# 05
「あ、侑さーん……」
「こんといてくれ、もうほっといてくれ。俺なんか、俺なんか生まれてこなければよかったんや……」
佐久早が隠れていたあの物陰に、今度は侑が埋まっていた。膝を抱えて横向きに寝転がって、影より暗く落ち込んでいる。
日向は打ち転がされていたジャカ助の頭を拾って段ボール箱の上に置き、侑の隣にそっとしゃがみ込んだ。
「侑さん。とりあえず、床に寝てると汗冷えちゃうんで起きましょ?」
「このまま俺はゴミとして生きてくんや……」
「侑さんはゴミじゃないですよ! めちゃめちゃすごいセッターです!」
「無理や……。もう息していけへん……。あんなん死んだほうがましや……」
うーん重症!
会話もままならない状態に、日向は若干遠い目をした。
離れたところからは、後片付けに励む仲間たちの声が聞こえてくる。再び失踪した侑に対し、今度はみんな揃って「放っておけ」と言って誰一人として見向きしなかった。むしろ迎えに行こうとした日向に「お前は本当にいい奴だな」「打ち上げは驕るからな」「無理そうだったら捨てて戻って来いよ」というぐらいである。親しいからこそだと理解はしているが、日向はこの侑いじりが行われる度に心臓をドギマギさせしまうのだった。
「死んだらバレーできなくなっちゃいますよ。俺もっと侑さんとバレーしたいです!」
気を取り直して、もう一度声をかける。しかしもはや聞こえてすらいないのか、侑は聞き取れないぐらいの音量で永遠と何事かをぶつぶつ唱えていた。
どうしたら元気になってもらえるのか。うんうんと考えたがなにも思いつかない。
仕方がないので日向はもう思っていることをはっきり言ってしまうことにした。
「さっきのは侑さんもいけないと思います!」
瞬間、ドロドロと流れていた念仏がピタッと止まった。
「事前に相談してくれたら俺もみんなもフォローできました。俺はお笑いとかよく分かんないんで、正直さっき侑さんがなにをやりたかったのか分かんなかったですけど……明暗さんとかならきっと分かってくれてたと思います!」
「……」
「けど、はじめに侑さんの話聞かなかったのは俺たちですよね。ごめんなさい」
日向はその場に正座をしてぺこりと頭を下げる。そこでようやく侑がモゾっと動いた。組んだ腕の隙間から土色の顔がちらりと見えて、日向はもう一度「ごめんなさい」をした。
―—今回のファン感謝祭のテーマややりたいことについて、侑は今日までに何度もチームメイトに持ち掛けていた。けれど毎回毎回タイミングが悪かったり、軽く流されたりして正直全くと言っていい程相手にされなかったのだ。日向もその場に居合わせてはいたが、ファン感謝祭自体初めてで勝手も分からないからと、先輩方の間をウロウロ戸惑っていただけだった。これが良くなかったのだ。
ちゃんと話を聞いて、ダメならダメ、いいならいいではっきりさせておくべきだった。なあなあが一番良くない。
「来年はちゃんと侑さんがしたいこともしましょう! 俺も協力します! ボケとかツッコミも教えてくれたら頑張ります! だから元気出してくだ―—うおっ!?」
侑が少しでも元気になるように明るい声を出すと、丸まっていた巨体が突然伸びあがって飛びついてきた。日向は咄嗟に足を崩してそれを受け止める。
「そやもん。俺悪ないもん。話聞かへんあいつらが悪いんやもん」
日向の首に太い腕を回してギュウギュウと縋り付き、侑はすねた子供の声を出す。
「いや侑さんも悪かったですよ。俺全然見つからなくてスゲー心配したんすから」
言いながら日向は汗をグッショリかいた背中をポンポンと叩く。しばらくそうしていると、侑はものすごく、ものすごく小さい声で「……堪忍」と呟いた。十分である。
日向も「俺たちも話聞かなくてごめんなさい」と、改めて言って傷心の先輩をよしよしと慰めた。
「じゃあみんなのとこ戻りましょ、侑さん。早く着替えないと汗冷えちゃってますよ」
「……おん」
と、ようやく立ち上がった侑だが、すぐに後ろから日向にべったり抱き着いてきた。
「あ、侑さん?」
「俺もう今日は翔陽くんから離れへん。翔陽くん以外とも喋らへん」
「えぇ……」
「あいつら絶対馬鹿にしよるもん。俺の味方は翔陽くんだけや」
そんなことない。と言い切れないのが悲しい所である。
結局日向は侑を背中にくっつけながらジャカ助の頭をもって、皆のいる控え室に戻ってきた。
「あ! ツムツム帰って来た! なあ結局さっきのなんだったの?」
部屋に入って早々そう聞いてきた木兎のせいで、侑の腕が回っている日向の首がきゅっと閉まった。当の本人は本当に日向以外と話すつもりがないのか、だんまりである。
「木兎さん。さっきのは俺たちも悪かったんですよ」
「? なんで??」
「侑さん、何回もファン感について色々やりたいって言ってたのに、俺たちちゃんと聞かなかったじゃないですか。だから侑さん一人でやっちゃったんです」
「自業自得だろ」と、これは佐久早が。
「だとしても、チームならフォローすべきでした」
日向がしゃんと言うと、やんややんやと言っていた男たちも段々としょんもりしてきた。
日向はジャカ助の頭をそばの机に置いて、ぐっと拳を握る。
「だから、来年はちゃんと皆で話し合って、もっと楽しいファン感にしましょうね! 来年は俺もダンスしたいです!」
怒られてしゅんとしていた木兎は、日向が笑った途端にパッと元気を取り戻した。
「そうだな! 来年また頑張ろうぜツムツム! ちゃんと話聞かなくてごめんな!」
言いつつ木兎は侑の頭をわしゃわしゃ撫でた。また一段と日向の首がしまる。
犬鳴がそれを見て苦笑いした。
「いや、宮がそうなってんのお前のせいだからな」
「え! なんで!?」
「無自覚もここまでくると凶器やな。……で、その後ろのはなんなん日向」
指をさして聞いてくる明暗に日向は苦笑いする。
「なんか、今日はもう俺から離れないで、俺以外と喋りたくないらしいです」
佐久早が「ハン」と鼻で笑う。
「子供かよ」
と、だんまりを決めていた侑がボソッとそれを破った。
「……自分だって翔陽くんに手ぇ繋がれて戻ってきてたやろ。クソガキ」
「は?」
すわ喧嘩かというところで明暗が「ええ加減にせえ!」と怒鳴る。
「お前ら揃いも揃って逃げ回りよって……どっちもどっちや! 日向が一番大人やで、全く」
溜息をつく明暗にケラケラ笑いながら、犬鳴が頷く。
「ほんと。日向がいなかったら今日のファン感絶対にヤバかったわ。色々ありがとな」
「いえ! 色々出来て俺もめっちゃ楽しかったです!」
「俺も楽しかった! 明日もやりたい!」
「絶対嫌だ」
ガヤガヤとまた騒々しさを増した部屋の中で明暗が声を張り上げる。
「ほな、宮が着替えたら帰るで! んで打ち上げや!」
男どもはワッと沸いた。打ち上げは焼き肉食べ放題である。
「ちなみに日向は金いらんからな」
「え!? 何ですか!?」
素っ頓狂な声を出した日向の頭を明暗がぐしゃっと撫でる。
「本日のMVPに払わせるわけにはいかんやろ! みんな異議あるか?」
―—異議な……
「俺もMVPーー!」
「空気読まんかい! このボケト!」
END