# 04


治たちと話してからおよそ1時間後――。
 日向の活躍もあり無事に終わりを迎えようとしていたファン感謝祭であったが、ここで再び問題が発生した。
 佐久早の次は侑が失踪したのである。閉会式開始5分前の出来事だった。
 閉会式になにも役目がなければいくらでも誤魔化せた。しかし侑は看板選手の上、人気投票の結果3位で表彰がある。いないと困るのだ。
 予定の開始時間になっても見当たらず、観客を待たせた状態でスタッフ、チームメイト総出で探し回ったがやはりどこにもいない。
 緊迫する状況に、チームキャプテンの明暗修吾がいよいよぶちぎれた。

「なんっでお前らは大人しく出来ないんや! 大人やろ! 先輩やろ! 日向を見習え!」
「そうだそうだ!」
「そうだやないわ! お前がギャーギャー順位で騒いだからや! このボケトッッ!」
「ボケトッ!?」
「明暗さんどうどう。日向、電話繋がった?」

 日向は犬鳴を見てフルフルと首を振る。

「コールはなるんですけど……」
「……おいこれ」

 と、佐久早が持ってきたスマホは間違いなく侑のものだった。日向は静かにスマホを切る。そこにスタッフの一人が駆け込んできた。

「そろそろ時間ヤバいです!」

 日向たちは困って互いの顔を見た。
 そんな中、腕を組んで悩んでいた木兎が「よし」と顔を上げる。

「ま、いないもんはしゃーないし、2位からの発表にしようぜ。お客さん待ってるしさ」

 騒がしかった舞台裏が、一瞬でジトっとした沈黙に落ちた。物言いたげな視線が木兎に無数向くが、本人はいたって真面目な顔をする。

「これ以上まてないんだろ? だったらとりあえず進めておいて、スタッフに探しておいてもらって、見つけるかツムツムが自分で戻ってきたら出てくるようにすればいいと思う」

 「それに」と、木兎は更に真剣な顔になって続けた。

「もしかしたら腹壊して遠くの便所でうんこしてるだけかもしれないし。このまま待っててツムツムが帰ってきたとき、ファンをうんこ待ちさせてたってなるの嫌じゃない? 俺だったら絶対に嫌だ! うんこ待ち!」

 うんこ待ち、という言葉に選手たちがにわかにざわめく。
 数秒の間の後、明暗がため息混じりに頷いた。
 
「……せやな」

 続けて犬鳴も同じように息をつきながら頷く。日向はぎょっとして二人を見た。

「えっ!? マジで侑さんなしで行くんですか!?」
「これ以上お客さん待たせたられへんのは本当やし、しゃーないわ」
 
 日向以外のチームメイトはもうそれで納得したらしく、やれやれと言った顔で次々とステージに向かい始める。
 本当にいいの!? と日向はキョロキョロしていたが、不意に背中をポンと叩かれた。

「じゃ、ジャカ助。侑さん大丈夫かな……?」

 ムスビィブラックジャッカルのマスコットキャラクター、ジャカ助だった。
 ジャカ助は胸の前で両手でガッツポーズを作り、日向の背中に手を添えてステージを指さす。

「大丈夫だから行け?」

 ジャカ助が腰に手を当ててこっくりと頷く。そして自らの胸を肉球でドンと叩いた。

「俺に任せろ?」

 ジャカ助はもう一度深く頷いた。
 その頼もしい姿を見て、日向も「よし!」と腹をくくる。

「侑さんがいない分はみんなでカバーしよう! ジャカ助もよろしくな!」

 イエーイとハイタッチをする一人と一匹? の横を、佐久早が過ぎる。

「流石に知ってると思うけど、その中に入ってるの人間だからな」
 
 ドゲシ!

「うおジャカ助!? 人蹴っちゃだめだろ! 臣さん大丈夫ですか?」

 日向は慌ててジャカ助の前に躍り出て、足を止めた佐久早を見上げた。怒ると思った佐久早は、なぜか黙ったまま眉間にしわを寄せてジャカ助を凝視している。

「おいこれ……」
「日向! 佐久早! お前らも早くこい!」

 ステージ脇から犬鳴が声を上げる。佐久早は言いかけた口をそのまま閉じて黙ってステージに出て行った。日向とジャカ助もその後ろに続き―—

 そして、後世にも語り継がれる羽目になるムスビィブラックジャッカルファン感謝祭史上、最も恐ろしい事件は起こってしまったのである。
 ジャカ助―—否、侑が立ち去った後のざわざわとざわめくステージの上。
 日向は一人物知り顔で、治たちがいるあたりの座席を見つめた。