食えない男

「あー、また撮った!」
目の前でいい感じに焼けた肉をトングでつまみ上げると、いつものシャッター音がした。
「ショウゾウケンのシンガイですよ?」
「いい表情してたから」

角名さんと俺がそういう間柄になってから、角名さんは俺の写真を撮るようになった。日向のこと撮ってもいい? と丁重に伝えられ、良いですよと何の気なしに返したら、今みたいに何でもないようなところで楽しそうにシャッターを切るのだ。ただ、俺が本当に嫌なときは撮らないし、二人で居るときはほとんど携帯を触らない。俺のことを尊重してくれているのは良いのだけど、俺が写真を撮ろうとすると逃げるのは不服である。

「俺より肉撮ったらいいのに」
「肉は肉じゃん。日向がいい」
「俺の写真なら、チームのサイトにありますよ」
「あれは公式じゃん」
「公式って……写真は事務所を通してクダサイ」
「……日向は撮られるの嫌?」
「嫌じゃないですけど……」
「嫌ならもう止める。ごめん」
「だって角名さん」
「倫太郎」
「……倫太郎さん、俺が変な顔してるとこばっか撮るんだもん」
「変じゃないし。かわいいじゃん」
「かわいくない」
「……ふーん」
角名さんは俺にかわいいって言えば済むと思っているのが気に食わないけれど、好きな相手にかわいいと言われるのは満更でもない。

「す……倫太郎さん、俺の写真撮りたいって言ってましたよね?」
「うん」
「じゃあ一緒に撮りましょう!」
「は?」
「一緒に写るんです。俺と」
「……やだ」
「まぁそう言わずに! 隣失礼します!」
席を立って角名さんの隣に移動する。半分体当たりぐらいの勢いで隣に座り、角名さんのカメラを起動させてインカメラにする。
「肉焦げるからいいって」
「ほら角名さん笑ってー! にんじんさんのにー!」
「ふはっ」

しまった、と思ったと同時に角名さんが笑ったことに動揺した俺はやっぱり変な顔で写っていた。
「ダメです! 今のは無し!」
「に、にんじんさん……ふはっ……にん……」
「だって夏が、い、妹が小さいとき写真撮るときによく使ってたから!」
「ふっ、ふはは……」
「もういい! 消します!」
デカい身体を最大限に縮めて笑いつぶれている角名さんを横目に、データを消そうとすると俺の手ごと携帯を握りしめられる。
「えー、ヤダ」
すり、と小指でなぞるような手つきで俺の手に触れる角名さんは、さっきまで変な笑い方をしていたとは思えないような顔つきでこっちを見ている。
「……その顔はズルいです」
何も焼かれていない網が熱されている音を耳にしながら、多分そうなるであろうこの後のことが頭によぎり、仕掛けた罠に自ら落ちてしまったことに気がついた。


「倫太郎クンはうちのスパイカーに気安く話かけんといてもらえますぅ?」
「あ、個人的な取材は広報を通してからでお願いします」
「誰がインタビュアーやねん!」
「日向、侑と何かあったらいい弁護士紹介するよ」

試合の後の、侑さんと角名さんとのいつものやり取りの中、あれから久しぶりに会った角名さんはいつもと変わらず素知らぬ顔で俺と向き合っていた。ギャアギャアうるさい侑さんも、久しぶりに会った角名さんにどこか嬉しそうな顔をしている。何だかんだ仲良いんだな、なんて思っていると、角名さんは片手をあげて嬉しそうに爆弾を落とした。

「じゃーまたね、にんじんさん」

「ちょっ! やめ」
「ハァ? にんじん?」
あいつなに言うとんねん、と首を傾げる侑さんの隣で、もう二度と、絶対に、神に誓ってでも角名さんに罠なんて仕掛けないことを胸に刻んだ。