「むっ」
海常高校バスケ部主将笠松幸男は目当てのバスケコートに人影を見つけて眉をひそめる。
4月に入ってから毎日の光景だ。
練習後に校内外周を軽くランニングするのは笠松の日課だ。
締めくくりに裏庭の外れたところにあるバスケットゴールにシュートを入れて終える。
目立たないところにある雨ざらしでネットも朽ちてしまったゴールは昼休みならばともかく部活が終わって日もくれた夜更けに使っている者はいない。
ナイター設備などあるはずもなく、防犯のために中庭を照らす照明がわずかに光を与える。
環境は悪い。笠松も走ってきた勢いのまま、シュートを入れる練習のため数本シュートを放つだけで本格的にシュート練習をしたいときは体育館に戻るようにしていた。
そんな場所に入学式の翌日から7日間先客がいる。
初めはバスケ部の1年かと思った。強豪校である海常は部活後にも自主練で体育館に残っている部員は多い。まだ入学したての1年が先輩にまじって練習するのは気まずいのかも知れない。
だが、4日目で違うことに気づいた。ここで練習する少年は制服のままだ。部員ならば自主練するにしてもわざわざジャージから制服に先に着替える必要はない。まだ仮入部の1年に部活ジャージは貸与されていないが、海常高校のジャージは学校指定のわりにスタイリッシュなつくりになっており、部活ジャージと大差なく電車に乗ったとしても違和感はあまりない。
それに3日間、部活にやってきた新1年生を見ていたが、彼らしき人物はいなかった。
水色の髪に瞳、まだ出来ていない薄い体つきはバスケ部に混じっていれば目立つだろう。ただ特徴的にも思えるのになぜか印象に残りにくく、改めて部活で彼の姿を探そうとするとどんな人物を探しているのかわからなくなって苦戦した。
笠松は顎を滴る汗を手の甲で拭いながら、息を整える。
7日間。
土日は笠松がここにこの時間にこないからわからないが、毎日いた彼。7日間いたら声をかけようと笠松は決めていた。
カーンと金属が音を立てる。
リングが彼のシュートを嫌っていた。
7日間見ていて、なんとなく彼がバスケ部にいない理由がわかった。
はっきりいえば下手くそなのだ。
初心者に毛が生えた程度だ。
海常高校バスケ部は強豪であるが故に初心者には厳しい。高校からバスケをはじめた者が3年の引退までに試合に出れる可能性はかなり低い。
試合に出れないのはつまらない。それは真理だ。試合に出れなくても得れるものはある。それは嘘ではないが、綺麗事だ。好きだけでは叶わない願いもある。努力はすべてが報われるわけではない。
それでもすべてが無になるわけでもない。少なくともここで毎日1人でシュート練習をするよりは得れるものがあるはずだ。
友人だとか。
とりあえず、あのシュートが入るようにはしてやれる。
笠松は多少苛立っていた。
不条理な怒りなことは自分でもわかっている。だが、どうにも口をださずにはいられない。
7日間、毎日制服に汗が染み込むほど練習しているのにあのシュートのはいらなさはなんなのだ!
