バニラシェイク

「IH都予選、お疲れさまでした。お互いに」
「おー……」
「お疲れぇー……」
「暗いですね、火神くんに降旗くん」

『暗くもなるってーのっ』


 そろそろ夏休みが間近に迫ったとある日、黒子テツヤ、火神大我、降旗光輝の三人がとあるマジバに来ていた。結局のところ、秀徳も誠凛もIHに出場は叶わなかった訳で。予選が終了して一週間は経ったのだが、誠凛組はまだグルグルと思うところがあるらしい。
 火神に至っては、足を痛めたせいでずっとバスケが出来ず。そのことも上手く気持ちの切り替えが出来ない理由かもしれない。何しろ単純なバスケ馬鹿だから、きっとボールを持って走りまわればすぐに復活するのではないかと黒子は思う。


「ウチも予選落ちだったんですから、慰めるなんて無理ですよ?」
「はぁ!?」
「どーしてそーなる!?」
「呼び出されて来てみれば、二人揃って暗雲を漂わせてるので」
「あー、わりぃ。呼んだのは負けたことじゃなくて、フリが気にしてたからで……。まあ、むっちゃくちゃ悔しいのもホントだけどよ」
「まだ冬がありますから、そこで勝てば無問題ですよ」
「おう、そのつもりだ」
「で、降旗くん。ボクになにか?」
「ひゅえ!? あ、うん。ちょっと、てか、かなり気になって……」
「何がです?」
「オレ、思いっきり黒子の真似してたから、秀徳でなんか言われなかったかなー。なんて……」
「あぁ、そのことでしたらそれこそ無問題です。むしろ余計に気合いが入ったようで」
「へ?」
「初心者の降旗くんに出し抜かれたのがよっぽど悔しかったようで、皆さんパス練の時間を増やしてましたね」
「おっふぅ、すげー前向きっ。さすが王者ってヤツかな?」
「余計な心配で、良かったじゃねーか。フリ」
「うん、ホッとした。黒子がなんか言われてたらどーしようかとっ」
「それはご心配をお掛けしまして。まあ、ぶっちゃけボクも何か言われると覚悟してたんですけどね。予想がすっぱり外れて拍子抜けしました」


「なんつーか、やっぱアレだ」
「どれだよ、火神っ」
「中学と違う、つーか、あー、言葉が出てこねぇ」
「あ、それはボクも思いました。中学の頃だと、敵に塩を送ったとなれば親の敵みたいに睨まれていたと思います」
「あー、それ分かる。なんか人を責める空気が強いんだよな」
「お、それそれ。そーいうことが言いたかったんだ。学校の違いってより、中学生だからつーか」
「年齢の違いかな? 思うに中学生くらいだと、まだ自分に自信がない感じで。高校生あたりになると自信がついてくると言うか……」
「努力を積み重ねた時間の長さでしょうか。長ければ長いほど、自信に繋がりプライドも生まれます。自分に自信がある人は、不用意に誰かを責めることはしません。プライドがそれを邪魔するものです」
「なるほど。中学生ぐらいだと、どんだけ努力しててもまだ足りねーよな。時間的に。自分に自信がないから、誰かを悪者にして安心しようとするんだ」
「おう、良く分かんねーけどそーいうことが言いたかったんだ」
「ぶっ、火神っ、ホントかよ」
「火神くんはもう少し日本語を勉強しましょう。期末テスト、大丈夫ですか?」
「ぐっ……っ。あ! 追加のバーガー買って来る!」

『逃げた(ましたね)!』


「期末と言えば、そろそろ夏休みだなー」
「夏休みと言えば合宿でしょうか?」
「みたい。誠凛は夏休みの始めと終わりに、海と山で合宿だってさ」
「それはそれは。秀徳は一軍が合宿やるそうです、何でも恒例の場所があるとか」
「え、一軍だけ?」
「はい。部員数も多いですし、公立ですからそんなにバカバカ予算は組めませんよ」
「あぁ、予算ね。うん、ウチは人数少ないから何とか全員行けそう」
「それはご愁傷様です」
「え゛っ、ご、ご愁傷さま!?」
「降旗くん。どの学校も共通で、合宿イコール地獄ですよ」
「ぎゃーす!!」


「そーいや、誠凛の場合は違う意味でも地獄らしいぞ」
「おかえりー、火神」
「おかえりなさい、火神くん。違う意味とは?」
「今回、合宿を二回やるために予算ケチって民宿にしたんだと。んで、飯も自分たちで作るとか」
「あ! カントクが作るって言って、青くなってた」
「……なんとなく分かった気がします」
「そうか? センパイ達はすんげー怖がってて、合宿前に飯の試食会をやるとかなんとか。でもよ、普通にスーパーとかの食材使うんだろ? だったら味はともかく食えるもんが出来んじゃね?」
「そうだよなー、練習で抜かれまくれば味なんか気になんないかも?」
「火神くん、降旗くん、甘いです」

『へ?』

「世の中にはごく普通の食材や調味料を使っても、致死性の高い食事を作りだす人が居らっしゃるのです」
「え゛!? いや、まさか、そこまでは……」
「レモン丸ごと蜂蜜漬けを作ってたけどよ、さすがに飯なら切るだろう。切るよな?」
「……」
「……」
「お二人とも、生還を祈ってます」

『……oh』