレのことは良いんだよっ」
「うぐっ、反省はしてる、です」
「んで? 降旗達、初心者三人衆は?」
「……忘れました」
「ちょ、黒子ー! アレは忘れちゃダメっ」
「降旗のこの慌てよう。何やらかしたんだ?」
「大したことではないです」
「ウソつけー!?」
それは誠凛の受験日のこと。昨年新設されただけあり真新しい校舎、やはり高校はここに通いたいと決意を新たにした黒子は。ある意味、気が抜けていたのかもしれない。いや、素が出ていたと言うべきだろうか。必須科目の半分が終わり、休憩時間となった時。大半の受験生がそうであるように、黒子もお手洗いに立ったのであるが。うっかり入ったのは男子トイレ。
中学は男子として登録されていたので、当然のことながら制服は男子の物であった。しかし高校からは女生徒になるため、受験で男子の制服を着る訳にいかず。急遽、友人からリボンタイとスカートを借りていた黒子。ぶっちゃければ、友人とは桃井さつきのことである。自分が女と分かってから、数少ない女子の友人として桃井とよく連絡を取っていた訳だ。
それはともかく、男子の制服のままであれば誤魔化しが効いたかも知れないが。その時はばっちり女子の制服だったのである。そして人が少なかったなら、持ち前の影の薄さで気付かれなかったかも知れない。しかし同じ考えの受験生は多く、結構な混雑具合だっため。何度か人とぶつかれば、嫌でも見つかってしまうのである。なんの躊躇もなくスルリと男子トイレに入りこんだ、女生徒の黒子が。
当然の如く、気付いた野郎どもから野太い悲鳴が上がる。その中に降旗、河原浩一、福田寛が居り、慌てて黒子を外へ引っ張り出したのもこの三人であった。その後、黒子へ説教しながら自分達へ頭を下げる火神の姿が忘れられないと三人は口を揃えて言ったものである。
そんな出会いだったものの、いや、そんな出会いだったからなのか。何となく意気投合した五名は、受験終了後にマジバにくり出しお疲れ会と称する打ち上げをした。黒子と火神と言えばバスケな訳で、その時も当然の如く話題となった。バスケは授業ぐらいでしかやったことのない三人であったが、熱心な二人に感化されてか大いに興味を持ち。ストバス仲間となって現在に至る。
「じゃあ降旗達もバスケ部に入るのか」
「はい!」
「黒子の話しじゃ誠凛って結構つえーんだろ? 楽しみだ、です」
「そうなんです。去年IH予選で良いところまで行ってたんですよ」
「へー、そりゃ楽しみだな。といっても神奈川と東京じゃあそうそうあたらねーだろうけど」
「火神くん、そして特に降旗くん。どうかボクの分まで頑張ってください」
「そりゃ頑張るけどよ。お前はバスケ部どーすんだ?」
「秀徳には緑間くんが居ますからねぇ。今はなんとも」
「て、言うか。オレは特にってどゆこと!?」
「誠凛バスケ部は人数が少ないんです。初心者だろうと試合に出される可能性は高いんですよ、ですから全部とは言いません何か一つを集中的に練習して使えるようになってください。降旗くんはPG向きですからぜひともパスを極めて欲しいです」
「うえぇえええええええええええ!?」
「つーかそれ、フリを身代わりにする気かよっ」
「どちらにしろ、ボクは試合に出れませんから火神くんの相棒は降旗くん達にお願いするしかないんですよね」
「あー、そっか。お前女だっけ」
「不本意ながらそーですよ」
「なるほどな。んじゃ今日は徹底的に鍛えてやんよ、降旗。お前、PG志望なんだろ?」
「ひぃ、か、かさ、笠松さんは恐れ多いで、すっ」
「なんて羨ましい! ボクもお願いします、笠松さん」
「おー、降旗もコレぐらい言え」
「笠松、さんっ、オレは!?」
「おう、火神もな。纏めてかかって来やがれ」
そんなこんなで本日は人数が少なかったのもあり、主に笠松によるバスケ講座が殆どであった。流石は全国の舞台で揉まれた経験のある選手と言うべきか。初心者の降旗、パス以外イマイチ過ぎる黒子はともかく、身体能力が高い火神であっても荒削りなせいか良いだけ笠松の掌の上で転がされていたと言う。
「なあ、黒子ー」
「何ですか? 降旗くん」
「タップパスって難しい?」
「そうですね……、判断力と手首の強さが必要かも知れません。ボールを持って出す相手を探す暇がありませんから」
「そっかー。オレさボールを持っちゃって相手につかれたら、怖くてテンパっちゃうから黒子みたいにタップパス出来れば良いかなぁ、なんて」
「なるほど。それでは特訓あるのみですね」
「え゛!?」
はてさて、降旗光輝の今後はどうなることやら。幸運を祈るばかりである。