兎の上り坂


五月も半ばを過ぎたとある休日。半袖でもうっすら汗をかきそうな、ポカポカ陽気のその日。黒子テツヤ、黄瀬涼太、火神大我の三名が都内のストバス場にやって来ていた。


「んじゃ、一軍にはなれたのか? 黒子」
「はい。なんとか」
「おー、おめでとう!」
「ありがとうございます。火神くん」
「で、なんで黄瀬はむくれてんだ?」
「むくれてないっスよ! ただ、レギュラーにするかどうかは分からないって言うから……」
「まだ言ってるんですか」





兎の上り坂






 『青の精鋭』などと称される全国クラスの強豪、海常高校男子バスケットボール部。そのチームの監督を務める武内源太は悩んでいた。

 ことの発端は、二軍コーチの愚痴を聞いたことに始まる。熱心だが扱いに困る新入部員がいると言われ、やる気がある者なら面倒を見るべきだと力説しておいて部の主将に丸投げしたのは記憶に新しい。そしてその主将、笠松幸男がなんと件の部員を一軍に、どころかできればレギュラーにと推薦して来たから堪らない。
 二軍のコーチは素人レベルと評していたのに、なにがどうしてそうなるのか。訳が分からず悩ましい。いや、理由は聞いたが今一つピンとこない。こんなことなら一度くらい自分で見ておけば良かったと、苦虫を噛み潰しても自業自得である。
 話だけでは理解できない、というのは笠松も分かっているようで。とにかく一度プレイを見てくれとの一点張り。仕方なくその日の練習時、問題の人物を一軍に引っ張り出しゲームをさせたらあらビックリ。極端に一点特化した選手で、今までに見たこともないタイプ。
 確かに極限まで一つのことを極めたプレイは素晴らしい、その技術だけ見るならレギュラーにもなれるだろう。が、他がダメすぎ。落差が極端で使いどころに悩まされる訳だ。
 そんな難しい選手を無理に使わなくとも、安定した実力を持つ選手は幾らでも居る。だがしかし、それで切り捨てるには勿体ないと思わせるから堪らない。そんな悩める監督の耳に悪魔の、もとい、笠松主将の囁きが。


「監督。あの黒子テツヤと申す者は、今のところ部の誰よりも努力しておりまする。そのような者を昇格せしめれば、他の者共への励みとなりましょう」
「うーむ」
「更に、黄瀬と同中ということもありもうして、奴めの扱いもお手の物でござりまする」
「む、それはまことかっ」
「えぇ、まことでございますとも」
「それは、うーむ……」
「これは噂にございますが、かの者は秀徳・桐皇の両校も目を付けていたようで。我海常が手にしたとなれば、さぞ悔しがることと存じます」
「なんと! あ奴等がっか!?」
「左様でございまする」
「えぇーいっ、致し方ない。一軍には招くとしようぞ! じゃがレギュラーへは幾度か試してみてからとしようかのう」
「御意」











「て、感じのやり取りがあったらしいんスよ!」
「これからIHの県予選まで練習試合がてんこ盛りですので、そこで実践で使えるか試されるようです」

「ちょっと待てぇええええええええええええええええええ!!?!」

「へ?」
「何ですか、煩いですよ火神くん」
「おまっ、何だその小芝居はっ!!」
「あれ? 面白くなかったっスか?」
「普通に話すのも面白くないかと捻りを入れてみました」
「どこに捻る必要があんだよ! 普通に話せよ普通にー! わけ分かんねーよ!!」
「ちょっと火神くんのお頭には難しかったですね、すみません」
「そーいうこっちゃねぇええええええええええ!?」
「えー、時代劇見て頑張って練習したのにー」
「頑張るところがちげぇえええええええ!? バスケを頑張れよっ!!」
「何を言ってるんですか、バスケを頑張るのは当たり前です」
「そースよ!」
「だぁあああああ、もう! てめーら全力で人をおちょくってるだろぉおおおおおおおお!!?!」

『てへぺろ』

「うぜぇ!!」


「まあまあ、火神くん。落ち着いてください」
「とりま、黒子っちが一軍になったのは良かったっス」
「つーか、練習試合がてんこ盛りって?」
「こちらは県予選が始まるのが早いですから、調整と黄瀬くんのコピーストックを増やすためです」
「あー、なるほど」
「スタメンは決まってるんスけど、レギュラーはまだ固定されてないんス」
「なので元々、何人か候補がおりまして。入れ替えて試すつもりだったようです」
「それに黒子が混ざった訳だな?」
「はい」
「もうこれで決まったも同然っス!」
「だから決まってませんてば、何度説明したら理解するんですか君は」
「決まってるのぉおおおおおおおおおおお!!」
「黄瀬、てめーはガキかっ」
「黄瀬くんは、火神くん並みに日本語が理解できないようで」
「ブッ、ヒドッ!?」
「おいコラ、オレを引き合いに出すな!! つーか、バスケしよーぜ! バスケ!!」
「やるやる、やるっスー!」
「そういえば、ここはストバス場でしたね」
「オイッ、忘れてんじゃねーよっ!!」


 その後、めいっぱい走り回った三人。休日のバスケをたっぷりと堪能できた模様、途中で約一名が撃沈したけども。
 それはともかく、黒子も何とか一軍に上がることができレギュラーへの道も見えてきた。はてさて見事監督のお眼鏡に叶うことができるやら、その結果が出るまであともう少し。


「ウチが一足先にIH出場を決めるっスけど、火神っち達も途中でコケないでね。リベンジするんスから!」
「まだ始まってねーのに余裕だな、オイッ。てか、コケねーよっ」
「油断は禁物ですよ、黄瀬くん」
「大丈夫っス!」
「おい黒子、アイツはバカなのか? なんだあの根拠のねー自信はっ」
「根拠ならあるっス! オレが居るんだからとーぜんでしょ!!」
「やっぱバカだった!!」
「火神くんに言われるとアレですけど、否定はできません」
「おいぃいいいいいいいいい!?」
「黒子っちぃいいいいいいい!?」