フォームは悪くはない。それが余計に気持ち悪い。
すうっと息を吸って、腹からはく。
「おいっ」
びくりと細い肩が揺れる。ゆっくりと彼は振り返り、笠松を見た。突然声をかけられて驚いているようだが、瞳に揺らぎはない。
悪くないと思う。
日頃主将などというものをやってるせいで怖いと言われることもある笠松に臆する様子はない。
「お前、1年だろ?」
「はい」
「名前は?」
「黒子テツヤです」
黒子は訝しげな顔をしていたが、笠松の質問には素直に答える。
「俺は3年の笠松だ」
自分の名前を名乗り返したところで笠松は話の展開を考えてないことに気づいた。
したいことは決まっている。
それを黒子にどう伝えていいのかわからない。
口下手ではないが、上手でもない。自分から話しかけておきながら会話をとぎらせた笠松を黒子はじいっと見つめている。
がさっと笠松は襟首をかくと、諦めた。まどろっこしいのは苦手だ。
「お前、バスケ部はいんねーのか?」
「・・・・」
単刀直入すぎる笠松の問いに黒子は瞬く。予想外の質問だったのかもしれない。
「こんなとこで1人で毎日練習するならバスケ部はいったほうが早いだろ」
「・・・みてて」
「ここは俺のランニングコースなんだよ」
「ならばわかりませんか?僕はこの学校のバスケ部で通用するレベルじゃありませんから」
黒子の言ってることは正しい。
自分を卑下するのは好まないが客観的に見てもそれは紛れも無い事実だ。
だが、少し黒子の物言いに違和感がある。諦めているはずなのにそう聞こえない。
笠松は口を開きかけてやめる。
綺麗事を口にしようかと思ったが、たぶん笠松が言いたいことを黒子はわかってる。
わかってるからこそ聞かない。
笠松は言葉の変わりに実力行使することにした。
おもむろに腕を伸ばして、黒子の腕を掴む。驚いたように黒子は瞬く。笠松はそのままぐいぐい黒子の手を引き、歩きだす。
「か、笠松さん?」
顔にはあまり困惑は出ていないが声は揺れていた。
しかし、笠松は止まらない。慌てて黒子は笠松の背中に問い掛ける。
「どこへいくんですか?」
「体育館だ」
「・・・僕はバスケ部には!」
言いかけた黒子を遮るように足を止め、振り返る。鋭い笠松の視線に押し負けないように黒子も双眸に力を込める。
バスケ部には入らない。
ここのバスケ部にはいったとしても黒子の求めるバスケは出来ない。ならばなるべく関わらずに生きていたかった。
「誰も無理にバスケ部入れとはいわねーよ。確かにあのレベルじゃきっついだろ」
「・・・・」
笠松の歯に絹着せぬ物言いに黒子の瞳が揺れる。自分でいった言葉なのに鋭く胸を刺す。
「だからただのおせっかいだ」
「おせっかい?」
「キモチわりいんだよ!お前のシュート」
がしがしと足で地面を蹴り付けながら笠松はこの1週間の不満をぶちまける。始めは無表情に受け止めていた黒子だが、次第に眉間に皺が寄りはじめる。見る者が見れば、不機嫌になってきたのがわかるだろう。当然声にも険が含まれはじめる。
「だったら放っておけばいいじゃないですか。僕があそこで練習をやめればいいんですよね」
「ああっ!いってねえだろ、そんなこと。シュートが入ればいいんだよ」
「入るなら苦労しません」
「教えてやるっていってんだろ!」
「大きなお世話です」
「だからおせっかいなんだよ」
「いりません」
「・・・先輩の好意を無駄にするってか?」
「・・・・」
最後の一言にだけ、笠松は凄みを足して放つ。ギロリと睨まれて怖じけづく黒子ではない。怖じけづきはしないのだが、少し面倒になってきた。
黒子だって決められるものならばシュートを決めたい。1人でやっていてもらちがあかないなも事実だ。おせっかいでも好意で教えてくれるなら受け入れたほうが楽な気がしてくる。
ちらりと視界にはいった校舎の時計を見やる。
時間的に部活も終わってる時間だ。笠松は練習後の自主練だろう。この時間ならば体育館にいっても彼には会わなくてすむかもしれない。
