# 07


「で、何で翔陽くんはまだシャワーあびてんねん」
帰宅早々、侑はジロリと片割れを睨みつける。
できるだけ早く帰ってきたつもりだが、それでも2時間はたつはずだ。
まさかその間ずっとシャワーを浴びていた?そんな訳はない。
居間の窓は全開で、これみよがしにファブリーズまで置いてある。
ちゃぶ台に帳簿を広げ何やら仕事をしていたらしい治は鬱陶しそうに、横に立つ侑を見上げた。
「連れてきたんは俺やぞ!」
「関係あるかい。そもそも先に手ぇだしたんは侑やろ」
「でこちゅーしたのはお前や」
しばし睨み合って、埒が明かないと悟り「くそっ」と悪態をついた。
「風呂場行く。付いてくんなよ」
「俺の家やあほ」
どすどすと足音荒く侑は廊下の先の風呂場へ歩みを進めた。




・・・・




一言で言うなら、呆然。
先程もこんな感じでシャワーを浴びていなかったっけ?と自嘲的に笑う。
たいして汚れてない体をシャワーで流しながら、そっと後ろに触れてみる。触るだけのつもりだったのに、するりと指が一本飲み込まれて慌てて引き抜いた。
「んっ」
爪で引っ掛け漏れた声の甘さが、どうにもいたたまれない。
侑に続き治まで、どうしてこんなことに?と何度繰り返したかわからない疑問が頭の中をぐるぐるとまわる。
美味しいご飯を食べて、あの宮ツインズとバレーして、そんな思い描いていたものとはどんどんかけ離れていく現実にもはやどうしてしか言葉がなかった。
何より一番おかしいのは、流され受け入れてしまう自分自身。
そういうことは嫌いなわけではない。人並みに欲はあるつもりだし自己処理だってする。
しかしここまでバレー一筋できた弊害で、経験値の無さは否定できないし、キスもその先も経験できずにこの年まで来てしまった。
(まあ、昨日今日で両方できちゃったんだけど)
そう独り言ちて、思い出してしまった情景に羞恥心が襲う。
俺はもしかして淫乱と言うやつなんだろうか。
流しっぱなしだったシャワーのコックを捻り、水を止める。
壁に頭をつければ、ひんやりとした感触が気持ち良い。
これがもし別の、例えば…木兎、佐久早。身近な人を思い浮かべて、腕を組む。
あの二人が自分を誘ってどうこうとは考えづらいが、もし、そういう誘いがあったとして、どうするだろうか。
キスしようと顔を近づける木兎、触れようと手を伸ばす佐久早。
(…ないな、うん。)
嫌いなわけじゃないけど、やっぱり違う。
見つめられて、思考が鈍くなるのはあの瞳だけだ。
そんな事をうだうだと悩んでいると、いきなり背後の扉が開いた。
「えっ!あ、…侑さん」
「えらい長いバスタイムやな、生きとる?」
「生きてます、すみません」
いつの間に帰っていたのか、侑がそこに立っている。
気まずさより、長くここにいすぎた事に焦り急いで出ようとしたが、何故か侑は風呂場に足を踏み入れた。
かろうじて裸足だが、床は濡れているしなんなら日向は裸だ。
「シャワー使いますよね、俺でるんで…っ」
嫌な予感がして、横をすり抜けようとしたがそれは敢え無く失敗に終わる。
腕を捕まれ、壁に追いやられた。
「翔陽くん、」
熱を孕んだ声。
もう、分からないとは言えなかった。
欲望を隠しもしないその表情に、ぞくりと背筋が粟立つ。
「俺今キゲンようないねん」
「な、なんで…ですか」
唇は弧を描いているのに、確かに彼は笑っていない。
「翔陽くんのハジメテは絶対もらったろて思てたんや、せやのに治にあほに取られてもうてん」
侑の手が日向の腰にかかる。服が濡れるのも厭わず密着され、下半身を押し当てられる。
「ちんこ突っ込まれんのどうやった?」
「そんなことっ、やめっ」
まるで突き上げるように腰をゆすられ、羞恥心と、何度も発散したはずの欲がまた顔を擡げる。
それは侑も同じらしく、どんどん硬さを持っていくそれに「はあっ」とため息のような声が漏れた。
「ふっ、そんな期待されると緊張してまうわ」
