臨場
「全員、合掌」
「よし! では検視を始める」
『はい!』
「時刻は?」
「12:36です」
「被害者は?」
「性別は男、おそらく高校生と思われます」
「着衣はTシャツにハーフパンツ、靴下にバッシュ。あちらにバスケットボールが転がっていました」
「ふむ、このストバス場に来て倒れたとみて間違いないな」
「おそらく」
「よーし、では脱がすぞ!」
『はーい!』
「ぎゃあああああああああ!? ちょっと待てぇええええええええ!! ちょ、ホントに脱がそうとすんな!!?!」
『チッ、残念』
「舌打ち!? 女子コワイっ、女子バレー部コワッ!?」
男子バスケ部の合宿が、そろそろハードになってきた頃。黄瀬涼太は一人でコッソリと、学校近くのストバス場に来ていた。桐皇戦で足を痛めたため、暫くは運動厳禁を言い渡され合宿にも不参加とされている。実家に戻ることも考えたが、何となく離れがたくて寮に残っていた。
確かにまだ少し痛むけど、動かないと体が鈍って仕方ない。それでちょっとだけのつもりで、ボールを抱えて近くのストバス場に来たら。うっかり熱中してしまい、ついでに暑さにもやられて大の字に転がってしまった。
そこに通りかかったのが、海常女子バレー部の面々。全員ではないところを見ると、練習上がりでどこかへ行く途中のようだ。最初、黄瀬に気づかず通り過ぎそうになったが、メンバーの中に竹本竹緒が居たことで事態は急変。
黄瀬を見つけた彼女は迷うことなく傍へやって来て、ついて来た他のメンバーと共に先程の小芝居を始めた訳である。半ば本気でひんむこうとする女子の一団に、黄瀬が悲鳴を上げるのも致し方ないことだろう。
「竹っちはともかく、センパイ? 達まで何なんスか!! 本気で脱がされるかと思ったっス!!」
「いや、本気だったし。天下のモデル様の裸体を拝めるチャンスかと」
「さすが先輩、そーいうとこ大好き!!」
「お竹ちゃん、君も可愛いよ」
「きゃー! ステキっ」
「ぎゃああああ!! 女子バレー部コワイっ!!」
『失礼な!!』
「ひっ!? すんまっせんっ」
「で、黄瀬よ。あんた何してんの?」
「え゛、いや、ちょっと、体を動かそうかと?」
「ほー、でもさ。足痛めたから、大人しくしてろって言われてんじゃないの?」
「うっ、そーなんスけど……」
「……」
「竹っち?」
「はー……、黄瀬。ちょっと来い」
「へ?」
その場で女子バレー部の面々と別れ、竹本が黄瀬を引っ張って来たのは自宅マンション。なんと徒歩一分、学校からは五分の距離である。
「ほれ、水分取れ」
「あ、どうもっス。竹っち、センパイ達と別れて良かったんスか?」
「うん、午前で部活終わったから帰る途中だっただけ」
「なるほど」
「で、なんでバスケなんぞしてたわけ?」
「うっ、だから、体が鈍って……」
「ウソつけー、焦ってんだろ」
「……」
「負けたし怪我したしで、気持ちも分からんくもないけど。ちゃんと治さないと後から困るぞ」
「でも、みんなはもう練習してるし……」
「だから、今悪化させたらいつまで経っても合流できないじゃん」
「うー、でも冬までになんとかしないと」
「冬?」
「WCっス。夏はオレのせいで負けたし、冬には絶対に勝たないと」
「あのさ、誰かあんたのせいだって言ったの?」
「……言われてねーっス。センパイ達、笠松センパイがどんだけ勝ちたかったオレ聞いてたのに、なのに……」
「アホか。チームで戦って負けたなら、チームの責任だろ。自分のせいとか何様だ貴様はっ」
「でもっ……っ」
「先輩達だって、みんなみんな思ってるさ。力が足りなかったって、あんただけじゃないのっ。一人で焦ったって何も変わんねーよ、むしろ今のあんたなら悪化するだけじゃね?」
「ギクッ!?」
「ギクッて、オイッ! 分かってんなら大人しくしてろ。つーか、足は?」
「さっきは少し痛かったけど、もう大丈夫っス」
「ホントかぁ?」
「ホント、ホント。ホントっス!」
「んじゃ出かけるか」
「えっ!?」
*
「ちょっ、まっ……っ」
「たぁああああああああああ、のぉおおおおおおおおお、もぉおおおおおおおおおおおお!!」
「え? 竹本さん、と黄瀬くん?」
再び黄瀬を引き摺って来たのは、海常高校のバスケ部専用体育館。そこでは合宿中の男子バスケ部が練習に励んでいた。いきなり時代錯誤な叫びと共に現れた女生徒に、中に居たメンバーは面食らったが。黄瀬を見つけるやいなや、主将の笠松が豪快な蹴りを放つ。
黄瀬の服装からして、バスケをしていただろうことが丸わかり。なぜ大人しくしていないのかと笠松の説教が始まる。竹本が差し入れにレモンの蜂蜜漬けを持って来たこともあり、なし崩しに休憩と相成った。
説教される黄瀬を横目に、竹本は黒子を手招きする。
「すみません竹本さん、黄瀬くんがご迷惑をおかけしたみたいで。それに差し入れまで、ありがとうございます」
「どーいたしまして。それは良いんだけどさ、黄瀬って実家は東京だよね?」
「そうですが、それが何か?」
「や、部活出れないのに寮に居るみたいだから」
「えぇ、何でも落ち着かないらしくて……」
「バスケ部の連中は今、みんな校内の宿泊所だよね?」
「そうです」
「あのさ、そこに黄瀬も呼べない?」
「え?」
「思うように動けなくて焦ってるところに、みんな違う場所で寝泊まりしてて寮で一人じゃん? 落ち着かないのは、そっちのせいかなと」
「あぁ、寂しいんでしょうか」
「かもね。めんどくせーヤツだ」
「下手に見学などさせると、やりたいと騒ぐと思って不参加にしたようですが。この様子だと参加させて監視する方が、まだマシかも知れませんね」
「また勝手に暴れそうだしね」
「ちょっと、キャプテンと監督に相談してみます」
「ブッ、黄瀬ってばお子ちゃまかっ。そーしてみて」
「竹本さんも部活があるでしょうに、本当にすみません」
「いーえ、今日は午前で終わってたから無問題。黒子くんにも会えたし、私的には嬉しい!」
「そうですか? ありがとうございます」
「わーい、お礼言われちゃった!」
そんな訳で、監督などと協議の結果この日から黄瀬も合宿に参加することとなった。と言っても見学のみでバスケは厳禁、強いて何かするなら握力強化ぐらいとされ。黄瀬は大いに不満を露わにしていたとか。
バスケに近づけなくても近づけても、どちらにしろ黄瀬は煩いとバスケ部の面々は盛大な溜息をついたそうな。