竹を割ったように真っすぐ育てよと、願いを込められたらしい私の名前。曲がりなりにも女の子なのだから、何と言うかもう少し柔らかい感じの名前はなかったのかと思ったり。
まあ結果から言えば、親の想い通りかつ勇ましい発音の通りに育ちましたとも。えぇ。
ドロッドロの恋愛ドラマを見れば。『だぁあああああ!? まどろっこしい!!』
可愛らしい少女漫画を読めば。『ウダウダ悩むな! 男が欲しけりゃ押し倒せ!!』
と、思うわたくし。海常高校一年バレーボール同好会所属、成り立てホヤホヤの女子高生である竹本竹緒十五歳。
最近、恋を致しました。
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ことの起こりは、入学早々のホームルームにて。早速とばかりに各種委員の選出があったのですよ。海常高校と言えば軒並み運動部のレベルが高く、それ目当ての入学者が多い。よって、放課後などは部活に追われる者がほとんどで、面倒な委員などやりたがるヤツは居ない。
しかしまあ、教師陣も良く考えるもので。一人ももらさず何かしら委員になるように、委員会の数が調節されているイヤラシサ。となれば仕事の楽そうなものに人気が集中し、大変そうなものは不人気だ。中でも一番仕事量が多いと言われているのが図書委員、何しろデカイ学校にみあう図書室の数と蔵書の数だから。
そんな訳で、人気なところも不人気なところも。最終的には一発神頼みのあみだで決めるんですがね、運悪く当たっちゃったんですよ図書委員。最低でも二名の図書委員、今回は珍しく希望者が一名居たのであと一枠。そこにピンポイントで当たってしまう私は、運が悪いと言わずして何と言う。
私は中学まで、バレーボール部に所属してました。身長百五十センチ弱だけど。えぇ、百五十センチ弱ですよ。たとえ正確には百四十九センチちょいでも、百五十センチ弱と言うのです。異論は認めない。
ド派手なスパイクに憧れてやっていたけれど、現実的なポジションはリベロでした。それでもバレー自体が好きだったので続けてたし、これからも続けるつもりだけど。流石に強豪と呼ばれるここでは部に入る気になれなくて同好会を希望。
同好会は男女混合で、第二体育館でバスケとバトミントンの同好会と一緒。ローテーションを組んで、週に一度はメインでコートを使えるようになっている。その一日とあと二日、最低でも週に三日は活動していないと体育館の使用許可が取り消される仕様。
因みに海常の体育館の数はなんと五つ。バスケとバレーそれぞれの専用体育館と、授業でも使う第一と第二体育館。トドメに県大会など公式戦で使える観客席付きの体育館、いくら私立とは言え贅沢にも程がある。
それはともかく、私は毎日トレーニングしてるけど。部に比べれば楽なものだし、面倒な委員を押しつけられても文句は言えないし言う気もないが。まともに本など読まない私がなってもねぇ。そんなことを思いつつ、数日後に図書委員の初仕事へ向かったのですよ。
体育館も多ければ、図書室も多い。新刊など割と新しめな蔵書の第一図書室、古く貴重な本が納められた第二図書室、資料や参考書に大学のパンフレットなどが置かれている第三図書室。どんだけだよこの学校。
それでもって第一が一年、第二が二年、第三が三年の図書委員というように割り振られている。勿論、私が向かったのは第一図書室。そこでなんと運命の出会いをしたのですよ。思わずどこのマンガだよ、とセルフツッコミしたけどね。
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「くっ……っ、この私に挑むとは、小賢しいっ」
図書室の本棚って、どうしてこう高いのか。本日の当番が言いつかったのは、最近入荷した本と返却された本の整理。言葉にすれば簡単だが、実際は結構な重労働。本て意外と重いしなにより重大な問題は、届かねーよ。平均身長を考えない本棚の高さ、踏み台を使っても届かねーよコンチクショウ。
大体、ウチのクラスのもう一人はどうした。顔は覚えてないけど男だったはず、野郎がか弱い女の子一人にこんな仕事させやがって。後で絶対にシメてやる。
などと考えていた罰が当たったのか、はたまた欲張って本を抱え過ぎたせいか。踏み台の上で悪戦苦闘していた私はうっかり本を落としそうになり、芋づる式にバランスも崩してあわや転落の危機に。
「ぬおぉおおおおおおおおおおおおおおおお!? お? アレ?」
「大丈夫ですか?」
「へ? うおっ!? ありが、とう?」
乙女らしからぬ雄叫びを上げて、転げ落ちそうになった私を本もろとも支えてくれたのは。いつから居たやら全く気配のなかった人物で、よくよく見れば水色の目と髪をした白い肌の小柄な少年。や、私よりはデカイけど。
「本をボクに、立てますか?」
「うぇっ、うん、大丈夫、ありがとう」
「どういたしまして。と言うよりすみません、ボクがやるつもりでしたが気付かれなかったようで。こんなことならもっと強く引きとめるべきでした」
「えっ、居たの!? あ、ゴメン」
「影が薄いもので、お気になさらず」
「えーと、私は竹本竹緒。それで、あの」
「知ってますよ、同じクラスの同じ図書委員ですから。ボクは黒子テツヤです」
「はっ!? えぇええええええええ!! 同じクラス!? て、うぉ、ゴメンっ」
「馴れてますから大丈夫です」
「いや、そーいう問題じゃ……。うん、ホントゴメン。そんで、ありがとう」
「怪我がなくてなによりです」
うわぁ、なんだこれ。紳士か、紳士だな。何と言うかそのへんの野郎共と雰囲気が違う。おもいっきり背後から抱えられたけど、いやらしさがまるでないし。踏み台から降りる時も、さり気なく手を引いてくれたり。うん、紳士だ。
更にだ、一緒にやる方が早く終わりますよ。とかなんとかサラッと言っちゃうあたり、後は任せろ的じゃないところが気が効いてる。代わりに踏み台に上った彼に、本を抱えた私が一冊ずつ渡す。ちゃんと私にも仕事をさせてくれるうえに、ホントにサクサク進むし凄いじゃないか。
何だろう、無表情で淡々としてるのにカッコイイ。可愛い系の顔立ちなのに、男前な所業ってどうなの。惚れてまうやろー! なんて冗談を胸中で叫んでいたのだが。その後、本当に惚れました。ハイ。
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サックリと本の整理が終わり、カウンターに戻って雑務をしていた時、私の好奇心が唸りを上げた。
「図書委員に立候補したのって、黒子くんだったんだ」
「はい、本が好きなので」
「なるほど。もしかして文化部? 私はバレーの同好会」
「いえ、バスケ部です」
「えっ、バスケ部ってあのバスケ部!?」
「多分あのバスケ部ですね。お察しの通り二軍ですけど」
「あー、うー、えーと、頑張れそう?」
「やりたいこともあるので頑張るつもりです。諦めるのはいつでもできますし」
「っ、いつでも?」
「そうですよ、好きなものを最初から諦めてしまうのは勿体なくないですか?」
「……うん、そうかも」
諦めるのはいつでもできる。なんて男前なセリフだろうか。別に気負うでもなくごく普通に告げられて、私はこの瞬間恋に落ちた。
単純なヤツと笑いたきゃ笑えば良いさ。この時、私は同時にバレー部に入ることも決めた。最初から諦めたヤツなんて、彼に呆れられたくなかったから。