侑の指が後ろに回り後孔に触れ、体がビクッと反応する。
抵抗らしい抵抗もしないまま、指が一本挿入された。
「なんやえらい簡単に入るやん。もしかして翔陽くん、治より前にしたことあるん?」
自分で聞いておきながら、幾分か低くなった声に涙が出そうになった。
あるわけないと怒鳴りたいくらいなのに、後ろに入れられた指がもう気持ちいい。それじゃ足りないと、誘うようにひくひくと動く。
一昨日まで何も知らなかったのに
「ないですっ、キスも、え、えっちするのも」
全部二人が俺に教えたのに。
「ううー」と涙をにじませると、侑ははっとしたように濡れた日向の髪の毛にキスをした。
「…ん、せやな。知っとる。」
よしよしとまるで撫でるように髪に頬ずりされて、ここでも身長差かと場にそぐわぬ感想が浮かんですぐに消えた。 
後孔にまわる侑の指が、ぐにっと広げるようにナカを刺激し「んっ」と声が出る。
「あっ、あつ、むさっ、んんっ!」
引っ掻くように指を抜かれて、体がはねた。
はっはっ、と息をする日向を相変わらず壁へ押さえつけるようにしながら、侑はボディソープのポンプの数度プッシュした。
手のひらからこぼれ落ちる白い液体を指に絡ませ、ちらりと日向の瞳を見やる。
「翔陽くん、俺とも気持ちええことしよ。な」
ちゅっ、とその唇にキスをして侑はその指を3本突き立てた。
「ん゛んんっ!そ、ないきなりぃっ、ああっ!」
「翔陽くんのここあったかくてぎっちぎちやなあ、指持っていかれそ」
「ううっ、やだ、あっ!うごかさな、で!」
ボディソープのぬめりと、さっきまでの治との行為のせいで痛みはない。しかしなんとも言えぬ圧迫感は変わらない。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音をさせながら、ばらばらに動く3本の指がナカをこする。
「あっ、あっ、やぁっ!」
敏感な所を不意に指が掠めて、その度ぱくぱくと唇が魚のように動く。
「翔陽くんの気持ちええとここ?ふふ…ここな、前立腺て言うんやで」
「ぜっ、りつせん?んあっあぁ!」
まるでここだよと教えるかのように爪で引っかかれ、あまりの快感に背をのけぞらせる。
「びくびくして、えろい顔。最高やな」
呟く様な侑の声が、上手く頭に入らない。
舌舐めずりでもしそうな、恍惚とした表情が涙の膜越しにぼんやりと見えた。
散々弄られたそこから、ずるっと指が引き抜かれる。
侑は濡れたズボンを鬱陶しそうに脱いで、次いで下着も脱ぎ去る。大きく立ち上がった性器が視界に入って、息を一つ飲んだ。
「あつむ、さ」
これからする事をまざまざと想像させられて、息が荒くなる。
止めるべきなんだろう。すがりつく手がカタカタと震える。
口腔内に唾液が満ちて、ああ自分は期待しているんだと思わざるを得なかった
力の入らない足を、片方ひょいっと持ち上げられる。
侑の腕に引っ掛けられて、妙な体勢になるがそれを問いかける気力はない。
「ゴムないけど、外に出すから堪忍な」
そう言うと、侑は後孔にそれを押し当てて突き上げるように挿入した。
「んあ゛ぁあっ!あっー!んんっ!」
「はあー。やばっ…あかん、さいこうや」
ぐちゅっ、と卑猥な音と共にいきなり奥に突き上げられ、目の前がスパークする。
押し付けられた壁の冷たさと、侑の体温が混ざり合って、蕩けてしまいそうな程気持ちいい。
「しょよくん、きもちええ?」
「うぅっ、やだぁっ」
「あかんで、きもちええならそういわんと」
首を振る日向に、侑がにたっと笑う。
一度ぎりぎりまで引き抜き、思い切り前立腺を突き上げた。
「あ゛ああっ!だめ、もうむりっ、ぬいてっくださっ」
「ほら、ゆうて。はよ」
「きもち、いいっ!きもちいいからあっ!」
叫ぶように快感を伝えると、侑は満足気に頭を撫でる。
「ふっふ。ちゃあんと言えてえらいやん」
「あつむさあっ、あっ!」
大粒の涙が頬を伝って落ちていく。

