「全員、名前書いたかー?」
『はい!』
「では、厳正なるあみだくじの結果を発表する!」
秀徳バスケ部において、恒例となる夏季合宿まであと五日ほど。少々早い時間に集合したマネージャー達により、これまた恒例のあみだくじが行なわれていた。何のくじかと言えば、合宿に同伴するマネージャーを決めるためのものである。
毎年、夏季合宿に行くのは一軍のみ、残りは変わらず学校の体育館でノルマをこなす。なのでマネージャーも二手に分かれる訳だ。あと、予算的にも同伴するマネージャーは五名と決められている。
学校でいつも通りも良いが、気分の変わる合宿も捨てがたい。例え野郎ばかりでむさ苦しくとも、選手達のみならずいつもと勝手が違ううえに仕事量が増えようとも、仲間達と旅行というのは魅力的なものだ。
そんなわけで、毎年ほぼ全員が同伴を希望する。よって人選は完全に神さま頼みと運次第のあみだくじとなっていた。
「と、言う訳でボクも合宿組になりました」
「えっ、テッちゃん女の子だけど良いの!?」
『あ、』
得意げに、あみだで当たったと報告する黒子。そこにすかさず高尾和成のツッコミが入り、部員全員が漸く気づいた。黒子が女だということを。影の薄さのせいか性格のせいか、はたまた本人の意識の問題か、いまだに黒子が女の子と実感している部員は皆無である。当たり前のように同伴を希望し、すんなりとあみだに参加。頭では分かっているはずなのに、誰も疑問に思わない辺りが重症だ。
男だらけの合宿に、なにも無理して女の子が同伴する必要はない。自宅から通う学校組に混ざれば良いこと。だがしかし、せっかく当たったのだからと黒子は一貫して同伴を希望し。結局、部員達も監督も折れることとなった。
「楽しみですね、合宿」
「あー、そーね、うん。テッちゃんってば、なんかやらかしそうで怖い」
「何ですか高尾くん、失礼な。ボクだって真面目にやりますよ」
「問題はそこじゃねーのだよっ」
「はい?」
*
「けぇー、ボロイ」
「煩いぞ、高尾」
毎年、合宿でお世話になっているという民宿にやって来た秀徳バスケ部一行。まるで母校と同じように年季の入ったその佇まいに、思わず正直な感想をもらした高尾が耳ざとい主将から怒られたりして。
少々の休憩の後、すぐに始まる練習。少しでも休む時間を稼ごうと、みながテキパキと割り当てられた部屋へ向かう。その途中で緑間と高尾は因縁浅からぬ誠凛バスケ部と鉢合わせ。その後、不機嫌な緑間とそれを笑う高尾で大変賑やかだったとか。
「え? 誠凛もここだったんですか?」
「らしいよ、テッちゃん聞いてなかったん?」
「えぇまあ、合宿をやるとは聞いてましたけど流石に場所までは」
「借りてる体育館も同じらしいぜ? おかげで真ちゃんは拗ねるしでおもしれー」
「拗ねてねーのだよ!」
そんなこんなで普段より数倍厳しいノルマをこなし、午後を過ぎれば誠凛と合流。そこで合同練習になると言われ、両方の部員達から奇声が上がる。まあ、同じ東京の学校が一緒に練習というのは抵抗を感じても致し方ない。しかし合宿のメインは基礎と体力作りなので、そんなに問題はないかとそれぞれ自分を納得させたようだ。
そして二校揃っての練習が始まった頃、黒子が何とも複雑な面持ちで中谷監督に声をかけた。
「監督、少々お願いがあるのですが」
「どうした?」
「ボクが食事を作る手伝いをしたいと思いまして……」
「ん? ウチは宿の賄いさんが用意してくれるが?」
「いえ、ウチではなくて誠凛のです」
「……どうゆうことかな?」
「実は誠凛の監督さんが昼食を準備しているところに出くわしまして、どういう訳か鍋が爆発するのを見たら気になりまして」
「……爆発?」
「はい」
「分かった、頑張って来なさい」
「ありがとうございます」
「ちょー! 火神っ、テッちゃんが作った飯とか、ずるい!!」
「うっせー高尾っ、こっちは命がかかってんだよっ」
「へ?」
「つまり桃井と同等なのだな、把握したのだよ」
「え、真ちゃん。桃井さんて、桐皇のマネ?」
「うむ、情報収集などは優秀なのだが、料理に関してだけは逆方向に優秀なのだよ」
「ブフォ!? なんじゃそら」
「笑い事じゃねーんだぞ高尾、マジで」
「ちょっ、火神までっ。幾らなんでもそれは……、え、マジで?」
『マジだ(なのだよ)』
*
色々と命の危機ははあったものの、両校とも無事に夕食を済ませ疲れを癒そうかという時間。
『だああああああああああああああああ!!?! なにやってんじゃあああああああああああああああああ!! 黒子ぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
とある場所から、複数の野太い叫びが響き渡った。ぶっちゃければ秀徳バスケ部一同の、心からの叫びである。きょとんと全く分かっていない黒子に対し、宮地清志が代表で対峙する。いつもなら一番にツッコミを入れそうな高尾は、笑い崩れて言葉が出ないので。
「何ですか、皆さん。煩いですよ」
「誰のせいだ、誰のっ!!」
「ボクのせいだとでも?」
「その通り! ここをどこだと思ってるっ」
「お風呂です。大浴場って良いですよね」
「そうだな、足伸ばせるし。じゃねーよっ、ここは男湯だバカ者ぉおおおおおおおおおおおお!!」
「当たり前じゃないですか、何を言って……。あ、ボク女でしたね」
「入る前に気づけ!! 轢くぞ!! つーか、とっとと外へ出ろっ」
「あ、ちょ、荷物」
「え゛、何してんの黒子さんっ」
「おや、相田さん。お風呂ですか?」
「えぇ、そうなの。じゃなくて、貴女そこ男湯……っ」
「おー、丁度良かった。誠凛のカントク、コイツを頼む」
「えっ! ちょっと待ってください、清志さんっ。相田さんは女性ですよ!? 一緒に行く訳には……っ」
「だ・か・らっ、てめーも女だろうがぁああああああああ!!」
「あぁ、把握。分かりました宮地さん、任せてください!」
「おう、頼むわ」
「ちょ、相田さんっ!!」
「聞いてるわよー、黒子さん。貴女、中学までは男の子でバスケ部に居たんですって?」
「そう、ですがっ」
「その辺りのお話し、じっくり聞きたいわー。お風呂で」
「ぅえぇええええええええええええ!?」
こうして黒子は誠凛の女子高生監督、相田リコの手によりズルズルと女湯へ引き摺られて行ったそうな。そして合宿の間中、似たような騒ぎが巻き起こったことは言うまでもない。