むしろ付き合うててくれてた方がええわ
日向翔陽は、自他ともに認めるバレー馬鹿である。朝起きたら学校に行って朝練。授業はちゃんと受けて、昼になったら体育館に行って自主練。午後の授業もちゃんと受けて放課後、長い時間バレーができるとなればHRが終わったら教室を飛び出してしまいたいくらいの気持ちで部活に向かう。部活が終われば一番遅くまで自主練をして、家に帰る。家に帰った後もバレーのためにすることはたくさんある。今日の練習の反省、筋トレ、ストレッチ。もちろん夕飯を食べることもバレーのためなのだ。
生活の軸がバレーにあるといっても過言ではない。が、その生活ももうそろそろ終わりを迎える。
なぜなら、高校最後の大会を迎えるからだ。それが終われば日向たち3年は引退をして受験一色となる。日向は受験をせずブラジルに行くことを決めているので、勉強に追われることはないが、けれど以前より部活に顔を出す時間は減る。
今は、そんな先のことなんて考えずに、この仲間でバレーができることを純粋に楽しんでいた。
「信介ー! 今日の練習メニューのことなんだけど……」
ぴょこりと珍しいオレンジを覗かせて、バレー部主将の北の教室を訪れた日向は、北の机の上に載っているものを見て言葉尻をすぼめた。参考書とにらみ合う北はよほど集中しているのか日向が来ていることに気付いていなかった。
失礼しま〜す、と小声で教室に忍び込んだ日向は、北の一つ前の椅子に座り(きちんと許可を取って)、その様子を眺めた。見ると数学に取り組んでいるようで、数式を書いては消して、書いては消してを繰り返している。
北はその実直な性格から、何事にもきちんと取り組む。だから勉強だって日向は遠く及ばない。その北が、それほど頭を悩ます問題はどんなものだろう、と少し身を乗り出して参考書を覗こうとした日向は、北も頭を下げてこちらに気付いていないことを忘れていた。
「イテ!」
「! ……なんや翔陽か」
「あ、ごめん。邪魔しちゃって」
「いや、それはええ」
案の定お互いに頭をぶつけた二人。北はいてて、と額を抑えて答えた日向のその手を取った。
「俺が気付かんでごめんな」
少し赤くなった日向のおでこに手を取ったほうとは反対の手を当てる。冬の冷気で冷やされた手は保冷剤代わりになっておでこを冷やした。
「俺が悪いんだって……でもありがと、信介の手、冷たくて気持ちいな」
北がくっつけた手にすり寄るようにして目を瞑り顔を寄せる。取られた手はそのまま日向から握るようにしてするすると移動し恋人つなぎをした。指を確かめるようになぞって、手、でっか。と少し不満げに、けど何かを思い出すように呟いた。
「……せやったら、よかった」
北も北で、目を細めて愛しいものを見るような目で日向に笑いかける。
その距離感まるで恋人であるかのようで、雰囲気すら甘ったるくなっていた。
教室のど真ん中でカップルも真っ青のいちゃつきっぷりを見せるこの二人を稲荷崎高校の人々はこの二人を見守る会を作り上げていた。二人が入学した一週間後には既にできていたと言われている。
北の前の席の女子もそのうちの一人なので、それは喜んで席を貸す。むしろそのままうちのクラスに来てもらっても構いません、とはその女子の本音だ。