『大切なトモダチ』


定期テストも終わったため、席替えが行われた。やり方としてはよくあるクジで、白布は自身の引いた番号を黒板に書いてあるものと照らし合わせ、窓際の1番後ろであることを確認すると心の中でガッツポーズをした。それは授業中寝るためなどではなく、単に授業中当てられにくいためであった。机と椅子を運んでさっさと席に着いた白布は、何番だと騒いでいるクラスメイトを横目に頬杖をした。


「やったー!」

男子にしては高い声。白布の隣にガタンと置かれた机の持ち主は、今では白布にベッタリな日向である。白布もその好意に満更でもなく、いつもふたりで行動をしている。

「けんじろーと隣とかラッキー!」

「日向が隣かー、」

「なんだよその反応!嫌なのかよー!」

「だってせっかく先生に目付けられない席になったのに、日向が隣じゃ意味ないじゃん。」

「うっ確かに…」

「まぁいいけど。」

そんな通常運転の言葉を交わす日向と白布に、あそこはホントに仲がいいよな等という声が飛び交う。


「けんじろー!学祭の出し物何がいいかな!?」

クラス委員になった日向は、次の時間決める学校祭の出し物について白布に尋ねた。まぁ授業中に色んな案が出るだろうが、ただ興味本位で聞いてみたという感じである。

「んー、できれば部活に支障出ないやつ。これ言ったら怒られそうだけどさ。」

白布は白鳥沢の中でも最も力が入れられている男子バレーボール部に所属しており、1年ながらにベンチメンバーである。部活は当たり前の如く毎日行われ、ほんの数秒でも行事などで練習時間を潰されたくない気持ちがあった。

「確かになー!うちの学校部活に力入れてるし、けんじろー以外にもそういう意見出そう。」

じゃあ何がいいかなー、と頭を悩ませている日向に白布はクスリと笑った。白布が日向と一緒にいる理由はきっと、先程のような率直な意見だとしても他の人に言ったら怒られそうな事さえも、否定せずに受け入れてくれるからであろう。そんなところが心地いいのだと白布は改めて感じた。



「てことで、食べ物系なのは決まったんだけど。次はこの喫茶店系か屋台系かを決めなきゃな!喫茶店系がいい人!ーーー」

日向の進行は以外にもスムーズで、決定も早く、結果としてはメイド喫茶となった。
そうと決まれば、時間を無駄にしないよう役割配分をしては各自作戦を練り始めた。
白布はというと、部活に支障が出ないよう極力時間内で出来る買出し係となった。買い出しは学校祭の準備時間ならいつでも出来るため、衣装係等の残らなくてはならないような仕事もなく案外楽である。ちなみに日向はというと、何故か女子にメイドをやれと脅されたため接客に回ることに。それに関しては白布も同情し、クラスメイトは腹を抱えているものが多かった。



白布は戸惑っていた。
買い出しを終えて教室に戻ろうとした時だった。そんな白布にドンッと誰かが抱きつく。その存在を確かめるべく白布は視線を下に向けた。そうすれば、派手なオレンジが飛び込む。

「うわぁーーーん。けんじろぉぉ!」

琥珀の瞳に涙を溜め、幼い顔をクシャクシャにさせて白布を見上げたのは、オレンジ髪を腰まで伸ばしメイド服を着ている女子ーーではなく、女装をした否させられた日向である。
日向は女子から逃げるように白布を引っ張り人通りの少ない階段下へ隠れる。
その間も白布は固まったままであった。
それもそのはず。女装といっても華奢で可愛らしい顔つきの日向は、どこからどう見ても女子である。そんな日向に抱きつかれた白布は、残念ながら今までに恋愛経験はなく(告白はされているが)至近距離であることに鼓動が早くなっている。
いつもと違う白布に気がつき、日向はどうかしたのかと首を傾げた。そこで白布はようやっと我に返った。

「ひ、なた。」

「おう!」

盛大なため息を零した白布は、顔に集まっている熱を冷まそうと顔に手を当て、鼓動を正常に戻すために深呼吸を何度か繰り返した。その様子にやはり何かあったのではないかと心配する日向。

「どーしたんだよー、まじで。」

「いや何でもない。日向こそどうしたんだよそれ。」

「うっ…」

白布は日向が接客をやるのは分かっていたが、まさかここまで本格的にやるとは思っていなかったため尋ねる。
日向も白布と同じ考えただったようで、今回も衣装を試着するまでは許容範囲であったが、その後の女子からの扱いは人形同然で地獄を見たと肩を落とした。
女子曰く、元々背も低く幼い顔つきの日向なら似合うと思っていたけど予想以上に可愛くなったからやっちゃった、とか…。