学校で一度だけすれ違った姿を思い出す。笑顔は変わらなかったが少しだけ鬱屈した空気を感じた。モデルの仕事も再開したらしい。他のキセキがいないこの学校で黄瀬が居残り自主練をしてる可能性は低いだろう。そう思うと少しだけ胸が軽くなる。
後になって思えばかなり希望的観測だった。黒子自身に自覚はなかったが、どこかにちゃんとした体育館のコートでバスケをしたい気持ちがあったのだろう。
「部外者が入っていいんですか?」
ため息混じりに尋ねると笠松はぱっと表情を明るくした。黒子が納得したと思ったのか再び手を引いて歩きだしながら答える。手を引かなくてもと思うが、手を離して逃げないかと問われれば自信のない黒子はおとなしく従う。
「この時間じゃ残ってるやつのがすくねえよ」
笠松の返事に内心安堵する。
「シュート教えてくださるならわざわざ体育館いかなくてもいいのでは?」
「あー、教えんの俺じゃねえから」
「?」
黒子が目を見開く。笠松の言ってる意味がわからない。全力で不信感をあらわにする黒子に笠松は苦笑する。
「1週間見てたんだが、わかんねーんだよ」
「何がですか?」
「どうしてお前のシュートがはいんねえのか」
「・・・」
すぱっとした笠松の物言いは再び黒子にダメージを与える。そんなにおかしなシュートを打っているつもりはない。
「フォームが悪いわけじゃない。ブレてるわけじゃねえし、力加減かと思えば、リングまでは届いてるし。マグレ入りもねえって逆に意味不明」
笠松の分析はざくざくと黒子に刺さる。逃げ出したい衝動に駆られた。
「うちのチームに変態シュターがいて」
うなだれる黒子にきづかないまま話を進める笠松から変な言葉が放たれる。
「変態?」
「あー、変人か。まあ、どっちでもいい」
「よくなくないですか、それ」
さすがに流せず突っ込むと笠松は何故か怪訝な顔をした。
「野郎にはたいした被害はねえから気にすんな」
「女性に被害があるのはもっと問題があると思うんですが」
「いまの問題はそこじゃねえ!」
くわっと先輩の話の腰を折るなと怒鳴る。不条理である。しかも笠松の中で黒子がその変態さんだか変人さんと同類項にされてるのも腹立たしい。
しかし、先輩の強権を発動されてはこれ以上反論出来ない。体に刷り込まれた日本の縦社会が憎らしい。
ブスくれた黒子に笠松は軽く眉をあげると手を引いてるのとは逆の手で水色の髪を掻き混ぜた。
「変人なのは性格でプレイは比較的まともだから心配すんな」
「比較的なんですよね?」
「シュートフォームが独特なんだよ。だから参考になると思うぜ」
「・・・それを先に言って欲しかったです」
しっかりしてるのか抜けているのかわからなくなってきた先輩に黒子はこれみよがしにため息をつく。
あからさまな態度に笠松はぴきりと青筋を立てながら雑に黒子の頭を撫でていた手に力を込めた。
奇妙な先輩後輩のじゃれあいを繰り返していると体育館についた。
「あー、冷えちまったな」
笠松が汗に濡れて冷えたTシャツを引っ張る。言われれば黒子の汗のにじんでいたシャツもひんやりと冷たくなっていた。
「黒子、着替えあるか?」
「体育があったんでありますけど」
着替えなければいけないくらいがっつりやるつもりなのだろうか。これ以上汗をかくならばいっそ制服でやってジャージに着替えて帰ったほうがいいかもしれない。そう思ったとき、突然の衝撃が黒子を襲った。
「黒子っち!?」
大きな声と同時に抱き込まれる。一瞬状況が把握出来なかった。話に気を取られて体育館のドアが全開に開いていたことに気づかなかったらしい。
黒子たちの姿は体育館からまる見えだった。
「黒子っち!なんでここに?どうして?」
しかも運が悪いことに黄瀬がいたらしい。黒子一人ならば黄瀬は気づかなかっただろう。しかし、笠松に手を引かれた状態では黒子の存在感のなさも意味を成さない。ミスディレクションを発動させて笠松に視線誘導させていればまだよかったのだが、会話に気をとられてまったく油断していた。
