アンフェア
「全国ベスト8だろう、胸張って帰るぞ!!」
そんな笠松幸男の一喝を合図に、海常高校男子バスケットボール部の夏が終わった。
IH準々決勝、海常高校対桐皇学園。黄瀬涼太対青峰大輝とも言われたその試合は、キセキの世代同士の初の対戦としてかなりの注目度であった。怪物じみた才能を見せ付ける両エース、試合の終盤は文字通り一騎打ちの展開に。しかし黄瀬は一歩及ばず、その結果がそのまま試合の勝敗も別けたのである。
「黒子っち……」
「はい?」
「ごめんね、約束したのに負けちゃった」
「黄瀬くんが謝る必要はないです。むしろ、謝らなければならないのはボクの方ですから」
「へ?」
「ボクは結局、何もできませんでした」
「それは……」
サボリ癖のある青峰も、黄瀬が相手となればやる気を出したようで開始から試合に出ていた。それに対抗するために黄瀬を下げることができず、黒子の出番はほぼなかったのである。
これはもう、相手が悪かったとしか言いようがない。なにしろ黒子は中学時代、青峰の相棒をしていたのだ。黒子は青峰のことを良く知っているが、それと同じことが青峰にも言える。おまけに桐皇のマネージャーは、情報収集や分析に長けた桃井さつきである。黄瀬と黒子を同時に出すとしても、攻撃力及び防御力を下げることになる。チーム力にそれほど差のないこの試合では、それは大変危険な賭けとなる訳で。武内監督の判断は結局その賭けに出ることはせず、黄瀬のみに託す判断をした。
それが良かったのか悪かったのかは分からない。ただ言えることは、黒子には危険を冒してでも使いたいと思わせる実力がなかったということ。誰よりも本人が、そのことを自覚させられた試合でもあった。
「黄瀬くん、悔しいです」
「うん……、悔しいっス」
「次は冬です」
「うん」
「それまでにボクは、是が非でもシュートをなんとかします」
「オレも、もっとコピーの精度を上げるっス!」
「次は、勝ちましょうね」
「もちろんっスよ!」
*
海常の出番は終わってしまったが、準決勝、決勝と他のキセキの世代が出てくるのを見逃す手はないとIH最終日まで残ることに。だがしかし、期待に反して残る三人のキセキの世代はコートに姿を見せることはなかった。
何だか不完全燃焼のような、何とも複雑な心境を抱えることとなった海常メンバー達。期待していた分、肩透かしを食らったようで面白くない。それでも閉会式まで見届けて翌日に帰路につき、その日の夕方には寮に戻ることができた。その玄関口で、皆がホッとしたように脱力した時。黒子の携帯に一通のメールが届く。
差出人は火神大我。その場でメールを読んだ黒子は、珍しく怒りもあらわに目尻を吊り上げ周りを驚かせた。
「ふ、ふふふふふふふふふ」
「ちょ、黒子っち!?」
「そーですか、そういうことでしたか」
「おい黒子、顔がやべーことになってんぞ」
「怒ってる顔も可愛いが、一体どーした?」
「黄瀬くん、笠松先輩。ボクは今、過去最高に怒ってます」
「見りゃわかるわっ」
「ちょ、オレは!?」
「森山センパイはちょっと黙るっス!」
「黄瀬ー! お前、先輩になんちゅーことを!!」
「どっちも黙れ! シバクぞ!!」
『もうシバイテる(っス)』
「青峰くんが欠場したのは分かります。黄瀬くん同様、どこか痛めたのでしょう」
「だろうな」
「ですが紫原くんが出なかった理由はなんですか。赤司くんに言われたから? 何をふざけたことをぬかしてんでしょうかあのトトロは!!」
「ぅえ、ま、まあ、前から紫っちは赤司っちと戦うの嫌がってた、し?」
「その赤司くんに至っては、自分が出たら簡単に勝ててしまって面白くないからですと?」
「ひぃ!? 黒子っち、顔、顔が……っ」
「どうしてくれようかあの厨二病患者めっ、黄瀬くん!!」
「は、ハイっス!?」
「冬には絶対、あのバカ共をぶっ飛ばしますからね!! そしてこのふざけた態度を末代までの恥にしてやる!!」
「落ち着いて黒子っちぃいいいいい!?」
「おい黒子、黄瀬に宥められたらそれこそ末代までの恥だぞ」
「どーいう意味っスかー! 笠松センパイー!!」
「まあまあ落ち着け、黒子も、な?」
「でも小堀先輩、頭にきませんか!? あの二人の態度!!」
「んー、確かに強いからねぇ、言うだけのことはある。それでも思考回路は理解できないけどね」
「だって、どの学校だって三年生には最後の夏なのに!!」
『え?』
「そりゃあ個人個人では全力で戦っただろうと思います。でもこんな自分勝手な理由で試合を放棄したレギュラーがいるなんて、チームとしては全力を尽くせなかったってことじゃないですか! もう二度とIHに出ることは出来ないのに、こんなの酷過ぎる!!」
「……そうだな黒子、その通りだ。例え結果は変わらなかったとしても、もしもの可能性がある限りスッキリしねーよな」
「っ、すみません笠松先輩。取り乱しました」
「いや、お前は間違ってねーよ」
「そのとーり! 冬には全員纏めてウチがぶっ飛ばーす!!」
『おう!!』
「て、森山ー! なんでテメーが〆んだよっ!!」
「イダッ!?」