# 01


日向は鼻歌混じりに、ベッドの下からずるずると愛用のボストンバッグをひっぱりだした。
着替数枚歯ブラシセットおやつを少々と流れるように詰めていく。
「んー、やっぱり着替もうちょっといるかな」
呟かれた独り言は誰に拾われることもない。そして、今同じように荷造りしているであろう人物を思い浮かべ、ふふっと笑った。

オフシーズンが明日から始まる。
実家に帰るか、はたまたブラジルにでも遊びに行くかと考えていた日向を誘ったのはチームメイトでブラックジャッカルの正セッターである宮侑だった。
チームに加入してからというもの何かと世話を焼いてくれるその人は、人でなしだの人格ポンコツだのと揶揄されることも多いが日向にとっては尊敬できるかっこいい先輩だ。
バレーが上手いのは勿論のこと、自主練にも付き合ってくれるしオフの日にはこの辺よう知らんやろと率先して案内してくれる。寮では常に誰かしらが側にいるが、右隣に侑がいない日はあまりないとそう思うほど。

「翔陽くん、一緒に兵庫行こうやあ」と、軽く声をかけられたのは、自主練を終えロッカールームに向かう道すがら。
汗で濡れたTシャツにもお構いなしに肩を抱いてにこにこと笑う侑にも最近ようやく慣れてきた所だ。
「兵庫ですか?」
「おん。そんでサムの所泊まんねん。」
「治さんの家って言うと」
「店兼自宅やからな、おにぎり宮の二階や」
その言葉に日向はぴくりと反応する。
おにぎり宮のおにぎりは天下一。そう言って過言でない程治のつくるおにぎりは美味しかった。
侑に連れられ何度か店にもお邪魔しているが、二階には入ったことはない。
「翔陽くんが食べたいだけあいつの飯食えんで」
「ほわあぁ!」
「サム誘ってバレーやってもええし」
「な、なんですかその夢のような時間!」
「とりあえず二泊三日くらいで、延ばす分にはかまへんしな」
なんと唆られる話だろうか。
大好きなおにぎりに、宮ツインズとバレーまでできるなんて、そんなメリットしかない話があっていいのだろうかと日向は目を輝かせ全力で頷いた。
「よろしくおねがいしあーっす!」
一も二もなく受け入れた日向に、侑は「よっしゃ、決まりや」と、肩を抱く手に力を込める。
ここに佐久早辺りがいれば、その顔に何かしらのコメントでもあっただろうが残念ながらそこには日向と侑の二人だけしかいない。企み顔も企み顔で小さくガッツポーズをする侑の姿は誰に見られることもなかった。