これが笠松の作戦なら食えない人だと思うがなんとか首を回してみた笠松の表情からしてそれはないだろう。
そして笠松の驚愕と困惑の表情に黒子は諦める。うやむやにするのは無理だろう。諦めて一つずつ解決するしかない。
「黄瀬くん、とりあえず重いです。離して下さい」
「嫌っス!」
(即答ですか・・・)
黒子は黄瀬の腕の中でげんなりする。頭上で黄瀬がきゃんきゃん吠えているが、まったく耳に入らない。状況を解決する意思まで失われていく。
「何してんだ!お前はっ!離せ!」
「嫌っス!」
すべてを投げ出しかけた黒子を救ったのは笠松だった。
黄瀬の顔を手の平で押しのけ、黒子から引きはがそうとするが、黄瀬もしぶとく黒子から手を離そうとしない。結局、笠松によって正面から抱きしめていた黄瀬が背後に回っただけだった。
視界がクリアになったのがマシなのか否か。居残りのバスケ部員であろう人達の視線が痛い。
彼らはなんとも言えない表情をしていた。珍しくいけ好かない後輩が自主練をしてるかと思えば、主将が連れて来た謎の人物に駆け寄り、抱きしめたあげくに別れ話のこじれたカップルのような会話をしているのである。奇妙な表情にもなろうというものだ。
笠松が額の青筋をひくひくさせながら尋ねる。努めて冷静でいようとしているのがわかる。
「お前ら、知り合いか?」
「親友っス!」
「違います」
黄瀬の張り切った答えにすかさず黒子の訂正がはいった。黒子の言葉にしゅんと黄瀬がうなだれる。なんとなく2人の関係性が見えるやりとりだが、答えから関係はわからない。
笠松の青筋がさらに深くなる。
「・・・同中か?」
「・・・はい」
「チームメイトだったッス!」
答えたくなさそうに答えた黒子にこの答えならば怒られまいと黄瀬が嬉々として答える。褒めてとしっぽを振るような仕種だが、バスケ部員たちはそんな視界の暴力よりも黄瀬の答えが気になった。一気に場がざわつく。
「帝光中バスケ部?」
「当たり前じゃないっスか!!」
何故か黄瀬が胸を張る。笠松は驚愕に目を見開きながら黒子をみた。黒子は何故か苦虫を潰したような顔をしていた。
「黄瀬、黒子を放せ」
ギロリと黄瀬を睨む。しかし、黄瀬に効果はなく、手を放そうとしない。
「黄瀬くん、逃げませんから放してください」
「・・ホントにホントに、逃げないっスか?」
「はい」
「ミスディレクションもしないっスか」
「約束します」
何度も念押ししてもまだ不安げな顔でようやく黄瀬は黒子から手を放した。ふうと笠松が息をつく。ようやく話を進められそうだ。
「黒子、ロッカーまでいく時間もったいねーから用具室で着替えてこい」
「・・わかりました」
笠松が体育館のはじに作られた用具室を示す。少しだけ間をおいて黒子は頷く。
ここは笠松の指示に従うのが状況打開への近道だろう。
用具室に向かう黒子を追おうとした黄瀬がつんのめる。後ろからTシャツが引っ張られていた。
「お前は残って説明しろ」
目力を込めて、命令する先輩に吊られるように黄瀬も目を鋭く細める。
「なにを、スか?」
何故か敵愾心が漂って来る。ギャラリーの部員たちがぶるっと体を震わせた。だが、後輩の眼光ごときに怯える笠松ではない。
「黒子が帝光中バスケ部ってマジか?」
「マジっスよ」
「レギュラーで」
「スタメンっス」
淡々と質問を口にする。だが、質問をかさねるごとに表情が困惑を映し出す。笠松はこの7日間黒子の練習を見ていた。シュート練習が主だったが、とても全国3連覇を果たしたチームのスタメンには見えない。そう口にすると黄瀬は一瞬だけ眉をひそたが、再び無駄に胸を張る。情報をもっていることで優位に立っているつもりな態度が非常にむかついたが、ここはぐっと我慢する。
「シュート練じゃ、黒子っちの凄さはわかんないッスよ」
「・・・・」
「黒子っちはゲームの中で、味方と敵がいて真価を発揮するっス」