風呂場に反響する卑猥な水音と、まぎれて幾度となく喘ぎ声がこだまする。
不安定な格好のまま、何度も穿かれて、日向はもう何度目かわからない射精感をぎりぎりの所で堪えている。
繰り返されるキスに反応する気力も残っていない。
「も、イきたっ…つむさっ」
何も考えられず、しがみつく日向の口にキスをして侑もまた熱っぽいため息を吐き出した。
「いつもはこんなはよないんやけど、しょうようくんのナカ気持ち良すぎてあかんわ…一緒にイこな」
そう言うと、侑は首筋に歯を立て、舐め上げた。
「んんっ、あっ、っ」
力なく喘ぐ日向を抱きしめるように抱え直し、侑は腰の動きを早めていく。
腰がぶつかる音が大きくなり、ボディソープが泡立ち足を伝う。
「ああっ!イくっ、あつむさんっ」
「しょよ、くん」
侑のそれがナカで膨らんだかと思うと、勢いよく穴から抜かれ、その刺激で日向は薄くなった白濁を侑の腹に吐き出した。
自らのそこにも温かいものを感じて、ああ侑さんもイったんだなあ、とぼんやり考えながら、落ちてくる瞼に抗うことなく目を閉じた。




どこか遠くの方で、言い争う声が聞こえる。
体は重く動かない。
夢だろうか?自分は寝ているのか?
わからないまま、ぼうっとその声を聞く。
内容は分からないけれど、その声の主はよく知っている気がする。
安心する声、大好きな、


ゆっくりとまぶたが開いて、目に飛び込んだ光に驚き顔をしかめる。
どうやら寝ていたらしい。
瞬きを数度して、話し声のする方に顔を向けると片方と目があった。
「日向、目えさめたか」
ほっとしたような声についで、もう1人もグルンと勢いよくこちらを向いた。
「翔陽くん!ほんま堪忍な、まさか気絶するとは思わへんかった」
「どの口が言うんや。抱き潰したんはお前やろ」
「先にちんこ突っ込んだんはお前やろが!」
本人そっちのけでまた小競り合いを繰り広げる二人を横目に、日向は初めて経験する腰のだるさと戦っていた。

仲裁する気力もなく、言い合いが終わるのを横になりながら待つこと10分。
はっと気づいたようにこちらを振り向く二人に言いたいことはたくさんあった。
それはもう山程あった。
けれど、腰は痛いしなによりお腹が減っていた。
時計を見ると3時を過ぎたあたりで、半日近く眠っていたことを知る。
朝ごはんとなんなら昼ごはんまで食べ逃し、空腹が限界だ。
「お腹、へりました」
端的に。それだけ言うと、目の前の双子をじとっと見つめる。
同じようにビクッと体を揺らして気まずそうに目を見合わせた後、二人の行動は早かった。
治は急いで台所へ行き、侑はちゃぶ台のセッティング。わたわたと準備をする間、会話は一つもないのに見事なコンビネーションで食事の支度を整えた。