「日向ー!どこー!」

「逃げたなあいつ!」

女子の日向を追う声が廊下に響き渡る。
日向は体をビクつかせてはヤダヤダと白布に隠れるように抱きついた。
白布はそんな姿に、女装はしているがれっきとした男である日向なのにも関わらず可愛いと思ってしまった。自分自身でもそれに驚いた用で、これは女装のせいだと言い聞かせる事とした。



「賢二郎のクラスのメイド喫茶!レベル高ぇ!」

1年4組に入るなりそう声を上げたのは、男子バレーボール部2年を連れた赤髪の青年・天童覚であった。
天童に連れられてきた男子バレーボール部2年こと、牛島、瀬見、大平は体格の良さにかなり目立っていた。

「隼人くんも来れたら良かったのにね〜」

「まぁ仕事被ってんなら仕方ないだろ」



「ゲッ」

追加の買い出しを終えた白布は、教室を見渡しては短く嫌そうな声を零す。それはバレー部の先輩達、主に面倒くさそうな天童と瀬見を見つけたからである。
案の定瀬見は白布の失言にツッコミ、天童はメイドをやれと無茶振りを言う。白布は早く移動してくれと願いながら裏方に回った。


「けんじろー!けんじろー!」

元々器用な性格でなく接客が壊滅的と判断された日向は、客を集めてこいと看板を背負って教室を後にした。それから少しして、なんと男女関係なく多くの客を連れてきて帰ってきたのだ。女子はでかした!と日向を褒め、日向は俺すごい!?と嬉しそうである。
短いスカートを揺らして白布に駆け寄る日向。白布はそれに応えるように視線を向けた。

「俺ね!ちゃんと仕事できたみたい!いっぱいお客さん連れてきたぞ!」

興奮気味に笑顔をで伝える姿は可愛らしく、白布はそんな日向の頭を無意識に撫でる。日向が驚いたように白布を見たため、白布はやらかしたと頭から手を離した。

「なんか撫でたくなった。」

「こ、子供扱いすんにゃよ!」

「噛みすぎ」

白布は自身の失態に後悔をしたが、なんとか通常運転を取り返すことができたため胸をなでおろした。

「あ!そーいえば、学祭一緒に回るだろ?何時に休憩?俺はいつでも休憩していいって!」

「俺も買い出しだからもうほぼ仕事ないかな。だから今からでもいいよ。」

「まじで!じゃあ行こーぜ!はらへったー!」

時間を見れば12時を回っており、日向のお腹が減る訳である。白布は日向に腕を引っ張られながら教室を後にした。
その姿を見ていた天童はというと、春だね〜青いね〜と目を細めていた。


「けんじろー!何食べる?」

「俺はなんでもいい。日向こそ何がいいんだよ。」

「んー、ワッフルもいいしたこ焼きもいいし焼きそばもいいしー」

「じゃあ近いところから回っていくか。1番近いのはたこ焼きか。」

おーす!おーす!と嬉しそうに隣のクラスに向かう日向。それに微笑んでいた白布は忘れていたのだ。隣のクラスが誰のクラスかを。


「あれ、白布じゃん。」

昼時なためそこそこな人数が並ぶそこに日向と白布は足を向ける。その間も日向は白布に楽しそうに話をしているため、10分なんて秒で過ぎていった。
黒いTシャツに衛生面のためエプロンと三角巾を身につけた男が数人たこ焼きを焼いている。その中には白布と同じ部活仲間である川西太一もおり、すっかり忘れていたとばかりに視線を彷徨わせた。
別に川西を嫌っている訳では無い。どちらかと言えば、同じベンチメンバーで部活ではよく一緒に行動をしている程には仲がいい存在である。だが、白布は何故か会いたくなかったと思ってしまった。その理由が自分でもよく分かってはいない。

「そういえば5組か。」

「うん。」

「たこ焼き1つ頂戴。」

「まいどー」

川西はお金を受け取ると、手際良く出来たてのたこ焼きをパックに8つ詰め込んでトッピングをし、袋に入れて渡してやる。だがそれは白布にではなく、一緒にいた日向にだった。日向はたこ焼きに喜んでみせてはお礼を言う。
川西は熱いから気をつけて食べなよ、と日向の頭を撫でた。その瞬間、白布は一気に不機嫌になり眉間に皺を寄せる。その時何故川西に会いたくなかったか理解をした。日向を誰かに合わせたくなかったのだ。白布にとって大切な存在な日向を誰かに会わせたら、日向の事だいつものコミュニケーション能力ですぐに仲良くなるだろう。それが白布は許せなかったのだ。
だから今度は白布が日向の腕を引っ張って歩いた。

「けんじろー?そんなに腹減ったのかよー!」

「…まぁそういうことにしといて」

「?おう」

これは確実に嫉妬であった。白布は自身の心の狭さに唇を噛んだ。