# 01
それは、現役アスリートにかけられるには
あまりにも残酷な言葉であった。
「あれっ? 翔陽くんちょい太った?」
「………………えっ?」
日向翔陽はプロの現役バレーボール選手である。日々過酷なトレーニングをこなし、試合となれば誰よりも縦横無尽にコートを駆け回る。
セッターがセットアップの体制に入れば、結果誰にボールが上がろうと、いつだって「ボールは自分に上がってくる!」と信じて全力で飛ぶ。
ついた通り名は 《 最強の囮 》
恐らくコート上の誰よりも運動量が激しいであろう、そんな彼が太るなど ──
「あってはならない事ですよね!?」
「しょうようく、」
「プレイに! 支障もっ! 出るのにっ……!」
「いや、やからな? あれは言葉のあやっちゅうか……なぁ聞いとる???」
場所はMSBYブラックジャッカルの選手が通うトレーニングジム。
ガシャンガシャンとトレーニングマシンの忙しない音がする中、音の合間を縫って絞り出すような声を出しているのは我がチーム期待のルーキーであり、オポジットの日向翔陽。
そんな彼の周りをちょろちょろと動き回り、身振り手振りで必死に話しかけているのは、こちらも我がチームになくてはならないイケメンセッターの宮侑だ。
そのイケメンが、現在随分と情けない顔で、やからちゃうんやってぇ!やら、話聞いて!? などと話しかけては自分より歳下のチームメイトに袖にされている。
宮と日向と言えば、うちのチームプレイにおいて相棒とも言える間柄だ。
コートの外でも、新人の日向を目にかける宮はさながら日向の兄貴分と言ったところか。そして曲者だらけ(まぁ主に妖怪世代とされる4人の事だが)のジャッカルにおいて自ずとツッコミに回ることが多く、またその渾身のツッコミをスルーされる度に打ちひしがれている宮に、目を輝かせた日向が「侑さん面白いっす!」などと拳を握る場面も多々目撃されている。
そんな2人の間柄はチームメイトであれば誰でも知るところであると言うのに、この状況はいかに。
チームのキャプテン、明暗修吾は普段の2人であれば有り得ない光景に目を瞬かせ、近くを通りかかった犬鳴シオンを引き止めた。
「……あれ、何なん?」
「あー……何か宮が日向に余計なこと言ったみたいで」
明暗が顎でしゃくった方を一瞥した犬鳴が表情を変えることなく放った一言に首を傾げる。
「余計なこと?」
「あれぇ〜? 翔陽くん太ったァ? とか何とか」
「はぁ? 日向がか?」
日向はバレー選手の中では小柄な部類に入る。うちのチームでも、この犬鳴と並ぶくらいの……と一度犬鳴を見下ろせば、自分を見上げる瞳が、何だよ? とでも言いたげな目をしているのに気づき、慌てて視線を戻す。
……とにかく。そんな日向ではあるが、バランスよく筋肉がついた身体に、加えてあの運動量だ。食べても食べても太らない、と言われても何ら不思議ではないくらいだが……
「パッと見分からんけどなぁ〜」
「俺もっす。けど、日向も思い当たる節があるみたいで……」
そもそも、宮はなんで気づいたんだって話ですけど。
呆れたように宮を見やる犬鳴に、確かに……と同意を示し、可愛い後輩に対しいささか過保護のきらいがある宮を訝しい目で見る。
未だトレーニングに勤しむ日向とその周りでついに詫びを入れだした宮に、オーバーワークには気をつけるよう後で声でも掛けとくかと、明暗はこの会話を終了させて自身もトレーニングに取り掛かる事にした。