SPEC


 さて、運動部の夏と言えば合宿である。IHでの敗北により、各々自分に足りない要素を見出しやる気が向上しているところ。そこで纏まった休みでもあれば、勝手に努力しそうで恐ろしい。よって海常バスケ部では丸一日の休みの後、すぐさま合宿を始めることとなった。まあ、帰省などは考慮されている。家庭の事情もあることだし。
 運動部全般において、活動条件がこれでもかと整っている海常高校では校内での合宿が殆どである。かくいうバスケ部も、校内の宿泊施設を利用しての合宿となる。
 殆どの部員が寮生であるのに、それはどうなのかと思わなくもないが。寮まで片道十五分であるのに比べ、校内なら移動時間はないに等しくそれくらいが利点であろうか。あと、家から通学している部員もいることはいるので全員で寝泊まりするのも悪くない。
 因みに、寮には基本的に地元の者は入れない。ただし運動部に所属している者は、自宅からの距離を考慮して許可される場合がある。なにしろ朝練やらなにやらで、朝も早ければ帰りも遅くなるからだ。
 それはさておき、合宿初日である。IHが終わった直後なので、あまり無理はさせないようにと。軽い走り込みの後、これまた軽めに基礎練習を終え各自で自主練を始めた訳だが。そこで何とも難しい顔を並べる三名、黒子テツヤ、森山由孝、中村真也が居た。


「なあ、中村。これはどーいうことだ?」
「何がですか? 森山先輩」
「オレと中村がみっちりシュートを教えてきたというのに、ドライブの方が上手くなってるとはこれ如何に!?」
「それは笠松先輩が教えてましたから。でも試合で使えそうにないところが黒子クォリティ」
「うーん、動きは悪くないんだがなぁ。スピードがないからすぐ捕まる」
「ですねぇ。そこでミスディレでも使えれば良いんでしょうけど」
「ボールを持ったままでは何とも……。それより先輩方、もう少し、その、オブラートに包んで頂けると助かります」
「あ、ゴメンゴメン」


 フリースローラインでボールを持つ黒子が、心なしか項垂れていた。言われていることは事実だが、自覚しているだけに痛い。誠意の欠片もない森山の謝罪に、黒子は深く溜息をついた。
 元々、黒子のシュート練習を見るよう主将より頼まれたのは森山であったが。フォームが基本通りなこともあり、大半は中村が見るようになっていた。真面目にレクチャーする脇で、森山が茶々を入れて怒られるというのが自主練で馴染みの風景となっている。
 それは黒子が一軍に上がってから続いているが、どういう訳か一向に上達しない。黒子は頑固なところがあるようだが、シュートまで頑固に外すことないのにと先輩二人は思ったり。


「これはもう、やっぱり森山先輩の範疇では?」
「かなぁ? なまじジュートフォームが奇麗だから、勿体無い気もするんだが」
「その奇麗なシュートフォームで悉く外すんですから、それじゃダメってことですよ」
「中村、オブラート、オブラート」
「それに入るようになったとしても、既存のフォームでは止められますよきっと。なにせ高さがないですから。それなら森山先輩みたいに、意表をつくフォームの方がまだマシじゃないですか?」
「うっ……っ」
「中村ー! オブラート!! 黒子がめり込んでるから!」


「と、いうことで黒子。適当に投げてみ?」
「森山先輩、アバウト過ぎます。どう投げたら良いやら……」
「この際だからゴールにパスしてみれば? フォームはどーでも入れば良いんだし、汚いシュートは減点とかないから大丈夫。そんなルールだったら森山先輩なんか存在できないだろう?」
「ちょっと中村! オレまで流れ弾ー!!」
「そう言われればそうですね、ちょっと色々やってみます」
「黒子ー! お前まで納得しないでっ」
「煩いですよ森山先輩、事実なんだから仕方ないじゃないですか」
「後輩達が冷たいっ」


「あ! 入りました!!」
「ブフォオオオオオ!? アンダースローとかっ、バスケが見る影もねー!!」
「野球かっ、いや青峰か! ブフゥ!?」
「お二人とも、そんなに笑わなくても良いじゃないですか」
「いや、ゴメンっ。ブッ、それでも、うん、森山先輩よりはマシだと思う」
「ヒデェ!? 良いんだよっ、入ればなんだって!!」
「だそーだから、もっと色々試してみようか」
「はい!」


「どーだ笠松、凄いだろう!」
「あー、色んな意味ですげーな」
「アンダースローに回転投げ、一体なんのスポーツか分からくなる凄さ!」
「こうして見ると、黒子は指先でどうこうよりぶん投げるのがあってるのかもな」
「あぁ、そーかも。パスの要領でと言ったらあーなった」
「まあそれでも、森山よりマシだな」
「笠松までヒドイっ!?」


 それから黒子のシュートフォームについての試行錯誤が続けられ、同時にミスディレクションも使えないかと悩みに悩み。何とか形が見えてくるのは、秋も深まる頃であった。