目の前のおにぎりにかぶりつく。
もさもさと食べながら、さあどうしようと思考する。
沈黙の部屋の中、口火を切ったのは侑だった。
「…腰、どんな?」
「そうですね、すっげえ重いです」
揚げたての唐揚げを一つ口に放り込んでそう言うと、双子はまた責任を押し付け合いながら言い争う。それを咳払いで制した。
別に怒っているわけではない。
こんな事をされて、怒らないのもどうかと思うが、やっぱり自分の中に怒りの感情は見当たらなかった。
それよりも、聞きたい事が一つ
「なんで、こんな事したんですか?」
至極当然の質問だろう。
きっとこれの答えがわかって初めて、怒りが湧いてくるんじゃないかなと思う。
侑と治は目を見合わせて、うーんと唸る。
「我慢できひんかったから?」
「日向がおいしそやったから」
反省しているようで、実際のところそんなにしてなさそうだ。今度は卵焼きに手を伸ばしながらそう思った。
「我慢できなかったり、美味しそうだったら誰にでもするんですか?」
それは犯罪ですよ、と付け加えようとしたがやめた。
犯罪まがいのことをされて平然とその犯人の前でご飯を食べる自分の立つ瀬がなくなるからだ。
「ええ〜、そんな風に思われてたん?」
「するわけないやん、そんなん犯罪やで」
「あ、自覚あったんですね」
双子は心底心外とでも言いたげに、反論する。
「日向だけやねん」
「翔陽くんだけや」
真正面で見つめられて、心臓がぎゅっとなった。
とにかく顔がいいのに、それが2つならんで真剣にこちらを見ている。
(ずるいなあ、この顔)
自分は甘すぎるだろうか。気を失うまであんなことされて、それなのに今こうして何だかんだと絆されようとしている。
「なんで俺なんですか?」
相性がよさそうだった?都合が良かったからか。それはちょっと悲しいかもしれない。
日向には当たり前の質問だったのだが、二人は同じように首を傾げた。
「やって好きやねんもん」
「好きやなかったらせえへんやろこんなん」
その言葉に、今度は日向が首を傾げた。
「…すき?」
「え?気づいてへんかったん!?」
「俺はいいとして、侑なんかダダ漏れやろ。日向そんなんで大丈夫か?悪いやつに騙されとらん?」
日向はぽかんと口を開けて、その手を止めた。
嫌われてはないし好かれてるとは思っていたが、まさかのそういう好きだったなんて全然知らなかった。
好き、好き。
何度か反芻した言葉がようやく脳に馴染んで、ぼっと顔が赤くなる。
思わず俯いた。
強姦まがいの事をされたというのに、どうしてこんなに心が暖かくなるのだろう。
顔も熱い、これはどういう感情だと自問自答するが、よくわからなかった。

黙ってしまった日向をどう思ったのか。侑が、覗き込むように伺う。
「ほんまごめんやで翔陽くん…やっぱり嫌やった?」
「一緒に気持ちようなりたかっただけやねんけど、嫌っちゅうならもうせんし」
悲しげな声に、少しの罪悪感が湧く。
無理に事を進められた感はあるが、流され受け入れた自分の否が0とは言えない。
「嫌とかじゃないですけど、やっぱり付き合ってない人とこういうのはどうかとは思います。」
それでも、おかしいことは言わねばと口を開いたがそれは上手く伝わらなかったらしい。
「せやったらお付き合いすればええやん」
侑がさも名案だとでも言うように明るい声を出した。
「え、え?」
「今ならカッコええ彼氏二人もついてくんで」
男同士という観点をさらにすっ飛ばしていく提案に、もはやついていく事ができず二人を見上げる。
「ま、まってくださいっ!3人てどうなんですか?おかしくないですか?」
「せやかて俺ら譲る気ないしなあ」
「翔陽くんやって二人おったほうがお得やん」
にこにこと笑う侑と、ゆるく微笑む治を前に、日向は現実逃避を兼ねて冷めてしまった味噌汁を一口のんだ。
告白に悪い気がなしなかったのは事実だか、それとこれとは関係ない。男同士というだけなら今やそうおかしいことでもないと思うが、3人でなんて聞いたこともない。
どうしたらこの場が丸く収まるのか、豆腐を咀嚼していると、侑がからあげをひょいとつまんだ。
「すぐ答えんでええよ、明日もっかい聞くわ」
「ん、せやな。考えとって」
空腹という最高のスパイスに、大好きな治の料理が目の前に並ぶ。
日向はただ、美味しいご飯を美味しく食べたかった。
もう一つとからあげにのびる手を叩いて、日向は問題を先送りにし、「わかりました」と頷いた。