壁ドンから始まる恋
「治さん、壁ドンって知ってます?」
「あー、少女漫画にあるやつやろ。男が女を壁に追い込んで、手付くやつ」
「そうそれです! うちのクラスの女子がされてみたいって騒いでて。おれもカッコ良くできたらいいなって思いました!」
「する状況がある前提かい。翔陽はチビやから決まらんやろ」
「チビじゃないっ! おれより背の低い女の子だったら、できますって!」
「せや、試しに俺にしてみぃや」
その提案に間抜け面を晒す翔陽。思考がどっか飛んどる間に座っとる身体を立たせ、壁の前まで連れて行った。
「ほら、はよせえ。女子にやる前にカッコ良く決まるか、練習せなあかんやろ」
「う、うん。治さん、そのまま動かないでくださいね!」
「死刑宣告かいな」
すーはーと何度か深呼吸をした翔陽が俺の目を見て、手を壁に突き出した。突き出したんは良かったんやけど、手が壁に届いとらん。気を遣うて一歩後ろに下がってやると、無事に手が壁に触れた。
「治さん、なんかバリア張ってる!?」
「張ってへんわ。自分の腕が短いだけやろ」
「おれはふつー! 治さんが長いだけですっ!」
密着した身体で見上げてくる翔陽に笑いが込み上げてくる。てか、なんやねんこの構図。男二人でするようなことちゃうやろ。からかって遊んでやろうかと提案したが、必死すぎる翔陽にからかう必要も感じんくなってきた。
「治さんもやってみてください! けっこうこれ難しいですよ!」
「俺はええ。そういうキャラちゃうし」
「えー、おれだけやるのはフコウヘイです! それとも、治さんできないんですか?」
こんな分かりやすい挑発に乗る必要はあらへん。ふふんっと効果音が付いてそうな顔で見上げとるチビの相手なんてする必要―――。
「自分、そんな顔したこと後悔させたるわ」
翔陽の腕を引っ掴み、くるっと壁側へ身体を回してやった。かーるいから、簡単に壁へ追いやられた翔陽の退路を塞ぐように顔の横に腕を突き立ててやった。あー、腰いた。案外距離が縮まるもんやなぁ。てか、翔陽の目でっか。なんやキラキラしとる。肌も白くて、やわっこそう。食ったら餅みたいに美味いんやろか。
「お、おさむさん……っ」
「なんや?」
「ち、ちかい、です……っ。なんか、ドキドキする……」
まーろい頬を染めながら言うもんやから、俺の思考が止まった。なんやこれ。乙女かってツッコめや。なに可愛ええが先行しとんねん。いやいや、相手は男で翔陽やぞ。血迷いすぎやろ。ちょお、まて。なんで俺コイツに顔近付けて。
「……ふぇっ!?」
……あかん、キスしてもうた。翔陽、真っ赤や。ファーストキスやったかもしれんのに、俺奪ってもうた。せやけど、真っ赤な翔陽かわええな。
「なぁ、もっかいしてもええ?」
翔陽が反応を見せる前にキスをする。うん、俺翔陽なら男でもイケるわ。てか、今ので完全に好きになってもうた。唇を離し、翔陽を見ると卒倒しそうなほどのぼせとった。かわいそうなことしたなぁ。せやけど、しかたないやん。
「……俺も翔陽のドキドキ移ってもうた」
せやから、堪忍な。俺は心の中で謝って、また翔陽にキスをした。