稲荷崎高校バレー部の練習風景


キュ、キュとスキール音が鳴り、ナイサー! ナイスキー! といった声が響く体育館。三年生の最後の大会、春高を控えたバレー部の練習はいつにもまして熱が入っていた。今やっているのは、試合を想定した6対6のラリーでどちらのコートに入っている選手もボールを落とすまいと必死にラリーの応酬を繰り広げていた。
 それに終止符を打ったのは、Aパスからの真ん中の早い攻撃、いわゆる速攻を決めた日向だった。ドド、と床に叩きつけられたボールを横目で見て、クソと顔をしかめる片方。点を取ったチームはまるで大会に優勝したかのように喜びあっていた。

「ナイスキー! 翔陽くん! 今のトスどうやった?」
「侑もナイストス! 今のめっちゃよかった! こう、手に吸い付く感じで!!」
「ナイスキー!」
「赤木もナイスレシーブ! あのフェイントよく上げたな!」
「そっから速攻入るお前らも良くやるな」

 レシーブをした赤木、それをセットアップした侑、そして上がってくると信じて速攻に入った日向。それ以外の三人もナイスキー!、ナイス―と声をかけあって、相手コートに向き直る。
 すると喜んでいた浮いている雰囲気は蒸散して、ボールに集中する冷えた空気がコートを包んだ。ピリピリとした殺気が肌に刺さる。

「……って翔陽くんがサーブやろ! なんで前衛にいんねん!」
 それを切り裂いたのは侑の鋭いツッコミだった。いつまでもサーブが始まらず練習が再開されない困惑した状況が一転して和やかになる。
「アッ、ごめん! まだ俺のターンだと思ってた!」

「俺のターンて遊○王か!」
「これバレーだぞ」
「知っとるわ! そうやないやろ!」
 日向の天然ボケの発言にネットの向こう側、尾白アランのツッコミも炸裂する。それを一刀両断した日向の言葉にまた一つ笑いが起きて、さっきまでのいい感じに集中していたものがきれる。
 

「――お前ら、ちゃんとせぇ」


 その声は決して大声を張っていたわけではない、けれども静かに響いたそれに水を打ったような静寂に包まれる。一声で固まった部員に対し、ただ一人、返事を返す者がいた。

「ん。ちゃんとやるよ。信介」
「……なら、ええんやけどな」
 ふざけるんやったら、わかるよな。
 
 (ふざけてるんちゃう、というかそもそも日向のオトボケ発言が原因やろ!)と全員が思ったが、何も言えなかったのである。
 なんたってたって北信介は、日向翔陽に甘いのだ。