自信満々に言う黄瀬がうさんくさく、自然と皆が不審そうな顔をする。皆の表情が変わったのはあるキーワードを聞いてだ。
「帝光中幻のシックスマンって聞いたことないっスか?」
尋ねてはみたが表情で皆が知っていることはわかった。『幻』というには知名度が高すぎるが、それも黒子の凄さ故だと思っている。思い出すのは彼の魔法のようなパスだ。帝光中のシックスマンであった黒子の武器はシュートでもドライブでもなく、敵の間を抜け、くるいなく手元に収まるパスだ。ぞくりと肌が淡だつ。忘れかけていた感覚だ。体が熱くなる。
中学三年の全中以来姿を消した黒子。ずっと探していたのに黄瀬は見つけることが出来なかった。本当は少しだけ見つけるのが怖かったのだ。彼と彼の相棒との関係が崩れていくのを見ていたから。彼を見つけてもどんな言葉をかけていいのか中学三年生の黄瀬にはわからなかった。そうしているうちに卒業を迎えてしまった。教師にも口止めをしていたのか、クラスでも影が薄かったせいか、黒子の進路もわからなかった。だから、先ほど体育館の入り口で笠松に手を引かれる彼を見て、目を疑った。
彼に再会したらどうしようと悩んでいたのが嘘のように湧き出てきたのは歓喜の想いだった。黒子が会えたことが嬉しくて、しかも海常の生徒だと言う。
神様が黄瀬に味方してくれたとしか思えない。
黒子が海常のバスケ部に入ってくれれば。中学の時は五等分、いや、彼の相棒にだいぶ偏っていた気がする。わずかしか回ってこなかった彼のパスを黄瀬が独り占めできる。
彼の魔法のパスを受けて、シュートを決めたときの快感を思い出して、黄瀬の口元が緩む。
「幻のシックスマン・・・」
笠松が口の中で黄瀬から聞いた言葉を反復する。噂を聞いたことはある。プレイスタイルは分からないが、帝光中のスタメンともなれば推薦の誘いもあったはずだ。すべてを蹴って、何故海常にいるのだろう。しかも黒子は自分が力不足だと言った。
帝光中のスタメンを取るほどの自分を力不足という理由はなんだろうか。
毎日一人で練習を続けるほどにバスケを好きなのに、部活には入りたくない。真意がわからない。
「お待たせしました」
「うわっ!」
不意に背後から声をかけられて驚く。知らない間に黒子は体操服に着替え、傍らに立っていた。あまりの気配のなさに思わず笠松は声をあげてしまった。のけぞったときに黒子の足元が目に入る。
「バッシュ、もってるわけねえよな」
「はい。でも体育館ばきで大丈夫です」
「・・・・」
「シュート練習みてやれなくてわりいな」
「・・・・もう諦めました」
笠松の謝罪に黒子は無表情で答えた。その答えに笠松は苦笑する。本来ならば、約束通り黒子のシュート練習をみてやるべきなのだろうが、この状態では黒子の存在が気になって仕方ない。それでも約束を反故したような後ろめたさに笠松はもう一度謝罪を口にする。
「わりいな」
ぽんと黒子の頭を撫でて、笠松は部員たちに声をかける。試合の中でしかその力がわからないというなら試合をするまでだ。
「3on3やるぞ!森山、小堀、はやか・・」
「はいはいはい!!!オレ、黒子っちと組む!!」
笠松の言葉にかぶって、黄瀬が主張する。笠松は軽く額に青筋を立てながらもなんとか堪えた。
「こっちは黒子と黄瀬と俺だ」
「えー、オレと黒子っちの二人でいいのに〜いで!!!」
ぶち。傲慢な黄瀬の物言いと態度に笠松の堪忍袋の緒が切れる。思いっきり黄瀬の頭をはたいた。
「お前は黙れ!」
「ひでえ〜」
黄瀬が抗議の声を上げたが、明らかに悪いのは黄瀬である。
黒子ははあと小さく息をついた。
「何か気をつけておくことはあるか?」
センターサークルに向かいながら、笠松は黒子に尋ねる。黒子は少し考えて答えた。
「ボールから目を離さないでください」
黒子の言葉に笠松は首をかしげた。
ボールから目を離さないのは当たり前のことだ。
その言葉の意味を笠松が理解したのは試合がはじまってからだった。